煮たものフーフー
これは何だ?
すごくいい香りが漂う。
鍋とフタの僅かな隙間から、溢れ出す蒸気。
グツグツと音をたてて煮えたぎる。
覗いてみると、幾つもの茶色い物体が苦しそうにしていた。
蒸気が顔の皮膚に張り付き、しっとりさで覆ってゆく。
妻の料理上手の一面は知っている。
妻の珍しいもの好きも知っている。
妻のイタズラ好きも前から知っている。
でも、妻が煮ているものが何だか分からない。
「出来たわよ」
妻に呼ばれて、食卓に着いた。
そこには、どんぶりご飯と大皿に盛られた大量の煮込んだ茶色が積み上げられていた。
ご飯と煮物だけなのはまだ許せる。
でも、いつもはもっとカラフルだ。
いつもはニンジンやパプリカがあって賑やかだ。
こんなに地味なのは、初めてかもしれない。
「どうぞ。熱いからフーフーしてね」
そう言われ、言われるがまま息を放つ。
すると、茶色はみるみる変化していき、レインボーカラーに落ち着いた。
「これ、少し冷ますとカラフルになるの」
「そ、そうか」
妻が、未来人ではないことを、祈らずにはいられなくなった。