第五話:彼氏イナイ歴イコール年齢?
やりすぎたかも……。
「……はぁ」
職場の休憩室でため息を吐く。
アイアンクローはやりすぎた。
目を覚ましたあとの、説教もダメだった。
四年も付き合っているのに、好きな食べ物を答えられないとか。
そこらへんをめっちゃ叱りつけたけれど、カズくんの男のプライドとかメチャクチャに傷つけた気がするし。
「どうした?彼氏に振られたか?」
頭に手が置かれる。
びっくりして跳び跳ねそうになったけど、声の主が先輩の村上信彦さんだと分かった段階で、驚きもしぼんでしまった。
「先輩……驚かさないでください。……彼氏なんかいませんよ。知っているでしょう?」
新入社員の歓迎会で、年末の忘年会で、毎回毎回彼氏イナイ歴イコール年齢と言わされ続けている事を思い出して、沈んだ気持ちから、さらに嫌な気分になった。
俯いた私の頭を、先輩に撫でられ、髪を撫でられ、一房持ち上げられる。
なんだろう? ものすごく慰められている気がする。
「いつも適当といいながら、髪は手入れの行き届いた綺麗なストレートロングだし、顔立ちは穏やかそうな可愛い系だし、背丈や体格は守ってやりたいと男心をくすぐるものがある。……今まで男に放って置かれたのが信じられないな」
「……っ!?」
バックステップ。
壁に激突する勢いで先輩から離れる。
息が苦しい。薄い胸に手を当てると、心臓が限界突破する勢いでフル稼働していた。
「どうした?」
穏やかな顔で、何て事言うんですかこのイケメンは!?ああ、心臓の音がうるさい!
「ど、どうしたじゃないですよ?なんですか?急に」
防音設備の整った個室というわけじゃないので、あまり騒がないように、しかし、言いたいことは強く主張させて貰う。
『人付き合い苦手な喪女ですよ?女扱いされないちんちくりんですよ?すとーんのまな板ですよ?勘違いしちゃいますよ?』
……心の中で。
言葉にして騒ぎまくりたいけど一言も出てこなくて、掛けられた言葉の一つ一つが嬉しくて、けれど、今、職場の休憩室なんかで聞きたいことじゃなくて。
先輩に対して失礼だけれど、睨み付けさせて貰う。
「世の男は、見る目がない。そうは思わないか?」
先輩が、静かに距離を詰めて、
そっと壁に手をついて、
指で、私の顎を持ち上げて、
……顔が、ゆっくりと近付いて……
「お?村上?なにやってんだ?ナンちゃんイジメてんのか?おれも混ぜろや」
腰が抜けそうなほど、脱力した。
気が抜けそうなユルい声をかけながら休憩室に入ってきたのは、村上先輩の同期で、自称みんなのトモダチ。名前は……なんだっけ?
あ、ナンちゃんいうのは、私の名字「南城」からとって、ナンちゃんだそうな。
「南城の気分が悪いらしいが、頑なにそれを認めようとしない」
あ、今腰が抜けた。
壁に背を預け、村上先輩のスーツをぎゅっと握って、しゃがみこむのを何とか阻止。
「ほんとかあ?あやしいぞ?」
ニヤニヤ顔の同期さんと、
「そうか?」
なんて言ってる先輩と。
先輩のスーツから手を離してズリズリと座り込む私。
もうやだ。逃げたい。
同期さんのいやらしく笑う目から逃げたくて、両手で顔を覆う。
その、私の手をそっとどかし、先輩の手が頬に添えられる。
「うん、熱があるな。立つ事も出来ないようだ」
ねぇ先輩?熱を測るなら、額に手を添えるんじゃないです?
「じゃあ、お姫さまをベッドへ運ばないとな?王子さま?」
お姫さまとか王子さまとか、誰の事です?
「南城を医務室へ運ぶ。あとは頼む」
膝と背中に手を回されて、持ち上げられる。
これ、お姫さま抱っことか言いません?
わっ、わっ、わーっ。
なにが起きてるんです?
「おとなしくしていなさい」
と言われ、黙って運ばれることにした。
人生初のお姫さま抱っこを堪能します……。
抱っこされたまま、医務室まで運ばれる。
ここには、看護師免許(あれ?)を持っている女性社員か、定年退職した医師が常駐している。
その人たちは、風邪薬や湿布なんかを出すだけで、本格的な診察はせず、寝てもダメそうなら病院に行けと言われる。
で、ベッドは個室な上、寝てる社員にイタズラ出来ないように、内側からカギが掛けられるようになっている。
うん?先輩?なんでカギ掛けるんです?
なんで上着脱ぐの手伝ってくれるんです?
ありがとうございます。
あ、お水ありがとうございます。
甲斐甲斐しく世話されて、なんだか本当にお姫さまになった気分を味わったのでした。まる。
この後、メチャクチャ看病された。




