チュートリアルダンジョンについて
『…で、なんでそんなことを俺に話すんだ?』
「いや、何となくそう思ったってだけの感想文だ。特に意味はない」
『まあ、お前ってロマンとかそういうのガラじゃないしな。ひたすら真面目に仕事してるほうがお似合いだ』
「俺もそう思う。だが、後輩の言うことも一理ありそうだと思ってな」
ぼんやりそう言うと、電話の向こうからいぶかしがるような唸り声が聞こえた。
『何を思いついたんだ?』
「いや、別に大したことじゃない。今の世の中、未知なんて単語、よほどマニアックに調べないと見つからないんだ。そういう意味じゃ、あの『TOWER』事件も悪いことばかりじゃないのかと思ってな。宇宙人襲来なんて未知のロマンのある話だろう?」
『そういうのは迷惑っていうんだ。もしくは商売人の発想だ。俺がそのせいで余計な仕事抱える羽目になってるんだぞ?』
なんとこの男、今回の広域災害対策委員会に入ったらしいのだ。何をどうしたのか知らないが、トラブルを起こさないことを祈るばかりだ。すでに数人、政治家だか官僚だかをやり込めたらしいから、手遅れかもしれないが。
「面倒だと思ったら絶対受けないくせに、何言ってるんだ?」
俺の指摘を、電話の相手、塩屋京一は鼻で笑ってきた。
会社で戸田と別れた俺は、騒がしい街を歩いて、無事に自分のアパートへと帰還した。
部屋の片隅に持ち帰った仕事とパソコン、あとはテーブルとソファー、ベッドがあるだけの自分で言うのもあれだが地味な部屋だ。
そんな部屋のベランダでコーヒーを啜りながら、俺は腐れ縁相手になんとなくそんな通話をしていた。
『俺にも色々気になることがあるんだ』
「お前が気にならないことなんてあったのか? 具合が悪いとか聞いてたが、絶好調で何よりだ。そういえば、千代ちゃんはどうしてる?」
『ひとまず、水城先生のところに預けてある。カウントダウンのことに関しては、だいたいお前の推測どおりだ』
「やっぱりそうか。まあ、常識的に考えればな…」
『ああ、常識的に考えれば、な』
そこまで言って、どちらからともなくため息が出た。もうこの状況が非常識なのは暗黙の了解だ。
『正直、何が起きるか全くわからん。俗説通りにダンジョンが急にできるかもしれん。何かが起きるかもしれない。おこらないかもしれない。わかってるのはそれだけだ』
クックと皮肉げな笑いがスピーカーから聞こえる
『まあ、答えはもう直にわかるだろう。あと五分だ』
時計を見ると、もう一時十分を過ぎていた。部屋から見える限り、まだ宵の口なんじゃないかと思うくらい周りの部屋や家々の窓には灯りが見える。
「じゃあそろそろ切るよ。知りたいことは分かったか?」
『ああ、個人のステータスをもっと調べたいんだが、あーだこーだうるさい連中が多くてな。知り合いのデータだけでもあれば助かる。自衛隊の被験者だけじゃ似たかよったかで足りなくてな』
「それ正しいかどうか判断つくのか?」
京一がこんな時間に連絡してきた最大の目的は、俺のステータスだった。時間まで待機してるのが暇だったらしいが、それにしても他人には見えないデータなんて大丈夫なんだろうか? 人によっては盛るだろうに。
『方法があるんだ。まだ実験段階だがな。それに知り合いのデータを掛け合わせれば、盛っていようがいくらでもわかる。お前は正直者だな。多少鈍ってそうだが』
「居合の道場なんてもう何年も行ってないよ。まだ多少で済むのか?」
『この辺はまだ若いからだろうな。今のところ平均的衰えだと言える。予備役連中も被験者にしてるんだ。それに似てる』
「話して良いのか? 個人情報だろう? お前の巻き添えで喰らいこむのはごめんだぞ」
『法律か裁判の判例が出来るまでは問題ないさ。つーか、今までの法律をまともに適応できない。頭の悪い話が嫌いなのは知ってるだろう? 勘弁しろ』
そう言って不敵に笑うあたりが、こいつのこいつな所以だなとつくづく思う。
俺と京一が言っているのは、今日の夕方にやっていたニュースの件だ。まあ、要するに、これがある種の個人情報で、という話だ。どこかの専門家が言っていた。実際問題、これが正確なら、かなりプライベートな話になるだろう。
そんなこと知ったことかと調べるのがこいつなのだ。
「…話が終わりなら、もう切るぞ? そろそろ最後の時間を静かに迎えたいからな」
『つれないね。なんか聞きたいこととかないのか? 今や俺も国の面倒事を引き受ける身だぞ? 多少は融通聞くぞ?』
こいつがステータスだのを調べられるのは、どういう経緯か、例の広域災害対策委員に何故か名を連ねたからだ。本当になんでこんなのを役所なんかに入れたのか。優秀だが、頭の固い連中の受けはまったくないようなタイプだ。
今からこれではこれからどうなるやら。
「…そういうのを職権乱用っていうんだよ。なんの気まぐれだか。…ああ、じゃあ一つだけ」
『おお、なんだ? 新しい仕事でも紹介してほしいのか?』
「そういうのは間に合ってる。『TOWER』の件だ。あれからニュースでやってる以上の進展ってないのか?」
あれだけ『TOWER』に『HOPE』にと騒いでいたのがなんだったのかと思うくらい、その名前は急速に報道から消えた。ホームページがいくつも閉鎖され、街にあった『ほーぷくん』ポスターは引っ剥がされた。あの騒動は見る影もない。
一応各国の南極基地が『TOWER』の観測記録的なものを公開しているが、夏休みの絵日記のように何一つ進展がないのだ。
せせら笑うような京一の声が聞こえた。
『あれか。あれはあのままさ。しばらくなんの進展もないだろうな。仮に落ちても、あの高度ならなんの問題もない。南極研究してる連中には悲惨だろうがな。以上放置って感じだな』
「やっぱり難しいのか?」
『ああ、観測してたスペックそのままで、ものは『TOWER』で間違いない。だが今居座ってるのはほぼ南極の極点。どこの国の領土とも言えん。それを乗り越えて未知との遭遇をしなきゃならん。そうでなくとも零下80度の世界に軍隊派遣はしたがらないだろうさ。幸い衛星で二四時間監視してるが、今の所謎のロボットもグロい怪物も確認されてないしな。そんな厄ネタ放置するにかぎる。そういうことさ』
「あとは、金の問題か?」
『それもある。『HOPE』作るのにバカみたいに使ったからな。どこの政府も火の車だ。おまけに責任者が行方不明と来た。このバカ騒ぎがもうしばらく続いてくれることを祈ってる連中が多いだろう―――ああ、わかった』
電話の向こうでなにか催促するような声が聞こえた。ちっと鋭い舌打ちの音が聞こえる。
『ああ、名残惜しいが、戻る時間だ。生きてたら、また会おう。ああ、そうだ』
「ん?」
『金になる話っていうのがロマンになるか知らんが、お前の後輩の言っていた話はあながち外れちゃいない。ダンジョン産の何かがあれば、多分金になるぞ?』
「それは何の話だ?」
『つまり、自己責任で勝手に調べる分には、今の所ストッパーはなにもないって話さ。じゃあな』
通話を終え、ため息を付いてコーヒーを飲みほす。
すっかり冷えた液体が気持ちいい。
一時二十三分まで、あと三分だ。
部屋に戻り、カップをテーブルに置いて、ソファーに座る。
もうすぐ、カウントダウンだ。何が出てくるやらとはいえ、やれることがない。なにか起きないかと警戒し、気を張るだけの時間だ。
外を見ればパトカーが何台もパトロールをしていた。何かあれば駆け寄ってくださいということらしい。しかし、それで対応できるのかどうか…。
スマホをなんとなく見れば、千代ちゃんや戸田からそっちは大丈夫かというメッセージが来ていた。大丈夫かどうかと言われても、今のところは、と答えるしかない。そういえば連絡しようとしてたところに、京一から連絡が来たんだったか。
「ひとまず、大丈夫ですよ、かな?」
連絡を、と思っても、何を送ったものか?
そっちは大丈夫かいとでも贈ろうか?
そんなことを考えていれば。
「…もう時間なんだよな」
なにごともなく時間が過ぎてしまった。
時間は一時二十三分。いつもどおりなら、カウントダウンが進んだ頃だ。
なんとなく外を見てみるが、ざわつきこそ聞こえるものの、これと言って悲鳴が上がるとか、そういうバイオレンスな様子はない。ためしにニュースサイトを覗いてみても当たりなし。動画タレントが外をうろついていて、何も変化ないじゃないかと騒いでるのが見つかったくらいだ。
なんとなくため息が出た。思ってたより緊張していたらしい。少なくとも、今のところ何も起こっていない。
ひとまず、ステータスを開いてみる。
――――――――
NAME:赤羽 修司
LP:――
MP:26
STR:15
VIT:13
INT:11
DEX:14
AGI:14
SKILL:
QUEST:☓
(HELPMENU)
――――――――
何も変わっていない。
ここまではいいだろう。
こんどはヘルプを開いて、『ダンジョンについて』を見てみる。予想通り、(1)は消えていた。
試しに開いてみると、読めない箇所がなくなっている。そこにはこう書かれていた。
――――――――
ダンジョンについて
ダンジョンは魔素溜まりより生まれるものである
それは周囲をダンジョンに変え、モンスターを吐き出す
ダンジョンを壊すためには、魔力溜まりを破壊すればいい
ダンジョンは様々な資源を供給する
そこでは不治の病を治す薬、人智の及ばぬ力、巨万の富が手に入る
《チュートリアルについて》
――――――――
「…ゲームかよ」
あれだけもったいつけた割には、簡素な文章だった。
そして簡潔さの中に、胡散臭さを凝縮したような文章だ。
まあ、そこに関しては、ひとまずおいておこう。
それより何より、このチュートリアルだ。思わず舌打ちが出た。
結局行われたのはアップデートらしい。だが、どうやってやったのか全くわからない。スマホアプリみたいだ。どこからか受信してるんだろうか? なにから? どうやって? 人間にそんな機能はない筈だ。
考えだすとキリがない。
大丈夫か、これ?
チュートリアルがある、ということは、誰かがそれを用意したということだ。
じゃあ、その誰かってなんだ?
何となく考えることを放棄したくなって《チュートリアルについて》に意識を向ける。相変わらず電球がつくような音とともに、簡単に開いた。
―――――――
以下のセンサー上のダンジョンにおいてチュートリアルを受けることができます
内容は簡単な戦闘、アイテムについてとなります
《チュートリアルダンジョンを探す》
―――――――
これは親切なんだろうか?
さっきの胡散臭い説明から、今度は内容を教えてくれると簡潔に書かれている。
これを信用すれば、ダンジョンがどういうものか体験させてくれるということになるが、本当にゲーム感覚だ。
答えの出ない疑問に頭を捻っていると、スマホが震える。画面を見ると、戸田だった。
『主任無事ですか?』
「いきなり用件に入るな。そっちはどうした?」
『どうしたもこうしたも、連絡しても返信がないから掛けたんですよ。大丈夫です?』
「特にはなんともないな。アップデートで途方に暮れてたくらいだ」
『見てみてください。結構面白いですよ?』
「お前は躊躇がないな…」
ステータス画面をいじるのを政府やらで禁止できないかというのが話題に上がったことがあったらしいが、他人から見ればすこしおかしな挙動をしているように見えるだけだ。しかも部屋の中では対処のしようがないというのですっかり放置されている。
それをいいことにこいつは…。
「一応、何かあるのかもしれないんだから注意しろよ?」
『その時はその時です!』
振り切れてるなぁ…。
後輩のアグレッシブさに少し呆然としてしまいそうだ。
それに釣られるように『チュートリアルダンジョンを探す』を開く。
「…なんだこれ、レーダーか?」
『すごいですよ、これ!』
興奮気味の戸田の声も最もだ。
『チュートリアルダンジョンを探す』の中身は、レーダーとしか言えないものだった。
青い画面の上に大きな円が出て、その中を緑の線がぐるりぐるりと回っている。昔の映画で見た、船のソナーのような印象だ。
あれは確か、船の上でぐるぐる回っているのがそのままセンサーになってるんだったか。あの感じだ。
そして、そのレーダーにはもう反応が、ある。
「…多くないか?」
『やっぱりそう思います? というか、これもう出来てるってことなんですかね?』
このレーダーはどういう仕様なのだろう?
中央に目盛り付きの十字が書いてある。そこに1000という数字が付いていて、数字の横にプラスとマイナスのアイコンが有る。中心から伸びた光の線が、ぐるぐると動いている。
地図情報がないためなんとも言えない。言えないが、少なくとも見える範囲で反応が3つはあった。
「こんなにあるのか?」
『今、ゲーマー仲間と街を歩いてるんですけど、多分だいたい今のレーダー、1000メートル表示ですね。というか、主任のところ多いですね。こっち反応二つくらいしかなかったのに』
「二つもあるの間違いだろう? というか、もうそんなことしてるのか?」
『ええ、規制されたら後で困りそうですから。チュートリアルっていうんならやらせてもらおうかと。先輩もどうです?』
「おい、間違いなく危険だぞ?」
『覚悟の上です!』
酔ってるんじゃなかろうか?
「…頼むから、遺体発見とか、そういうのはやめてくれよ?」
『チュートリアルなんで、たぶん大丈夫です! 他の人とのトラブルとか、色々シミュレート済みです!』
そういう事を言いたいんじゃない。
『それに表示されてる光の点が、チュートリアルの目印みたいなんです。いま着きましたけど、近所の廃屋ですねこれ』
「廃屋?」
『そこに、表示されてますね。結構前から人住んでなかったのかな? …あ、やっぱり?』
なにかぼそぼそと話す声が聞こえる。なにか仲間内で話しているらしい。というか、なぜ実況されてるんだ俺は?
『いやー、なんかあったら通報してもらえるじゃないですか?』
「そういうのは、他の相手に頼め。職場の先輩を引っ張り出すな」
『先輩こういうの面倒見いいじゃないですかー』
騒ぎ声の向こうで、なにか錆びたものをこするような引っかく音と、がさがさと草を踏むような音がする。
「お前、まさか、不法侵入してるわけじゃないよな?」
『いえ、ちょっと気になることがあったので、覗いてるだけです!』
頭が痛い。
聞かなかったことにして切ってしまおうか?
『中は、普通の廃屋ですね。というか、本当に普通…。センサーだと…、え、これ本当にあるの?』
「お前な…」
『…え?』
流石に止めるかと思って、口を開きかけたとき、向こうから気の抜けたような声がした。
「おい、どうした!」
『あー、いや、たぶん…ねーこれかな?』
向こうでなにか相談でもしてるんだろうか?
少しボソボソ話し合う声が聞こえる。
「なにを見つけた?」
『今スマホで送りますね』
電話口からカシャッと音がした。こいつ通話ボタンつけたままか。
少し待つと、それが送られてきた。
「水晶玉か?」
『写真にあるみたいに、これがあるんですよね。廃屋に』
そこはぼろぼろの部屋の中だった。人が住まなくなって何年も経っているのだろうか。ふすまや障子が穴だらけだ。築何年なのか、床に写っているのが畳だったりするあたり、昭和かそのへんのものかもしれない。相当古い家だ。
その、おそらく今で言うリビングのような部屋、穴の空いたブラウン管テレビや、朽ちた戸棚がある中央、ちゃぶ台の上、そこに、水晶玉が直に置かれていた。それは写真で見る限り、青い光を出しているように見える。
「センサーに写ってるのが、それなのか?」
『みたい、ですね。今、位置的に私の前にあるのがこれですし。他になにもないですし。…先輩もなにげに気になってます?』
「うるさい。というか、それ、電気で発光してるのか? LEDとかないのか?」
『見た感じ、何もなさそうですね。充電式ならどこかにバッテリーが内蔵されてるはずですけど、見た感じそういうのでは…。あれ?』
「どうした?」
『いま、この、ちゃぶ台? 動かそうと思ったんですけど、びくともしなくて…。ちょっと、手伝って』
また向こうでがやがやが始まる。何人くらいで行っているんだろうか?
しばらくあーでもないこーでもないと言い合うような声が聞こえ、また戸田が戻ってくる。
『だめですね。全く動きません。というか、家の家具がほとんどすべて動かなくなってます』
「家具が?」
『ここ、ほとんどすべて、ですね。テレビも戸棚も移動しようにもびくともしません。あと壊せません。障子の紙も破けないです』
「…どういう仕組だ、それ?」
『うーん、仲間いわく、空間固定、とか?』
「…どういう仕組だ、それ」
『知りません』
なんだか脱力するような話だ。俺は担がれてるんじゃなかろうか?
『なんか疑われてそうなので、後で動画と一緒にご覧に入れますよ。とりあえず動かせるのは、受話器ぐらいですかね? 黒電話ですよ。年代物です』
「…よく他人の家でそこまで好き勝手できるな…」
『だいぶ前から肝試しスポットらしいですよ、ここ。その延長線だと思えば大したことないかと』
「お前は怖いもの知らずの学生か何かか?」
『それくらい若いってことです。…うん、やろう』
説教しなきゃならないか考えていると、なにか向こうで決まったらしい。こいつら人の話聞かないな…。
『とりあえず、人が来ないうちに水晶玉に一回触ってみようかと思います。公式発表もないみたいですし。それで何もなければ一回帰って情報待ちしようかと思います』
「…そうしとけ。パトカーに見つかるなよ?」
『そこはうまくやります! あと一回切って、一五分経ったらまた連絡します!』
「そんなに用心するならやめとけ…」
『先輩だったら出てくれます! あ、住所はさっきの写真と一緒に送りましたので。ではまた!』
また張り上げられた声のあと、ぶつっと耳元で音がした。一応住所を教えるあたり抜け目ないというべきか?
後輩からの厚い信頼と考えるべきか、今はパワハラとうるさいが、げんこつを落とすことを考えるべきか…。
俺は脱力感でソファにぐったりともたれかかった。
本当に非常識なことになったらしい。
後輩の言うことを聞けば、間違いなくおかしなことが起きている。なんだ空間固定って。何だあの水晶玉。障子紙が破れないってなんだ?
確かめに行きたい気持ちと、馬鹿なことはやめておいたほうがいい気持ち、ふたつが頭の中でせめぎ合っている。後輩の情報待ちをしてからでもいいような気がするが、おそらくすでに警察が動員されている頃だろう。
さっき見た限りで、チュートリアルダンジョンはかなりの数があった。もしこの数の分布をしているなら、おそらく明日は大騒ぎだろう。明日の朝までには何かしら規制が入るはずだ。そう考えると、確かめるなら、今だ。
そこまで考えて、思わず自嘲の笑いが出た。
あれだけ説教臭いことを言って、自分でその気になっていれば世話がない。
やっぱりやめておくべきか、それとも後輩の様子を見に行くべきか。一回落ち着くためにポットに入った残りのコーヒーでも飲もうと、カップを俺は手にとって、前につんのめった。