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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
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相談について

「飽きたっす!」


 ホテルの部屋で新聞を読んでいると、そう言って『フライス』が飛び込んできた。数日行動をともにしていてわかったが、彼は割りかし衝動的に動くことがある。

 別にそれはいいんだが、こうやって飛び込んでこないでほしい。割と動きがいいから結構な大きな音が出るのだ。よその部屋の迷惑になる。


「フライスくん、もうちょっと静かに入りな」


「でも、ここ何日もスライム潰してスライム潰しての毎日ですよ? いい加減飽きませんか?」


「そうは言ってもね…」


 もちろん、フライスの言いたいことはわかる。実際やっていることは、外を散歩して、スライムを潰して、しばらくウンウン唸ってという実に簡単なルーチンワークだ。しかも記録係が別にいるので、日誌も書く必要がない。

 正直、これで元の会社に戻るとなると、結構きつい気がする。長期休暇と思えば悪くもないが。


「今の所、こっから先のステップはないからねぇ…」


「でも、洞窟が見つかったって噂になってるじゃないですか…。そっち行きたいっすよ」


「気持ちはわからなくもないよ?」


 フライスはゲーム感覚で今の状況を楽しんでいる。始まりの村でレベル上げをしたら、次は冒険に行きたいのがプレイヤーの心情だろう。ただ、今ここでやっているのはそこではないのだ。

 

「君も、契約書類の中身は見ただろう? 中身は覚えてる?」


「え、なんてありましたっけ?」


 彼は色々大丈夫なんだろうか?

 俺は内心ため息をこらえながら、改めて今の状況を説明した。

 俺たちが協力という名目で参加している実験の正式な名称は、『深部研究領域におけるスキル使用可否研究』だ。

 被験者は、主に動画でスキル習得を公にしてしまった人間や、数人の運のない公務員、もしくは、俺みたいに身内的なノリで協力してくれる人間から選ばれている。

 そして、実験内容は京一の研究の副産物として出てきたスキルを使おうとすることで活性化する脳波の状況以外にも、多角的に検証するとなっている。

 レベル上げ的な今のスライム潰しも結局その工程の一つであり、いままでまったく存在せず、突然現れたスキルなんてものが本当にあるのか。まずそこを調べるのが目的だ。

 その間の身の安全は保証されており、新しく発見された洞窟の探索なんて、冒険者的な要素は含まれていない。つまり。


「どんなにつまらなかろうが、ひとまず実験に協力しろって言われれば、それについていくっていうのが、俺達の仕事なんだよ」


 そう言って、ルームサービスで取ったコーラをフライスに渡した。

 長い話になってしまったが、その間もフライスは不満顔だ。


「でも、俺がやりたいのそうじゃないんすけど…」


「気持ちはわかるよ? 俺も一通り、とは言えないかもしれないが、こういう小説を読んでみた。ただ、今は準備期間なんだ」


 おそらく、うちの戸田もそうだが小説的な冒険者稼業にあこがれている。その気持はよく分かる。いまのこのよくわからない事象に関わって、それを調べるという作業は、本当に魅力的だ。

 ただ俺も読んでみたが、ああいうのはシステムができてからの話だ。

 おそらく、ダンジョンの資源は人類には魅力的に映るもので、将来的にはそういう仕組みができるだろう。

 ただ、いまの状態はなにをするにも手出しするには少々心もとない。現れるプロセスと、定着している仕組みが理解できていない。そういう仕組がわからないと、大型の投資をするには少々二の足を踏む。だからまずはそこを解明しないといけない。

 泉田さんなどの企業群が先に手を出しているのも、仮に消えてしまってもこういう仕組みは理解しておけば予め手を出しやすいからだ。

 なにせ、空間固定に傷が一瞬で治る傷薬や、謎の仕組みで体が鍛えられる謎のシステムだ。解明すれば、間違いなくカネになる。

 大学の方でダンジョン関連を推奨させているのは、そのあとで後詰を送りやすいようにするためだ。もしだめになってしまっても、学生のいい経験になるだろう。金があるからこそできる荒業だ。

 そして、そういったものの地ならしの現場が、俺達のいるここだ。


「だから、そういうことがしたいのなら、とにかく今はこの被験者期間を無事に終わらせないとね?」


「…でも、それって冒険者っぽくないすよ?」


「だろうとは思うよ。だけど多分ここで大怪我しちゃうと、ダンジョンの一般開放が遅れちゃうんだよ」


 ただでさえもこのダンジョンを気味悪がる人は多いのだ。ここでけが人でも出してしまえば、それを嗅ぎつけたマスコミが騒いで面倒になるのは目に見えている。

 ひとまず一ヶ月、中に何人も送り込みましたが、けが人は出ませんでしたという実績作りをしたい部分もあるはずなのだ。

 一回開放してしまえばここの資源的な価値であとはどうにでもなるが、その前に潰れてしまうのだけは避けたいに違いない。

 だから自衛隊の重原さんはあんな大げさな謝罪のやり方を取ったのだろう。あの人もそんな利害の板挟みになって大変なはずだ。とりあえず俺に黙っていてほしいに違いない。

 ならばここを無事に終えてやるのが、その後に来る『お楽しみ』の時間には必要なのだ。


「…というわけなのさ」


 そんな話をフライスが来てから一時間ほどしていた気がする。なんだか会社の後輩と話しているような気分だ。

 適宜説明し、質問があれば返し、コーラおかわりいいですかと言われれば、取ってやる。懐が傷まないから楽に鷹揚な先輩ムーブができるのがいい。

 話を一通り終えたあと、フライスは俺の話を咀嚼しているのか、うんうんと椅子の上であぐらをかいて唸っている。

 俺がコーヒーを飲み終える頃、ようやく顔を上げた。


「…わかりました。もうちょっと頑張ってみます」


 来たときの騒ぎとは打って変わった様子で、フライスは落ち着いたようにうなずいた。

 俺もおれもこくりとうなずく。

 頭が悪いわけでもないようだし、フライスはかなり素直だ。素直すぎて不安になる。京一が言っていたことも、あながち間違いじゃないのかもしれない。


「そう。それに、ここで地道にレベル上げすれば将来的に、あー、俺TUEEEで始められるしね」


「ですよねー! 明日からもっとスライム潰します!」


 そう言ってやるぞーと気勢を上げている。

 こういうのが若さなんだろうか? 

 俺が若干たそがれていると、あ、となにかに気づいたように声を上げた。


「…アイツラにも注意しといたほうがいいんですかね?」


「アイツラ?」


 唐突に一体何だ?

 俺が聞いてみると、フライスは声を潜めるようにこちらに寄ってくる。やっぱり距離感近いなと思う。


「あの噂知ってます?」


「新しい入口が見つかった話だろう?」


 自衛隊はダンジョン内の潜行探索も行ってる。俺らの護衛とは別件だ。その辺の法律的な処理はともかく、地理的には川の反対側に向けて歩いていっているらしい。

 駐屯地内の地図で見ることができるのだが、今俺達のいるダンジョンはどこまで行っても森になっているのだとか。毎日おおよそ五キロ分ずつ広がっていく地図だが、そこにはただ緑が広がっていくだけだ。どこに果てがあるのかわからない。ただ、どこに言っても出てくるのはスライムなのだとか。

 それに変化があったのは最近の話だ。

 キャンプから南西に30キロほど行った地点に、俺達がダンジョンに入ったときのような祠が見つかったらしい。中は暗い階段になっている、らしい。

 混同されがちだが、結局、中の探索と、俺達の実験は別扱いだ。情報はなんだかんだと遮断され、そんな物があった、という話を小耳に挟む程度になっている。


「聞いたけど、どうしたの?」


「いや、長池って知ってます?」


「うん。知ってるよ?」


 言われれば思い出す程度だが、被験者の一人だ。

 動画内容は、なんというか、試してみた? とでも言うのか。とにかくいろいろ、何かのジョークグッズだったり、何かよくわからない健康食品だったり、試して、それを動画として流すことを生業にしているそうだ。なかには町中を騒がせそうなものもあった。

 ここにいる被験者で会話したことがあるのはひと通り投稿内容を見たが、なかなか特徴的な口調でしゃべる男だった。自分の趣味じゃないなと思いながら、ひと通り見てみた覚えがある。


「彼がどうかしたの?」


「いや、実はそこの探索を俺たちにやらせるべきなんじゃないかって言ってるみたいでして」


「俺たちっていうのは、つまり被験者に?」


「そうみたいっす。なんかホテルのそこの部屋に何人か集まってましたよ?」


 どこかわからない場所を指差しながらフライスが言う。


「…まあ、そんなこともあるかもね」


 俺はいまのスライム踏み潰し生活に満足しているが、さっきのフライスみたいな思考に行ってしまう人もいるだろうと思う。

 だが、それはさっきフライスを説得したように無理な話だ。順序が違う。


「でも、流石に無理だよ?」


「無理でもやってみたいって思うものなんすよ」


 フライス自身が、困ったように頬をかいた。

 いまいち思考回路がわからない。どういうことだ?


「俺たちって、再生数が全てなんすよ。わかります?」


「ああ、らしいね」


 最近は動画投稿で結構いい金額を稼ぐものもいるという。再生数とか、フォロワーとか、色々要素はあるらしいが、上は下手な芸能人並みらしい。海外だと億を稼ぐものもいるというのはそれなりに有名だ。

 俺の話をすると、フライスがうむとうなずく。


「そうなんですけど、再生数を稼ごうと思うと大変なんですよ。定期投稿したり、毎回ネタ考えたり。で、方法の一つにわざと炎上させるっていうのもあるんですよ」


「なるほど?」


「あの長池って、『ヒュージョン』でしょ? あれ、しばらく投稿できてないんですよ」


 フライスいわく、投稿の方式がライブ形式で、SNSなども使って宣伝していたらしい。町中でやってたりして話題にはなりやすいらしいが、その分編集や、ロケハン、その他の手間がかなり掛かるらしい。


「その点俺は、もう一ヶ月分速攻で編集して来てるんで大丈夫なんすが…」


「つまり、一ヶ月間、アカウントがほったらかしになりかねない、と」


「一ヶ月も投稿しなかったら、忘れられかねないのがこの業界なんで…」


 フライスいわく、『ヒュージョン』こと長池は登録人数的に中の中とか、中の上とか、その辺らしい。それなのに投稿ができないというのは結構な痛手なのだとか。


「え、なんで受けちゃったの?」


「俺たち、ほとんど強制じゃないですか?」


「うん…、うん? …ああ、そうか」


 俺は京一からの誘いという形だったが、ほかは動画を習得の動かぬ証拠にして、どんなやり方か知らないが強制的だったと聞いていた。おそらく融通の聞かない役人か怖い手紙でも受け取ったのだろう。

 フライスなどは契約書類をまともに読んでいたかは怪しい。あれはよく読めば別に強制というものじゃなかったはずだ。それに家に帰ることもできるし、その間の動画投稿云々の話は守秘義務以外はなかった。


「なんで、それで動画の話になるんだい?」


「わかんないんすけど、なんか? 時間がどうたらって言ってましたよ? それで、話題になるようなことをやりたいみたいで」


「あー、なるほど。それで先陣きってダンジョンの攻略を?」


 つまり、その遅れを今一番の話題であるダンジョンのことで提供しようという魂胆らしい。だがたしかに自分はダンジョンを見てきましたなんて言うのは話題としては十分だが、せいぜいそれ止まりのはずだ。


「どうするつもりなんだい?」


「わかんないんすけど、何人かアイツの部屋入っていきましたよ?」


「へぇ…」


 それきり興味をなくしたのか、フライスはお騒がせしましたーと言いって部屋を出ていった。

 俺もしばらく考えていたが、どうするつもりなのか検討もつかなかった。炎上騒ぎ的なやつにしても、警備は自衛隊がやっているし、どこへ行くにも命の危険がある。

 この話は、どこに持っていくべきなんだろうか?

 芒野さんあたりに持っていってもいいが、俺らからすれば大したことのない話の可能性もある。俺の他愛のない一言で動くのが自衛隊とか、泉田グループなどの大手企業郡だと考えると気が引けてしまう。いっそのこと部屋に盗聴器でも仕掛けておいてくれないかと明後日のことも考えたが、部屋にそれらしきものはない。プライバシーも配慮しているらしい。俺は少し考えたが、結局結論は出なかった。

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