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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
26/29

予定について


「で、これが成果か?」


「ああ、グラフの推移がわかるか?」


 最近すっかり慣れたテント村にいつもの時間に出勤?した俺は、京一に差し出された紙を見ながら首を傾げる。なるほど、わからん。

 スキル使用実験とやらに加わって数日が立っていた。ここ数日は遠くに轟音を聞きながら、例のスキル使用実験をやってはホテルに帰る毎日だ。夜には水城先生が来て診察してくれるが、結果は良好。健康そのものだとか。

 そんな日々を過ごしていた俺が見ているのは、昨日のデータ。結果が出るので見てみるかと言われて見ている最中だ。


「ここからが、スキル使用実験が始まってから。一定のところで、波形の上限が止まってるのがわかるか?」


「ああ…」


 実験を始めてからすぐに波が激しく上下し始めている。上を見てみると波形に上限値でもあるのか、綺麗にそこで止まっている。


「あれだけで、少なくとも脳には何かしら反応はあるんだ。なんつーんだろうな。感覚としては、神経が通ってないとか、そういう感じに近いか?」


「神経ね?」


「動かしたいのに動かせない。入力はうまく言っているのに、出力ができてない。ケーブルが繋がってない。感じとしては、そんな具合だな」


「へぇ…」


 味気ない、実験結果をそのまま印刷しましたというグラフを見ながら俺も首を傾げる。

 正直、会議に出すときはおそらくうまい具合に装飾しなければ頭の固い連中が納得しない内容なのだが、そのへんは芒野さんの仕事らしい。自分でやらなくていいのは本当に楽だな。

 

「…つまり、あのよくわからんセラピーにも何かしら意味がある?」


「一応な。問題はこの出力がどうなっているか、って点だ。人間に魔法の出力機関は解剖してもないからな。少なくとも火も水も出せない」


「そりゃな」


「現状、このスキル実験で明らかにしたいのは、それが可能かどうかだからな。可能性があるってわかっただけ上々だ」


 そう言って立ち上がると、京一はボキボキと体をならす。若干隈が出ている目は明らかに寝不足だが、大丈夫なんだろうか? 聞いてみても大丈夫だとしか答えない。

 俺が考えていると、おもむろに京一が口を開く。


「…で、今日から少しメニューの変更がある」


「変更?」


 いきなり不穏な響きだった。たしかここ数日は瞑想したり、音楽をかけてみたり、脳波にアプローチする方向で来たはずだ。正直一日座ってばっかりで暇でしょうがなかったが、あと数日はこのメニューで行く予定だったはずだ。俺が眉をひそめると京一が肩をすくめた。

 

「上の方がもう少し急げって連絡してきてな。ほかの国でなにかあったらしい」


「何かはわからないのか? 向こうの科学者と連絡取ってたはずだろ?」


「聞いてみたんだが、答えられないっていわれた。よくわからんが、軍が介入してきたらしいな。内緒話もできんとさ」


「物騒だな…」


 ここもそのうちそんなことになるんだろうか?

 上がごちゃごちゃしていて下が動けないだけかもしれないが、少なくとも話してみると普通の人たちという印象だ。今日も食堂で訓練の様子を聞いていたが、結構な凄まじさに感心していたところだ。数日間ぶっ通しの訓練と数日間の納期デスマーチはどっちがきついのかで議論して結論が出なかった。

 多分自衛官だから、上の命令ならやろうと思えばできるんだろう。この人達が有無を言わない雰囲気になったら逆らう気は起きない。


「どっちかっていうと、こっちは芒野の上司経由だな。こっちは安全性の確保もしながらだから結構きついんだが…」


「安全性っていうことは、あれか? スケジュールで聞いてたやつ」


「ああ、『実践的な見地からの』ってやつな…。今日は二人一組で動いてもらう」


 若干うんざりしたような京一の珍しい姿だが、気持ちはわからなくもない。集めた被験者があっちこっちウロウロしているのだ。

 やっていることは一日中座っているようなものなので楽な仕事のはずなのだが、何を思ったかやたらと森に入りたがる。もしくは護衛の自衛官に絡みたがる。

 俺の騒ぎがあったせいか、自衛隊はピリピリしている。そこに余計な刺激が入るものだから現場の本人たちは溜まったものじゃないだろう。例の契約書では一応余計な危険には合わさない予定だったのだ。それがいきなりあんなことになってしまい、色々見直したばかりなのだ。それなのに。


「いきなりモンスター倒しながら、その数値を見ようって?」


「踏み潰すだけだからな。隊員の心労はともかく」


 じつはすでに取っ掛かりはわかっている。個別のデータを見せてもらったわけではないが、MPが高い人のほうが反応が激しいらしい。ステータスと何かしら相関関係があるのだから、ステータスを上げてみたらいいんじゃないかということになったらしい。


「…本当によく許可出たよな」


「上は許可はしてないって言うだけさ。俺達が勝手にやって、被験者たちが同意してくれるってだけだ。一応の危険性も説明してある」


「詐欺じゃないか?」


 俺はだいたい京一がこういうやつで、できる限りそういうことに配慮しているのを知っているからなんとも思わないが、ほかが同意見になるかはわからない。くっと皮肉げに京一の頬が上がる。


「なんかあれば俺たちのクビが飛ぶだけだから役所の連中は気にしない。ポーションの件も、結局不問だしな」


 俺の事故もあれは薬事法違反なんじゃないかとか、医学的にどうなんだとか意見はあったらしいが、そもそもあれが何なのかわからないという理由で不問らしい。いまはそれより何より解明が最優先なのだとか。そのため不問ということになって面倒がなくなったのはいいが、いまいち釈然としない。深く考えたら面倒なだけだ。

 仕方ないのでスケジュール表だけもらって俺は目的地に向かった。




「どーも! 今日はよろしくおねがいします!」


 目的地について見ると、いきなり頭が痛い挨拶をされた。

 決めポーズなのだろうか? デコピンの逆動作のような感じで額に手を当ててたしっと腕を上げている。

 突然の大声に俺が目を白黒していると、声をかけてきた男がスタスタと寄ってきくる。


「どーも、赤羽さん! お久しぶりです!」


「あ、ああ、よろしくお願いしますね…」


 そう声量を上げた声をかけてくるこの男は、初対面のときに『フライス』と名乗った若い男だ。本名は清水敬一というのだが、それがアカウント名か何からしい。動画投稿者で、ゲーム実況を上げている。

 前に本名で呼んでみたのだが、『フライス』と読んでくれと散々言われたので結局そっちで呼んでいる。まだ二十歳を出たばかりだとか。

 

「…それじゃ、今日の予定を説明しますよ?」


 遅れてきた京一が呆れたような目で見て、スケジュールの中身を話し始めるが清水、『フライス』の口は止まらない。


「いやー、良かったですよ! ほかはみんな怖くって! 赤羽さん入れば完璧です!」


「そう、なの?」


 完璧って何がだ?

 疑問を差し挟む余地もなく、『フライス』は喋り続けているが、これ大丈夫なんだろうか? ちらと周りの護衛の隊員に目を向けると、全くの無表情で目が合わない。京一は外向けの口調の棒読みでスケジュールの内容を話しているし、もうひとり、『フライス』付きの観察用員は明後日の方を見ている。

 京一はしばらく内容を話したあと、死んだような目でこっちを見た。


「…と、このようなスケジュールになりますが、なにか質問はありますか?」


「すいません! 今日は何時までになります?」


「…あー、大体五時には終わる予定です」


「うし! 今日の投稿には間に合う!」


 ガッツポーズではしゃいでいる『フライス』だが、本当に終わるんだろうか? 俺が目で聞いてみると京一が肩をすくめた。こいつ面倒だから帰す気だな。


「支度の方は、いつもどおりです。今日はお願いします」


「はい! よろしくおねがいします!」


 そう言って駆けていく『フライス』。俺も仕方ないので続くように支度を始める。その間もこの間の投稿はどうだったとか、随分話しかけられ、俺は一応見た感想なんかを話していた。俺でも知っているレトロゲームだったのが幸いだ。

 ようやく落ち着いたのは森に向かう道すがらだ。彼は森に入るのが初めてらしい。ウキウキとした様子でいの一番に森に行くのをついていく。付添の隊員と研究員が、大変そうだ。京一がそんなのを見ながら話しかけてくる。

 

「…お前、あれと会話できるか?」


「まあ、言語が独特だが、ワンマン企業じゃよくあることだ。そういう意味だと可愛いほうだな。ほら、ジャバとコボルみたいなもんだ」


 閉鎖的な会社が相手だと、たまに話というか、一般常識が通じなくて困る。社長や上司が変な神様になっているのか、ちょくちょくそれを崇める宗教っぽい単語が出てくるのだ。なぜか基準が社長の納期だったり、部長の気分だったり。

 そういうところを合わせて詰めていかないと面倒なことになる。慣れてないと難しい。たぶん京一や自衛官だとなおさらだろう。

 そういう意味だと、彼の言葉はまだわかりやすい気がする。若者言葉の派生版で、あのへんは大量にあるからフィーリングだ。


「そういえば、今回は千歳さんは?」


「もう少しだな。今日は留守番だ」


「まあ、あの人のあれは今のところ必要なさそうか」


 トラック並みの衝撃を起こせる人にはスライムは約不足だろう。そういえばなんであの人はあんなにステータスの伸びが顕著なのか、聞いても教えてもらえてない。いろいろあるらしいが。


「…まあ、平穏無事に終わることを祈るか」


「…この辺りは問題ないんだ。そういう意味なら大丈夫だよ」


「それを信じるとしようか」


 今日も響く轟音を聞きながら森に向かう。

 あれだけ上がるのには理由がある。そして京一が話さないのか話せないのか知らないが、こいつのことだから、なにかしら腹に一物は持っている。どうなっているのやら。

 そんな事を考えながら、俺は信号弾の受け取りテントの前ではしゃぐ『フライス』のところに向かった。

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