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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
23/29

感想について

 結局、その日は川まで案内されて、滝を見て帰ってきた。最終的に倒した、というか潰したスライムの数は23だったそうだ。一緒に歩きながら数えていたらしい。


「…まあ、成長したのか?」


「そんなところだな」


 俺は印刷されたものを見ながら首をひねっていた。


 ――――――――


 NAME:赤羽 修司 


 LP:――

 MP:28(+2)


 STR:16(+1)

 VIT:14(+1)

 INT:12(+1)

 DEX:14

 AGI:14


 SKILL:ナビゲーター召喚 


 QUEST:☓


(HELPMENU)


 ――――――――


 歩き回るだけで一日かかる道のりだった。途中で休み休みだったから履き慣れないブーツでもなんとかなったが、多少マシになっていても相当きつい道のりだ。休み無しでも、川まで2、3時間はかかるだろう。それをスライムを踏み潰しながら川沿いに歩き、滝のところで食べ慣れないレーションを食べて帰ってきた。正直に感想を言えば、ひどいピクニックだったというしかない。

 だが、たしかに若干ステータスは成長している。ステータスを開いてみると、たしかに変化があった。本当に微々たるもので、STR1とか程度だが。

 

「ま、今日のペースだとこんなもんだな。とりあえず一般人受け入れの計画は問題なさそうだ」


「結構やってこれか?」


 正直、あんまり何かが変わった気がしない。数字が動いたと言うだけだ。それだけでもすごいには違いないが、今のままだと苦労に見合ってない。

 ダンジョンから出て、マンションの外にあるテントの一つに戻ってきた俺はぐったりとしていた。出された水がうまい。


「まあ、そう言うな。おかげで随分捗ったぞ?」


「体の良いモルモットにしてよく言うよ」


「たまには運動もいいもんさ」


 そう言いながら軽快にキーボードをタップする京一は実に楽しそうだが、足がパンパンなんだが。営業で出かけることも多かったが、車移動、電車移動ばかりの身には辛い。これを明日もやるのか?


「多分なんだが、明日はそこまで辛くないぞ?」


 ふくらはぎを揉みほぐしていると、陽気な声で京一が声をかけてくる。さっきまで背負っていた機械をパソコンに繋いでからあの調子だ。


「明日は筋肉痛で動けそうにないが?」


「大丈夫だ。多分な」


「それも実験結果か?」


「俺が動けてるだろ?」


 言われてみて気づいたが、京一は基本的にインドアの研究者だ。千代ちゃんにかかりきりの時など、病院と研究室の往復くらいしかしていなかったはずだ。端的に言って『もやし』。そんなやつが一般人がへばりそうな行程をへばる様子もなく歩き通していたのだ。


「…お前、自分で先に試したな?」


「一般人中に入れるのに計画表が必要だったからな。俺とか、他に何人かで今日のスケジュールはやりながら考えた。おかげで結構ステータス成長したんだぞ?」


「気をつけろよ?」


 いくらある程度安全性が確保されていても、いきなりそんなことに挑戦するのはどうなんだ?

 思わず首を傾げてしまうが、京一はだいたいこういうヤツだった。


「まあ、そのへんはヘマしないようにするさ。他所の国の連中ともある程度お互いに情報交換してるから、今のところ大丈夫だろうさ」


「他所も似たような状態なのか?」


「なんか微妙に違いはあるみたいだがな。…よし、終わり」


 ターンと軽やかエンターキーを叩き、猫のように伸びをする。ケーブルを繋いだパソコンのファンが急激に回りだした。


「…気になってたんだが、なんで今どきケーブルなんだ? wifiなりbluetoothなりあっただろう?」


 脆弱性とかそういうのを無視すれば、ソッチのほうがもっとコンパクトに済むだろう。

 背負っていた機械の中身を見せてもらったが、マザーボード、ハードディスク、クッション、大きなバッテリーに電源ケーブルと、どう見ても背負って歩くには不向きな中身で、パソコンを背負っているのと変わらない。

 今だったらタブレットにアプリでも入れて記憶させたほうが、何倍も簡単に済むだろう。確か京一が作ったマイナーなのがあったはずだ。


「使えればよかったんだがな、それが使い物にならないんだ。そもそも、測量なんかやらなくたって、いまはドローンで航空写真が簡単に作れる世の中だ。使えるならあんな落書きじゃない物作ってるよ。だれかが勝手に作りましたとかいってな」


「なるほど?」


 川沿いに歩いていった先、幅15キロはあるという巨大な竪穴があり、そこに流れ込む滝は大瀑布と言ってもいいような巨大な滝だった。

 ナイアガラの滝のように、切り立った崖から幅は湖のような川が流れ落ちる様は圧巻で、食っているのがレーションでなければ、さぞいい観光スポットになるだろう。

 それで聞いてみたのだ。この下はどうなっているんだと。帰ってきた答えは不明だ。

 今ならドローンで簡単な装備ですぐに調べられるはずなのだが、それをやっていないというのが腑に落ちなかった。


「…電子機器が使えないって言ってたが、それが原因か?」


「電波系がだめだ。中に入った途端に使い物にならなくなる。無線もだめでな。おかげで探索が殆どできてないんだ。それで歩けばあのスライムの大群だろ?」


「身動きができないのか。それにしちゃ、あのテント村は無防備だったが」


 正直、歩けばスライムに当たるような有様だったのに、テント村はえらく無防備だった。歩哨も数人で、森の入口だと言っていた場所のテントの隊員は軽装だった。いくら踏めば倒せる程度とはいっても、あれじゃ警備なんて無いようなものだ。


「あそこは特別なんだ。そのうち見せるから、それはそれで楽しみにしとけ。だから一般人も入れられる」


「まあ、楽しみにしとくよ。それで、このあとは?」


 時間はもう夕暮れ時、もう6時を回ろうとしている。何をやるにもいまいち半端な時間だろう。


「ここまで終わったら、もう帰ってもいいぞ?」


「随分適当だな。タイムカードとかいいのか?」


「そんな厳密な管理してたらやってられない。それとも研究者に付き合う気か?」


 ラットの飼育一つでも、一日一晩中やらなければならないのが研究所だ。フラスコを煮立てて調べるのに時間がかかって徹夜は当たり前だ。そういう意味では過酷な作業現場だ。まあ、本人たちのモチベーションによるだろうが。


「お前、っていうか、ここの研究員はどうしてるんだ?」


「それこそ適当に来て、適当に帰ってる感じだな。マンション入るとき自衛隊通すから、あれが勤怠って言えばそうか?」


「…死人が出ないことを祈るよ」


 あの鬼気迫る研究員たちは、寝不足のテンションもあったに違いない。寝不足の子供におもちゃを与えた場合の典型だろう。


「流石に死人は出さないさ。過労は少し出てるが、それもちょっと役に立ってたりするからな」


 苦笑を浮かべながら言っているが、仮にも国の研究の最前線がそれはどうなんだ。


「…聞かなかったことにするよ」


「実験期間中は、被験者は自衛隊の誰かがツーマンセルでつく感じになると思うから、そのへんは心配するな。たぶんその隊員と、お前は俺がつく感じか? まあ、研究員の誰かがOK出せば定時だと思ってくれ。期間中の従事時間はだいたい9時から伸びても6時、一応、土日は休みにする予定だ」


「ゆるいことで」


 残業に追われなくていいというのは実にいい。

 リュックの重みさえ我慢すれば、あとは何をやるかはともかく、しばらくのんびりできそうだ。京一のことだから気になったことがあれば何につきあわされるかわかったものじゃないが、そういう事をやるのをよく知っている分、気は楽だろう。


「それで、今日は帰っていいのか?」


「おう、ご苦労さん。着替えて帰ってもいいぞ。そういえば家どうするんだ?」


「運転して来たんだが、どうするかな?」


 正直、ここに来るまでの入り組んだ道をまた帰るのは事故が怖い。どこかで仮眠でもしようか?


「もし帰るのが心配なら、そこそこ近所にホテルあるぞ?」


「んなもんに金かけてられるか」


 ただでさえも仕事をどうするかわからないのに、家具家電まで揃えなくちゃならないのだ。余計な金を使ってられる状態じゃない。そういうと違う違うと京一が首を振る。


「金なんてかからんよ。泉田の系列のビジネスホテルだ。被験者用に取ってある。お前の部屋もあるぞ?」


「…おれ、通いにするって言ってなかったか?」


「一応抑えといた。どうせタダだし、そのほうがいいだろ?」


「至れり尽くせりだな…」


 なんだかここまで条件が良いとかえって心配してしまう俺は相当な小心者なんだろうか? いや、今の世の中ならこれくらいは警戒すると思うんだが、どうなんだろう。


「俺としてはホテルに行ってくれたほうがいいな。被験者がその帰りに事故起こしましたは、あんまり外聞もよろしくない」


「ならお言葉に甘えるかね?」


 今はデリケートな時期だろうから、そういわれると俺も弱い。本当に事故ってしまったら、どこかで広報担当が胃を痛めることになりかねないだろう。疲れのせいか、もうまぶたが落ちそうだ。


「少し車で寝て、そっち行かせてもらうよ」


「むこうには連絡しとくから、そのまま行ってくれ。俺はまだやることあるからな」


 あそこのホテルだ、そこにこれを渡せとか、言いたいだけ言って、またパソコンに向き合ってまた京一はキーボードを叩き始める。

 手だけ振って挨拶してくるやつに背を向けて、着替えるためにテントを出る。

 今日だけで随分濃い体験をした気がする。早く汗を流して寝てしまいたい。


「すげー!」


「…ん?」


 貴重品保管庫のあるテントへ入ろうとしたとき、騒がしい声が聞こえた。声の方を見ると、若い男が自衛官に釣れられて歩いている。ずっとすげーすげーと連発していて、それがここまで聞こえてくる。まだジーンズにパーカーという私服で、着いたばかりなのかきょろきょろと周りを見回していた。

 男は自衛官に釣れられて、俺が朝に着替えたテントに向かっていく。ひょっとして、あれがさっきいってた他の被験者か?

 そんなふうによそ見をしてたせいか、俺はテントから出てくるそれに気づかなかった。


「へ?」

  

 俺は吹っ飛んだんだと思う。

 衝撃に襲われ、車に撥ねられたように吹っ飛んだ。 

 何故か目を見開いた女の顔を見た気がしたが、俺の意識はそのまま闇の彼方に消えていった。


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