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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
17/29

待ち時間について


 俺たちがすこし離れた場所に駐車場を見つけ、歩いて到着した場所は人でごった返していた。

 場所は例の出現地点から3キロほど。自衛隊の封鎖の手前の地点だ。

 もとはスーパーの駐車場らしい。今時珍しいトレーラーでスクリーンを吊り下げる方式で、野外ライブのように会場が作られている。


「なるほど…」


 スクリーンを見れば、上空からのダンジョン出現地点の廃マンションが写っていた。どうやらどこかの放送局のドローンの映像をそのまま映しているらしい。簡易だが出店も出ていて、若者を中心に大勢の人間で賑わっている。


「お祭りだな…」


「ですね。あ、りんご飴売ってる」


 千代ちゃんが言う通り、出店のせいですっかりお祭り気分だが、ここは一応、これが何があるかわからない場所、のはずだ。なんだこれ。

 入り口のようになっているところにおいてあったパンフレットを見つけ、手にとって見る。フリー素材で作った安物かと思えば、なんだかやたらファンシーな手の混んだイラストが描かれている。


「…えー、なになに?」


 催しの名前は『商品展示即売会』。安直だが、わかりやすい。開催元はどこかのイベント会社らしい。あまり名前を聞かないような協賛会社が十数社、名を連ねている。どれもこれもサバイバル関連の会社だ。一つだけ知った名前があったが、そこも含めて数で補ったらしい。

 

「…千代ちゃん、ここなに?」


「こんどダンジョンができたら、っていう想定でこんなのがありますよって言う展示会、みたいです。名前は違いますけど」


「ああ、なるほど…」


 こんな場所でダンジョン関連であからさまに販売会なんてしたら、なんて言われるかわからない。だから名前だけ穏便なものにして、許可だけ取り付けた感じか。

 確かにある程度体裁はちゃんとしているが、もしそうなら相当な勇み足だろう。まだできてすらいないぞ。

 とはいえたしかにダンジョンができる様子を見るなら、ここほどいい場所もない。ここも自衛隊の封鎖網のかなりギリギリな位置だ。ほかは遠目にカメラを構えるマスコミや、興味はあるが深くは関わりたくはない野次馬で落ち着いて待っていられる雰囲気ではない。騒がしいが飲み食いできて暇つぶしできるだけマシか。


「…少し見て回ろうか? りんご飴、食べる?」


「あ、いただきます」


 千代ちゃんにりんご飴を買い、俺はラムネを買って飲みながら歩く。キャッシュカードの再発行が間に合ってよかった。

 会場を見て歩けば、南極にでも持っていきそうな大型リュック、飯盒、保存食などが展示販売されている。俺の後ろを歩く千代ちゃんが、度々立ち止まってそんな商品を眺めている。

 

「…千代ちゃん、ちょっといい?」


「なんです?」


 かりかりとりんご飴をかじりながらリュックを見ていた千代ちゃんが、こちらに顔を向ける。その目は京一と同じような輝きを放っている。


「あたりまえだけど、まだダンジョン関連諦めてないの?」


「最新情報ぐらいは抑えておきたいですから。最近サバイバル関連の株価上がってるんですよ。私の生活の種ですから、自然でしょう?」


「まあ、そういうことにしておこう。まあ、それはともかく…」


 らんらんと輝く目でサバイバルナイフを見ながら言われても説得力がない。

 なんだろう。最近の子ってそんなに冒険に飢えてるんだろうか?

 俺がジェネレーションギャップについて考えながら口を開こうとすると、ぽんと肩に手が置かれた。首を巡らせてそっちを見ると、うっとおしい笑顔が俺を覗き込んでいる。


「おう、赤羽じゃないか! どうした?」


「…池田か」


 思わず舌打ちしそうになったのを、なんとか顔をしかめるだけで済ませた。

 そこにいたのは日焼けした大男だ。


「久しぶりじゃないか! 来てたんだな!」


「んな大声出さなくても聞こえてる…」


 耳元で大声を出すこいつは、高校時代の同級生だ。

 何してるんだこいつ。


「おまえ、どうした?」


「それはこっちのセリフだ! 俺は仕事だ!」


 よく見えれば胸元に関係者証をぶら下げている。

 手にはサンプル品なのか、なにかの入ったペットボトルを持っている。またか。


「…今度は何を売ってるんだ?」


「おう。今度出す、保存飲料だ。お前もどうだ?」


「遠慮しておくよ。俺は見学さ」


「連れがいるのか?」


「まあな」


 そう言いつつ少し離れて、千代ちゃんをこいつの視界に入れないところに立つ。

 よく見ればやはりというか、やはり例の見たことのある会社のブースだ。無地のペットボトルに入った水がズラッと並んでいる。名前は『長期保存飲料』。


「…売れてるのか?」


「ああ、なかなかな!」


 見ただけでは明らかに普通の水なんだが、本当に買うやついるのか?

 そのあと少しの間、ペットボトルの作りや中身の水の出どころについて説明されたが、全く買う気が起きない。声がうるさくて耳が痛くなったぐらいだ。


「…まあ、今日のところは遠慮しとくよ。持ち合わせもなくてな」

 

「お前、前もそんなこと言ってなかったか? 売れないとまた自腹買取なんだが」


「そうだったか? まあ、またな」


「いや、ちょっと聞いてけ。お前の商売のためにもなるぞ?」


 そう言って半ば強引に別れる。それでもなお食い下がりに来るのだから辟易する。適当なことをなだめすかしながら言って、無理やり離れた。


「あ、赤羽さん、どこ行ってたんですか?」


「ちょっと知り合いにあってね。…ちょっとここだとモニターが見えないか。いい時間なんでけどねぇ…」


 そんな事を言って無理やり千代ちゃんとともに池田から距離を取る。

 池田は俺がだめだと見て取ったのか、他の客に声をかけ始めていた。例の大きな声で客が辟易してるのもおかまい無しらしい。昔から変わらない。

 池田は高校時代の同級生のいわゆる鼻つまみ者だ。よくあるタイプの会社に入り、営業成績のために同級生のところに構わず押し売りをかけてくるものだからめんどくさがられている。しかも売っているものがたいてい胡散臭いものだからなおのことだ。おまけに当人は無自覚と来ている。アイツはいつになったら自分が売ってるものが何なのか、理解できるのだろう。


「…さて、そろそろ時間だとは思うんだけどな」


「今の所変化はなさそうですね」

 

 ようやく落ち着けるところまで移動した。モニターの上映会場らしく長椅子で、モニターを見ながら時間を潰す。まだ多少明るくはあるものの、すでに満月とやらは登っている。

 その間も設営されたモニターに映される映像を何度か確認したが、さっきから変わりない。時間はもうすぐ夜の6時だ。

 千代ちゃんはさっきからスマホをポチポチしていた。


「…他のところも変化無しかい?」


「みたいですね。他のところはまだ日も沈んでませんし」


 他の場所、というのは、中国に一つ、ドイツに一つ、南アフリカに一つ、アメリカに一つといった具合だ。どこも厳戒態勢らしい。ある意味こんな近くでお祭り騒ぎができている日本がおかしいのか。


「ここのも、本当に出てくるとして、何時になるかな」


「多分、半端な時間なんじゃないでしょうか? あれもそうでしたし」


「そうだね…」


 チュートリアルダンジョンの出現時間も結局日本時間で午前1時23分なんて半端な時間だった。どこかの標準時かと検証されたが結局わからずじまいだ。そうなると今回のこれもそうなんじゃないだろうか。


「そうなると、ここで待ちぼうけになる可能性もあるな」


 もともと来た事自体がノープランなのだ。この即売会の開催予定も、千代ちゃんが今日拾ったらしい。

 千代ちゃんは今度はたこ焼きにありついていた。たこ焼きを食べたちよちゃんがなにか言った。


「…まあ、私としては、どちらでもいいんですが」


「うん? やっぱり思ってたほどじゃなかった?」


 これくらいの子だと、やっぱり即売会は面白くなかったんじゃなかろうか?

 そこらで名刺交換してるのがいるが、どこもいまいち胡散臭いところが多い。聞いたことがないところが多いせいもあるかもしれないが、おそらく一発逆転を狙っているところが多いのが原因だろう。ヤマ師的な匂いが濃い。


「いえ、売ってるものは面白いですし、来てよかったと思います」


「ならいいんだけど、ここだとあんま良いものはなさそうだよ?」


 良くも悪くもピンきりなものが多い。さっき千代ちゃんが見ていたサバイバルナイフはともかく、池田が売っていたただの水や、鉄板の薄い飯盒などは役に立たなさそうだ。出現予告から5日も経っていない。おそらくイベント会社もかなり即興でやったはずだ。質が伴っていない。


「目的はそれではないので、大丈夫です。食べます?」


「他で買うの? そのたこ焼きは美味しそうだね。一つもらおう。…ああ、そうだ。改めてなんだけど、千代ちゃん的には、やっぱりダンジョン興味あるの?」


 中身がそこまで熱くなかったおかげですんなりたこ焼きをもらい、さっき邪魔が入った質問をもう一度してみる。

 千代ちゃんは考えるように首を傾げた。


「興味、といいいますか。面白そう、っていうのが大きいですかね?」


「面白そう…?」


「はい…。最近、すっかり調子が良くて」


「ああ…、やっぱり具合いいの?」


 この間から千代ちゃんが妙にアクティブだ。そうじゃないのかとは思ってたが。


「…私、ここ3年間、何もできなかったじゃないですか」


「なるほど?」


 最初の一年は閉じこもり、二年目で安定を取り戻し、三年目でようやく、と言っていいのか、大学に行けるまでには回復したのが今の千代ちゃんだ。何もできなかったとは言わないが、人並みかと言われると唸ってしまうものはある。


「なので、ここからは私もアクティブに行こうかな、と。香織ににも誘われてまして…」


「なる、ほど?」


 千代ちゃんの部屋にある、やたらとファンシーなぬいぐるみを送った子だ。何度か会ったことがあるが、まさしく今どきの女子高生、だったと思う。千代ちゃんの幼馴染で、引きこもってからもちょくちょく様子見に来てくれていた面倒見のいい子だ。たまに理解しがたい言語で話すので会話が大変だった気がする。


「…香織がこういうの詳しくて、誘ってくれたんです。私も興味ありますし、一緒にでかけたいなって」


「出かける先がダンジョンなのかい?」


「いま、流行ってますから」


「まあ、ね」


 そういう問題か?

 そんな流行りの飲み物みたいなノリで言われても困るんじゃなかろうか?

 そう思ったが、実際起きているのはそういう流行りの飲み物みたいなノリだ。ここが盛況なのも含めて、例のヒールポーション含めて、世界中が熱を上げている。なら、若い子が熱を上げるのも無理はない、のか? 俺が逡巡していると、千代ちゃんは更にその先を考えていたらしい。


「それにです。将来的に、もし、ダンジョンがずっとあったら、ちょっと変なことになると思うんですよ」


「変なこと? 例えば?」


「例えば、あのポーションです。一瞬で傷が治ったり、あと、赤羽さんの話が本当だったら、病気も治るんですよね?」


「そうだね。ヘルプにも書いてあったし」


 ヘルプやサティファの話を総合すれば、そういう事ができる、らしい。実物を見たことがないからなんとも言えないが、出てきたポーションを見れば眉唾とも言えない。問題は、サティファの言う"貴重"がどの程度かといったところだ。

 俺が言うと、千代ちゃんが深くうなずいた。

 

「もしそうなら、水城先生が言ってましたけど既存の、システムっていうんですか? そういうのがだいぶ変わるみたいじゃないですか。病院とか」


「そうだね…」


 もし本当にそんなのがあれば、大概の病気問題はポーションで解決できるようになる。下手すれば、病院が趣味事業になりかねない。社会保険だ医療改革だで揉める必要もだいぶ薄れるだろう。それだけで一大事だ。


「水城先生なんかは、医局の化石とお別れできるだけで嬉しいとか言ってましたけど」


「あの先生はだいぶ特殊な事例だと思うけどね。うん、なるほど」


「そうなってきますと、多分、私達の世代ってダンジョン、とは言わないですけど、そういうのに対応できるようにしたほうがいいのかと思うんですよね。上手く言えないんですが…」


「結構考えてるね…」


「そうでしょうか? 私、結局、普通の学生じゃなかったですから、ソッチのほうが都合がいいだけなんですけど」


「大概みんなそんなものだよ?」


 千代ちゃんに生きやすい世の中か、と言われれば、多分生きづらいだろうなと思う。

 ただでさえも人間は疑り深いし、自分と違う生き方をしてきた相手は受け入れづらい。千代ちゃんのような経緯の子だと、よく知っている相手でもないと、今の世の中では頭の悪い連中に心無いことを言われかねないな、とは思っていた。

 だから周りが注意していたのだが、なるほど、たしかにソッチのほうがいいだろう。俺だって同じ状況ならそう思う。


「なるほど…」


「勝手なことかもしれませんけど、せっかくステータス的に強いって言うなら、そういう形で認めてもらうっていうのもありかな、と思うんです」


 そう言って、なぜか怒られそうな子供のようにうつむいてしまう。うん?


「なるほど、いいんじゃないの?」


 俺は普通に言ったつもりなのに、なぜか千代ちゃんはがばりとうつむいた顔を上げた。なんだ、なにか妙なことでも言ったか?


「大丈夫でしょうか…?」


「いや、別にいいと思うけど…、どうかした?」


 別に、自分に居心地のいい環境がほしいなんて誰でも思うことだ。そのために努力したいと言うなら止める理由はない。ただでさえ頭の固い連中が多い世の中だ。向こうが今までの道以外認めたくないと文句を言ってくるなら、そういう新しい道に挑むというのは悪い手ではないだろう。


「なんだかんだしっかり考えてるみたいだし、俺は応援するよ?」


 考えることを放棄してる連中よりよほど好感が持てる。何度出先の話の進まない会議に悩まされたことか。


「…ありがとうございます」


「うん? うん」


 何故か泣きそうな声をされた気がするが、千代ちゃんの方を見るといつものりんとした顔をしていた。なんだったんだ?


「…それにしても、いつになるのかね」


 時計を見ると夜の七時を周るところだ。すっかり日が落ちてしまったのか、照明車のライトをつけたのか、明かりが眩しくて仕方ない。もう、目も開けてられないような…。


「…これ照明車ですか?」


「…眩しすぎる?」


 周りに意識を向ければ、来ていた客がどよめいている。そして、周りは皆同じ方向をぽかんと見上げていた。その目線を追えば、皆が何を見ているかは、すぐに分かった。それが始まったのだとすぐに分かる光景だ。


「…始まった、のかな?」


「みたいですね」


 見上げた先には、巨大な光の柱が上がっていた。その光は、いつかのテレビで見たのと同じ光。それが、廃マンションの方向から天に向かって立ち上っていた。

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