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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
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その結果について

「で、どうしたんです?」


「スマホが使えたのが幸いだった。決済アプリのおかげでキャッシュレス生活だ」


「追い出されなくてよかったですね…。冷蔵庫もタンスも中身がだめになってるとは思いませんでした」


 そう言って、戸田は暇そうにデスクに突っ伏している。とてもじゃないが会社員の姿じゃない。だが、他にすることがないから俺としても強く言えない週明けの月曜日だった。

 あのあと部屋の中を確認したが、食品、服、小物類とすべてが固定されていて駄目になっていた。無事だったのは電気ガス水道くらいだ。可動部と、そうでない部分で融通が利かないシステムらしい。

 結局、あれから全く進展がないまま時間だけが過ぎた。途中で京一が呼び出されて帰っていき、千代ちゃんと少し話したくらいだ。クレジットカードや通帳、保険証をどうするか、駄目になった服や食品をなんとかするだけで一日が過ぎてしまい、その後は全くだ。

 そんな世間もドタバタしているなか、結局、来るだけ来いという相変わらずの社内連絡網を受けた俺は、やることもない会社に出社していた。仕方ないので、俺もさっきからスマホをいじっているだけだ。来たメールにどう返信するか、悩んでいたのだ。


「にしても、スキルって憧れますね。魔法でバーンて」


「お前はのんきでいいな…。一応、名前だけはわかったんだっけ?」


 他にも例のスクロールのドロップはあったらしい。早速ホームページが作られ、『ウォーターボール』や『ファイアーボール』など、いかにもな名前のものが並んでいる。世界中で見つかったものらしいが、真偽は不明。


「召喚系は今まで見つかってないですよ? レアですよ、レア」


「だからって、わざわざ書くのもな…」


 ホームページはどこかの個人が作成したものらしい。それが今アクセスランキングでトップを取りそうなものなのだから、何が起きるかわからないものだ。

 

「注目されるかもしれませんよ?」


「あんな真偽不明のもんじゃな…」


 そもそもできるできないも、自分しか見られないのだ。自己申告しないかぎりしらばっくれることができる。

 正直、サティファの件も俺からの申告があるってだけで、現状証拠も何もあったものじゃない。妄想だと言われればそれまでだ。あそこに書いてあるものも、どこまで本当なのやら。結局誰かが使えたという話も聞かない。

 京一も話こそ聞いたものの、それ以上の調査は今の所していないらしい。ステータスだけはなんとかなるとか言っていたが、どうするつもりなのやら。


「なんかうちの会社でも噛めないかって話が上がってますけど、なんかないんです?」


「やめてくれ、部長からも言われてるんだから…」


 京一との仲のせいか、どこから聞きつけてきたのか上からの話が来てしまった。気持ちはわかるが勘弁してほしい。


「うちの販売関係、しばらく壊滅しそうですからね。新しいの考えないとまずいでしょ?」


「どこもかしこも非常食やらサバイバルグッズばっかりだからな。うちじゃ、まず扱わん」


 うちの会社はあくまで隙間商品だ。ちょっとばかり時勢がまずい。

 今の世の中は、二種類の話で盛り上がっている。単純に分ければ、このダンジョンを脅威と考える人と、恩恵と思う人だ。

 驚異だと思う人は何をやっても破壊できない物やかければ治る傷薬なんてとんでも案件を受け入れられず、恩恵だと思う人は未知の技術というか、何かに惹かれる人々。まあ、まず話があうわけがない。

 別にそれは構わない。

 逃げたかろうが、挑みたがろうが、どっちに転んでもそれぞれに売れる商品があれば商売になる。だが今の状態は、うちのような会社には面倒な事態だ。

 省機能家電なんてマニアックな分野は、非常時には売上が落ち込んで仕方ない。逃げたい人用の非常食も、挑みたい人用のサバイバル用品も専門外だ。

 だからこそ別の分野に、という話になるのはわからなくもないがその話が俺のところに飛んでくるのは、困る。

 京一に義理立てしているわけではないが、面倒事になるのが目に見えている。

 重役会議の方は社長不在の状態なせいか、手を出そうとして引っ込めてを繰り返しているらしい。下手するとそっち関係のゴタゴタに巻き込まれかねない。


「そう考えると、転職もありか…?」


「お、考えちゃいます? 一緒にポーション販売始めます?」


「うーむ…」


 正直悩む。

 世界中にできたチュートリアルダンジョンの数は、運百万ともいわれている。どれもこれも同じようなもので、そのお蔭というべきか、母数の分だけ色々ドロップしたらしい。その中にはサティファの言っていた例のキュアポーションもあったそうだ。

 さっそくどこかの物好きが研究機関に持ち込んで調べたところ、回復効果、と言っていいいのか、治癒効果がかなり見込まれたのだとか。

 それが早速ネット上に広まり、夢の薬という文言でかなりの値段をつけている。実際の効果はぼやかされているので、真偽は定かではないが。


「つっても、一本20万ておかしくないか?」


「正直、構成もわからないような代物ですし、世界中の研究機関が欲しがってること考えれば、それでも安いほうじゃないです?」


 あの手のひらで握り込めるほどの小瓶。その中身の液体、一本分で20万。真偽の程はわからないが、オークションサイトですでに売りに出されているものもあった。詐欺は出ないんだろうか?


「結構良い商売ですよ? お小遣い稼ぎに先輩もいかがです?」


 そういう戸田は、早速あのときのものを売りに出したらしい。

 研究の途中経過のようなものが張り出されているのだが、どんなに頑張っても化学組成がわからないらしい。最低限、水くらいは検出されそうなものなのだがそれすらない。そんな不可解な代物なので、あちこちの研究施設で研究資料として欲しがっているのだとか。


「つっても、手持ちは京一の方に渡す約束したしな…」


「でもその後音沙汰無しなんですよね?」

 

 結局、今の所買取の話は来ていない。金額的にもわからないし、急ぐでもないから構わないといえばそれまでなのだが、あれから音沙汰なしだ。

 京一が言うには、例の新井さんのグループが横槍を入れてきて面倒なことになったとか言っていたが、どうなったのやら。泉田さんが絡んでいるならそこまで揉めることもないと思うのだが。


「このまま3本売れば60万と考えるとな…」


「沙汰待ちしてると損しますよ? だから一緒に冒険者、どうです?」


「言うようになったな、お前」


 図星を突かれると痛い。

 正直これからのことを考えると、早めに多少の、どこまで通じるかわからないが、現金は欲しい。今日の会社の全く何も考えていなさそうな集合命令を聞いて痛感していたところだ。前の社長なら休みにしてるところだ。この間のカウントダウン最終日もそうだったが、開発室の自由な研究員たちは『体調不良』や有給で休んでいる。他の部署もそれなりの数の休みが出ているらしい。

 何が悪いとは言わないが、おそらくうちの会社はもうだめだろうと思う。すぐに潰れはしないだろうが、このままだと腐る一方だろう。

 俺はこの自覚なき後輩に何度痛い目を見させられるのか…。


「俺もなぁ…。もう少し若けりゃそういうのも考えるんだが」


 正直、転職を考えるとあとがないな、という部分もある。ただそれもこのまま会社員が続けられれば、だ。

 どういう仕組みかしらないが、これからダンジョンが出てくる、らしい。だがあんな謎技術でチュートリアルダンジョンを作ってしまうような何かが相手だ。おそらくだが、ダンジョンができるというのは間違いないのだろう。


 他の国は信仰などの関係で随分揉めているらしいが、こと日本に限ってはそれができたらどうするかと言うので話が進んでいる。

 要はできたら探索して、研究してみようというのだ。実際、空間固定とか、なにもないところから物が出てくる謎技術に沸き立っている部分がある。

 ただ、間違いなく今度のやつは危険だろう。この間のあれはチュートリアルだ。今の所ヘルプメニュー通りに進んでいるあたり、今度のも間違いなく出てくるだろう。


「本当にできたら、今の状態がどうなるかわからないからな…」


「一応、できるところはわかってますけどね。今度のはガチ目のやつでしょうし、早速周辺時価下がってるみたいですよ?」


 今度できるところは例のダンジョン出現場所から早速特定されていて、場所は武蔵村山のあたりだそうだ。

 あれほど現れたチュートリアルダンジョンと違い、ダンジョンの方は本当に数えるほどらしい。少なくとも現状では地球上で発見されたのは5つほどだ。


「そんな数少ない一つがあんなとことは、運がいいのか悪いのか…」


「結局閉鎖問題をどうするかですね」


 今の所、意見はまっぷたつだ。閉鎖すべきだというのと、研究すべきだというもの。おそらく間を取って、国の方で研究して、一般には開放しないと言われているが、今度は企業の方が反対してという具合で結論が出ていない。

 

「一般にも開放してもらわないと、私の将来設計に問題が出るんですけどねぇ」


「お前本気でやる気か?」


 戸田は本気で冒険者になるつもりらしい。冒険者というのはもちろん仮称だが、少なくとも当面はポーション一本で一月分くらいの収入は得られる状態なのだ。いつまで続くかはわからないが、これから珍しいものが出てくればたしかに食いつなげないことはないだろう。


「それにレベルアップでステータスが上がるなら、レベルを上げて物理で殴るっていうのが使えますからね」


「本当に上がるのかね?」


「でも上がるなら、先輩の年齢問題もクリアですよ?」


「ふむ…」


 なんで受け入れられないかといえば、明らかにい今までの物理、生物学と全く違う何かに巻き込まれているからだ。

 今まであのヘルプメニューは、不親切だが、間違ってはいない。つまり本当にダンジョンでモンスターを倒すと、不思議な成長を遂げたり不思議なものがもらえる可能性があるわけだ。それに賭けるというのも、悪い話ではない。


「会社がこの状態で、世間もこんな有様です。せめて副業として考えてみるのもありですよ?」


「…結果次第では考えておくよ」


 どんなものが現れるか、結局そこ次第だ。あとは国がどう動くか。

 いろいろ考えて、やってみてもいいかもしれない。少なくとも、サティファのやってくれたチュートリアルでは全く戦えなかったわけではない。なら、運動の一環として捉えて、それで副収入もとなれば、虫はいいが悪い話ではないだろう。まあ。


「…とりあえず、一回偵察だな」


 俺はずっと返信をしかねていたメールに、OKの返事を返した。

 千代ちゃんから、大学についてきてほしいというのと、その後で、ダンジョンが出てくるところを見に行こうというお誘いだった。

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