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遊星からのダンジョンX  作者: コーヒーメーカー
14/29

真偽について

 その後、ひとまず三人で千代ちゃんの買ってきてくれたコンビニのパンで朝食を食べながら、その間に京一の質問に一つ一つ答える形で昨日の件を伝えておいた。塩屋兄弟も食べているが、朝飯食わなかったのか?


「んで、こいつがその、『修練の間』だっけ? の宝珠?」


「らしいぞ。サティファの言うとおりならな」


「…動かないぞ、これ?」


「そうだな」


 さっそく見せてくれというので、昨日出てきた水晶玉を京一に見せてやった。サンドイッチを咥えながら、唸っている。

 例の水晶玉は相変わらずパソコンデスクの下に鎮座しているだけだが、どうにも様子が変だ。

 京一が首を傾げながら、その水晶を触ったり放したりしている。


「確認するぞ? その、サティファとかいう妖精が言うには、これに触ってオンオフが切り替えられるって言ってたんだよな?」


「そのはずだ。あれが俺の夢でなきゃな?」


「だがこの通り、触っても全く変化がない。他のところの報告じゃ、触って、開始確認が合って、それから流れ作業的にチュートリアルが始まるって話だったんだが、始まらないな?」


「俺に言われても困るぞ?」


 俺の部屋に現れた水晶玉は、うんともすんとも言わない。

 サティファから言われた例の修練の間の起動うんぬんというのも試してみたが、全く反応がない。


「見た目は、他で発見されたものと全く同じだな。ここのも動かせない。この空間固定現象も起きる。…一つ違うとすれば、お前のその証言と、現状だな」


「サティファの件か?」


「そうだ。他じゃ、チュートリアル開始確認のあと、ほとんど流れ作業でチュートリアルになるみたいでな。質問には全く答えてくれないらしい」


「って言われてもな…」


 買ってきてもらったおにぎりを片付ける。あのあと京一から他のチュートリアルダンジョンの映像を見せてもらったのだが、それを見れば明らかにサティファは妙だった。

 その映像には確かにサティファのようなものが写っていたが、それは無機質に流れを繰り返すだけのそれこそ立体映像のようなもので、似ても似つかない。俺の証言とは明らかに矛盾するなにかだった。人形も出てきたが、ほとんど突っ立ってるだけで、一定のダメージに当たる何かを食らうと勝手に消えていくらしい。そんなものだから、夢でも見たんじゃないかと京一も半信半疑らしい。ちなみにチュートリアルも何回でも受けられるのだとか。

 だが昨日のが夢だったと言われるには、少々リアリティがありすぎた。

 テーブルの上には相変わらず昨日もらったアイテムたちがあり、一緒に転がっていたらしい木刀が置かれている。

 それにだ。


 ――――――――


 NAME:赤羽 修司 


 LP:――

 MP:26


 STR:15

 VIT:13

 INT:11

 DEX:14

 AGI:14


 SKILL:ナビゲーター召喚


 QUEST:☓


(HELPMENU)


 ――――――――


 ちゃんとスキルの方に、おそらくサティファにもらったものが入っている。

 ただ、それは今のところなんの変化もない。

 使おうとしても、どうやって使うかわからない。念じたり、ステータスから見てみるが、反応がない。


「やっぱりなんかこう、呪文とは必要なんじゃないか? 力よ、集え的な」


「だからって、なんだってそんなこっ恥ずかしい呪文唱えるんだよ?」


 さっきからいろいろな魔法の呪文を考え出して俺に唱えさせそうとするんだが、それどこから引用してる?

 だが、そういったことに頼らないといけないくらいに手がかりがない。例のヘルプメニューは相変わらず役に立たない。

 唯一の収穫といえば、例の『ダンジョンの出現条件』が開放されたくらいだ。


 ―――――――――

『ダンジョンの出現条件』


 ダンジョンの出現条件は地下空間の入り口から行われる

 出現は満月の晩に行われる

 

 〔ダンジョンの出現予定箇所〕

 ――――――――――


 これだけは他のチュートリアル体験者と同じだったようだ。

 どうやらダンジョンの出現箇所と、場所を教えてくれているらしい。ありがたいのだが、なぜ場所がわかる?

 そんな有様ですでにスキル関連はお手上げだった。


「肝心のスキル関連がわからないんじゃな。ヒントがあるとすれば、そのスクロールか?」


「これか?」


 テーブルの品から巻物を手に取る。

 スクロールと言うから紙切れのようなものを想像していたが、調べてみたらどうやらこれは正式には巻物も含むらしい。装丁は銀色の芯に紅の羅紗で巻かれていて、いかにもな雰囲気だ。

  

「お前が夢を見てたんじゃなければ、質問に答えてくれる何かなら色々聞きたいとこなんだがな。スクロール自体の使い方に関して、一応、動画は上がってるぞ? 海外だが」


 そう言ってタブレットを操作して件の動画を見せてくる。

 それではどこかの動画投稿者が、この巻物を読んでいるとそれが突然燃え上がって、いきなり消えた。


「で? このあとは?」


 見たところ動画投稿者が怪我をする様子もなく、キョトンとした顔でキョロキョロしているだけだ。

 コメント欄を見ると手品やヤラセを疑う声がかなりの数投稿されていた。


「今生放送で使おうとしてるらしい。今の所成果はないがな。その本人も色々叫びながら頑張ってるから、お前も頑張るかと思ったんだが?」


「それでさっきから呪文押しだったのか?」


「そういうこと。しばらく様子見かな?」


 つまらなさそうに動画を消して、タブレットをソファーに放り投げた。

 スキルがあっても使えないんじゃどうしようもない。

 ソファーで別のタブレットをいじってた千代ちゃんがじっとりとした目で兄を見上げていた。


「兄さん、もう少し丁寧に扱ったら? それ支給品なんでしょ?」


「こんな物どうでもいいさ。そんなことより、ここがお手上げなのが困りもんだ。ダンジョンができるのが次の満月、あと一週間もない。それまでには何かしら情報を掴んでおきたいんだ」


 今月の満月を調べたら、二十二日、この通りだとしたらあと四日もなかった。

 不機嫌そうになにかをブツブツ言う京一に、千代ちゃんの舌鋒が飛んでいく。


「見た感じ、大した事なさそうだけど? 赤羽さんもなんともなさそうだし」


「だからって、お前がどうこうしようってのには賛成しないからな?」


 そう言って塩屋兄弟の視線が交差する。その間でバチバチとした火花が舞っている。

 ふたりともこうやって見ると本当にそっくりだ。日本人形のようなと整った容姿の兄妹で、昔は近所でも評判だった。だが整った容貌の人間が不機嫌でいると、その分迫力が増すと思う。

 こんなのんきな感想が言えるのも、慣れ故だろう。


「また兄妹喧嘩でもしたのか?」


「隙あらばこの件に首を突っ込もうとする妹が悪い。確かに、お前のステータスは高いが、だからって今回の件にいきなり関わっていい話じゃない。OK?」


「だって、私も興味あるんだもの。危ないことはしないわよ」


 不気味なニヤニヤ笑いで妹を牽制する京一に、鋭い僧帽で兄を睨む千代ちゃん。そこか。


「昨日部屋抜け出して、水城先生の説教食らった身とは思えないな?」


「…面白そうじゃない」


「それには全面的に同意するが、それとこれとは別だ。俺がある程度調べ終わるまで待て」


「私、強いんでしょ?」


「まあな…」


 若干論点のずれた会話もいつもどおりだが、千代ちゃんが何故か強さを強調すると、京一が苦々しげに舌打ちする。

 どういうことだ?


「強いって、どんな感じなの? 確かに千代ちゃんは強かったけど」

 

 千代ちゃんは強かった。剣道で都大会で優勝する程度には強かった。昔何度か、俺は居合なのに打ち合いで付き合ったことが合ったが、中学生の女の子とは思えない程度には強かった。

 だが、所詮は剣道の腕の話だったはずだ。

 俺の話に京一が呆れたように肩をすくめる。


「どうもこうも、こいつのステータス、明らかにそこらの自衛官より強いんだよ。ああ、このことは言うなよ?」


「兄さん!」


 京一のことを羽交い締めしようと千代ちゃんが飛びかかるが、京一はニヤニヤしながらひらりと躱す。千代ちゃんが捕まえようとしているが、どうもその軌道を読んで避けているらしい。京一はなにもないように続ける。


「おそらく、今の一般人のステータスの中央値はだいたい10前後だ。省庁勤務の職員がそんなもんだな。そっから自衛隊、警官とかになると13前後に移る。だが、我が愛しの妹は…」


「っふ!」


コーヒーを飲みながら眺めていると、回り込んできたのをかわそうとした京一は、千代ちゃんが繰り出したグーパンチによって沈んだ。

 何を言いかけたかはなんとなく予想はつくが、あえて聞かないふりを通させてもらう。千代ちゃんが顔を真赤にしてこっちを見てた。

 まあ、ひとまずわかった。


「…京一、あんまりデリカシーの無い事言うから、余計な恨みを買うんじゃないのか?」


「…うるせぇ。…千代、もう少し手加減覚えろ…」


 情けない格好でうずくまる京一に、千代ちゃんが分と鼻を鳴らした。昔からそうだが、こういうときは容赦ないな。


「…まあ、流石にやりすぎは良くないな。千代ちゃん具合良いの?」


「あー、その、すみません―――具合の方は、最近良いです。頭痛も治まってまして」


「なら良かった。元気があるなら、あー、…そういえば大学の方は大丈夫なのか?」


 せっかく元気になっているのに、これじゃ大学もまともに行けるんだろうか?

 俺の言葉にフラフラと京一が手をふる。

 

「大丈夫だ…、っていうのが、今の所大勢だな」


 千代ちゃんを見ていると、よろよろと這いつくばってソファーに近づきながら、京一が呻くように言う。


「てっきり避難勧告でもするかと思ったんだが、そうじゃないのか?」


「少しは心配しろよ…。まあ、いい。おそらくなんだが避難勧告は出ない。しばらく、警戒しながらも研究し原因究明に努めます、て感じになる予定だ。あほらしいが」


「大丈夫なのか、それ?」


「どうしようもないってのもある。だいたいどこに避難する?」


「行き場もなし、安全宣言も出せないか?」


 さっきの地図では、日本全国殆どでチュートリアルダンジョンは確認されていた。北海道の一部などはなかったが、おそらく人がいないせいだろう。

 そういう俺に、京一はうなずく。


「その分というか、いまのところ、ほとんど実害はない。だったら特段の支持はださずに、自己責任で動いてもらったほうが金がかからない。金庫番共は胸をなでおろして、責任取りたくない奴らは諸手を挙げて賛成って感じだな」


「この家はどうなってるんだ?」


 実害がないと言う割には、俺のアパートはこんな事になってるわけだが。

 

「正直、被害らしい被害がないからな。起きたことといえば妙なものができて、妙なものが出てくるようになった。そこで怪我のないトレーニングが受けられるってところだ。それにチュートリアルダンジョンになったのはほとんどが空き家やら廃屋でな。だったら人が入らないように、当面封鎖しちまったほうが早いだろう? そういう意味で、被害はほとんどないんだ。良かったな、レアケースだぞ?」


「嬉しくないレアケースだな。…廃屋空き家ってのは、持ち主はいないのか?」


 そう言ってやると、呆れた顔で京一はうなずいた。


「いないというか、わからんていうの正解だな。孤独死した年寄り、管理会社が倒産、一家蒸発。誰が持ち主か、正確なところがわからないところばっかりだ。確認するにも時間がかかるだろうな。ぶっちゃけ書類仕事をする上で、相手にするのがまずいところばっかりなんだ」


「それで、さっきの新井ってのは焦ってたのか?」


 もし持ち主など、そのあたりが曖昧ということは書類を作るのも大変だ。差し押さえるにしてもごねる連中が出てくるだろうし、交渉などを挟むともっと掛かるだろう。その点、俺のアパートならそんな問題はない。


「たぶん今まで見つかった中で、政府側で一番手が回しやすい物件だからな。調査にしても、研究するにしても、ここならすぐどうにかなる。なにか妙なもんがったとしても、どっか通してお前から譲ってもらえば問題ない。いい物件だろ?」


「どっちみち近いうちに追い出されるのは確定か…。…近所の人に悪いな」


 もしこの部屋をどうにかするなら、他の部屋にも何かしらあるだろう。鹿島さんもそうだが、他の人が追い出されるなんて話になったらかなり寝覚めが悪い事態になる。


「そのへんは俺からお嬢様に手を回しといた。もしやるにしても、悪いようにはならないだろう」


「…会わないで済むと思ったんだがな。後で一言礼を言っとくか」


「舌なめずりしてるだろうからな。…まあ、そんなわけなんで、お前も引越し先くらいは考えておいたがいいぞ?」


「とんだ災難だな…」


 いきなりこんな事態になって、住み慣れた家を追い出されることになるとは…。しかもそんな程度では終わらないだろう。

 決まった対応がないのなら、どこがどう動くか予想しづらい。またあっちこっちの会社が休むことになるかもしれないし、人が避難して、どこかに動くかもしれない。どのみち、引越し先が必要だろう。


「…さっそく不動産屋か?」


「俺が斡旋してやろうか?」


「遠慮しとくよ。…ちなみになんだが、手を回すのにどれくらいかかる?」


「会議は踊る、されど進まずを地で行ってるからな。まだしばらくはかかるだろう。そこにダンジョンの追加情報があるから、なおのこと遅くなるな。ただ…」


「なんだ?」


 京一はつかつかと棚に向かって、その上にある小物入れに手を突っ込んだ。綱引きするように力を込めているが、もちろんそれもびくともしない。そしてそこにあるものは、俺も覚えていた。


「…お前の財布、通帳、その他諸々、現状一切使いもんにならないんだが、お前どうする?」


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