風邪
「…で、やっぱり風邪ひいたんだ?」
呆れたといった表情の坂上が重くため息をつくのにきまり悪くなって、僅かに潤んでいるようにも感じる視界からそろそろと坂上を外していく。
「目を逸らさない」
常では聞かないような低い声で凄み、現実逃避しようとする俺を諌める真野。ギクリと肩を跳ねさせ、知らず泳ぐ眼はしっかりと射抜かんばかりに見詰める真っ直ぐな瞳とぶち当たらない程度に元の位置に戻す。
「昨日ずぶ濡れで帰ってきたのに驚いて何かあったのかって聞いたら、傘忘れちまっただけだ〜とか言ってた癖に!言っとくけど全然騙されてないからね。雨避けて急いで帰ってきたって身体の冷え方じゃなかったし、一緒に帰ってきた嘘つかない真野っちがオカーサンの言葉に肯定してなかったし!つまりずぶ濡れになったのは傘を忘れただけの理由じゃなかったって事で、こんな高い熱が出ちゃうくらい体を冷やすようなことを意図的か無意識か知らないけどしてたってことでしょ。何かあったっぽいのにオカーサンは落ち込んでる訳でもないっぽかったから騙された振りしてたけど…ていうかそれはオカーサンの問題だから僕が口挟むことじゃないけど!そうじゃなくて僕が言いたいのはそのずぶ濡れのまま帰ってきた癖にさほど濡れてない真野っちを先にお風呂に勧めたりそのままおざなりにタオルで水滴拭いただけで手洗って夕ご飯作ろうとするとか有り得ないでしょ!ってことだよ!なんでオカーサンは…むぐぅっ」
「ちょっとオダマリ。オッカサンが泣いちゃう」
普段の間延びした喋り方は何処へやら。珍しく怒りが冷め止まないらしい坂上の弾丸の如き滾々と叩き込まれる説教に驚きと熱の所為であるぼんやり感も相まって割り込む余地もなく、何処か遠くの声の様に篭って聞こえるその声を受け入れていた。
正直言うと受け入れていると言うよりは暴風のように一瞬でびゅんびゅん吹き抜けていく印象なのだが、時折槍のようにぐさぐさと突き刺さる正論が積み重なる度に、あと結構自信があったにも関わらず隠せていなかったことが地味にショックで視界のぼやけ具合も増していったところで、引きこもりの救世主が延々と槍を吐き出しそうな般若の口を塞いで強制終了させてくれた。
「んんーんっ。ぷは……怒ってる、けど泣かないでオカーサン。僕は泣かせたくて言ったんじゃないんだよ」
「ああ…分かってる。心配かけてごめんな」
「ま、今日オッカサンは俺と同じ布団の住人になるって話でしょ。病人の世話なんかした事無いけど、オッカサンの看病は俺におまかせあれ」
握り拳で胸をとんと叩くいつもの通り無表情な望月が得意気に鼻を鳴らす。布団の住人って…不安だ。俺も生まれてこの方床に臥せったことは自分の年の数、の半分、いや片手で収まる程に少ない。だから誰か他人ならまだしも、自分の体が思うように動かないこんな状況だと適当に薬を飲むくらいしか思いつかない。他人に費やすだけの手間を自分に充てられるまでの気力は無いし、そもそも嫌いな自分に何をしてやりたいとも思えないが。
ごほ、と一つ喉が自分の意志とは関係無しに震える。ずきりと痛みも伴って誘発されると、とめどなく咳が漏れて少しずつ息が苦しくなってくる。
それに気付いた真野が急いで俺の方に寄ってきて背中を優しく摩ってくれた。坂上も心配そうな顔をしているが、布団の住人らしい望月はまだしも、坂上と真野はもう直ぐ登校時間だ。今日の朝ご飯が作れていなくて申し訳なく思うのだが、誰もその事を言及しない。となるときっと朝食は諦めてくれる気なのだろうと肩を落とす思いだが、それにしても時間はどうにもならない。
「ふたりとも、俺なんかのことは気にしないで、もう学校に行った方が良い」
「オカン、自分の事をなんか、て言うな」
「オカーサンの悪い癖だよねー」
「でも確かに悠長に準備していい時間じゃないゼ。お二人さん」
「………」
「むうぅ…分かったよ!翔ちゃん、行こっ!」
「オカン、安静に、な」
「ありがとう、真野」
「行ってら〜」
名残惜しそうに此方を見やる二人をひらひらと手を振る望月と共に見て送り出す。暫くドタバタと忙しない音がしたが、いってきまーすという坂上の元気な声がして幅の薄いドアの閉まる軽い音が鳴り終わると、先程の騒がしさは何処へやら。俺と望月だけの寝室はしんと静まり返った。
考えてみたら、望月と二人きりになったのは初めてかもしれない。また一つ抑えきれない咳を唇を覆った片手で受け止め、熱のせいかぼんやりする頭の中で考える。望月が俺の作る食事を食卓を囲んで一緒に食べるようになったのは実は最近の事で、坂上と真野に比べて話した回数が少なければ望月について知っている事も少ない。
例に漏れず出会ってから最初の頃は俺に良い印象を持っていなかったのだろう望月には警戒、というより寧ろ視界にすら入らないようにされていたような気がする。いつの間にか言葉を交わすようになって、いつの間にかオッカサンなんて巫山戯た呼び方をされるくらいの仲になっていた。こうして考え直してみると、望月は不思議な奴だ。
いえーいとか本来楽しそうな顔で楽しそうに言うものだろう言葉を真顔で言うし、ゲーム好きな為か偶に意味がよく分からないことを言うし、軽そうに見えて深入りはさせない。そんな掴めない男だ。でも、だからって俺達のことをどうでもいいと思っている訳では無いと思う。今だって、俺を看病する義務なんて無いんだから自分がしたい事を始めればいいのに、俺を気にしてくれているし。
「なぁオッカサン。俺が出来る簡単な看病、ある?」
ほら、夕飯の手伝いだって何食わぬ顔してすっぽかすくせに今はこんな風に言って俺の為に動こうとしてくれている優しい奴だ。いつもと変わらない無表情の筈なのに、微妙に眇めた眼からは気遣いを感じるし、一つ俺が咳をすると慣れていないと分かるぎこちない手で、でも柔らかい仕草で背中を摩ってくれる。
正直言えばその気持ちだけで十分嬉しいし、何となく気恥しい気持ちも出て来てお腹いっぱいなんだが、折角何かしようという気になって尋ねてくれているのに何もしなくていいなんて言うのも酷な気がして、水と薬を持ってきて貰えるかと頼む。
望月はいつもの意地悪さと不精をどこに置いてきたのか、素直に頷いて台所に向かってくれた。…心の中だけでも茶化しておかないと照れが爆発してしまいそうだ。絶対に本人に言ったらいつもの通りにされてしまうから言わないけどな。もう少しだけ、この心地良い時間を堪能したい。
そういえば、と四人の中で一、二を争う量の私物が山になっているベッド横を漁る。咳は手で防いでいたつもりだが、普通にあいつらと会話してしまった。取り出したマスクを装着しながら、もし風邪が移ってしまったらと自分の気の利かなさに憤ると同時に申し訳なく思う。
本当は二段ベットでペアの望月は一番近いから離れた方が良いんだが、まさか皆が過ごす居間で寝る訳にもいかないし、便所や浴室を占領したらそれこそ迷惑だろうしで自分をあいつらから隔離する方法が見当たらない。うんうん唸って咳もしながら考えていたら、一つ検討していなかったことを閃いた。
そうだ、外に行けばいいんじゃないか。
ありがちにも右掌を上に向け握った状態の左手の側面をぽんと軽く打ち付ける動作をして名案の予感に眼を大きく開く。若干頭はぼんやりするし、思考が明瞭でない感覚は否めないが、ぱっと考え直してみても他に確実に俺という病原をあいつらから引き離せる場所が浮かばない。家族の様に可愛がっているあいつらにこんな苦しいものを移してなるものか。
鼻息を荒くせんばかりに拳を固く握って断決した俺は、めったに見れない優しい望月が持ってきてくれた水と、薬箱に書かれた使用説明を律儀に読んでくれたらしく、何か腹に入れんといけないってさ、といってお湯の入ったカップ麺と薬を貰い、流石に一人前食べれるほど食欲はなかったので汁椀に少し分けてもらって食べ、薬を飲み、寝た。……そう、寝た。
うちの風邪薬には全部眠くなる副作用があったのにすっかり忘れていた。やっぱり今の俺の頭は役に立たないらしい。だからといっていつもは役に立っている脳かと言うとそれは全く違う話な訳だが、それはともかく。
現在、愈々陽の光が殊更眩く映る天辺に昇ろうかという時分である正午前。風邪薬のお陰か寝る前に感じていた怠さや狭窄した視界は幾分か良くなっていた。だがやはり健康体の時のような気力には戻っていないし、暖かい格好をしていた割に暑いし寒気もする。
寝起き特有の眠気を耐えながらのそりと起き上がり、私物置きスペースをごそごそ探る。取り出した除菌消臭剤を目に見える範囲360度、上段の裏側や掛け布団は勿論のこと俺の周り約一メートルに吹き付けまくり、ベッド脇に立ち上がって仕上げに自分の布団に一吹き浴びせると上着を着込んで静かに部屋を出る。
ちらりと見て確認してみたが、自称布団の住人である望月は目に悪そうなパソコンの液晶画面の光がついていたものの規則的な呼吸音が聞こえたことからきっと寝ていたのだろうと当たりをつけている。
もし起きていたとしても、ヘッドフォンを装着しているから俺の立てる音は聞こえづらいだろうし、部屋の扉を背に向ける形で寝転がっているので振り返らなければ見えないだろうと思うので、見つかる心配もそう大きくない。
見つかったら問答無用で布団の中まで引き摺り戻される気がするから、無言で出て行くのも仕方無い。もしこの行動の結果俺の病状が悪化するとしても、あいつらと同じ空間で過ごして感染させてしまうより余っ程マシだ。外だったら何かほら、空気の行き場も広いから病原菌が霧散してくれるなんて事がない事もないかも知れないじゃないか。新鮮な空気吸う事だって重要だし必要であろう、うん。
外は天気の良い明るい空とは比例しない鳥肌が立つ寒さだった。空調がガンガンに効いた部屋にいたので、寒いとはいっても不快な程ではなく、寧ろ熱で弛んだ脳が引き締まるように感じて心地良いとも思った。
特に行きたい場所は無いが、取り敢えずこの寮から離れる為に足を踏み出す。もう直ぐ昼休みという事は、もしかして、また校舎脇の雑木林に一眼レフのカメラを持った関原が来ているのだろうか。そう考えたら、無意識にそちらの方に足が向いていた。
約束の日はもういつの間にか明日に迫っていた。土鍋は寮にあるし、基本的なおいしい塩むすびの作り方はインターネットで調べて脳内で手順は記憶してある。米はちょっとお高めのブランド米を今日買いに街に降りようと思っていたんだが、どうしよう。昨日の内に外出許可証は提出済みだが、流石に学校で授業をしている間だと門を通してくれないだろう。ただのサボりみたいに思われるだろうから。
放課後に行ってもいいが、その時間まで寮を抜け出していれば流石に望月に気付かれる。かも知れない。平時が夕飯まで寝室から出て来ない望月だから下手をすれば、という事も有り得なくは無いが、その前に財布を置いてきてしまったからこのまま寮外にいて運良く見つからなくても、放課後になって街に降りた所で何も買えない。起きて直ぐに動き出してしまったのは早合点だった。
マスク越しに感じる冷たい空気を呼吸していると、取り敢えず外に出なければと慌ただしく出て来た事による抜け目がまざまざと思考に溢れて来てうんざりするのに、でもいっそ胸のすく思いがして、俺はこういう馬鹿な人間だよなと開き直る気にもなる。この思考の一貫性の無さは風邪効果だろうか。
時計を見ていなかったから昼休みの時間になっているのかどうか分からないと校舎に近づいてから思い出したが、こっそり四組の自分が通う教室を覗いて見た限り、例によって人っ子一人いない閑散とした教室が見えるだけだったので、丁度よく昼休みになっていたのだろう。知らず強ばっていた肩から力が抜ける。
今の俺は思い切りラフな服装で、教師でも生徒でももし誰かに見つかったらどうなるのか分からない。怒られるのか、見た目からして柄の悪い不良がただサボっていると取られるのか、何にせよ良い反応をされることは無いだろうことが分かるし、第一常識的に考えて学校を休んでいるくせに外を出歩くなんて良く捉えられる筈がない。うん、やっぱり俺は馬鹿だな。熱にやられるともっと馬鹿な思考になるってことが良く分かった。
首肯して教室の中を覗いていた視線をくるりと反対側に向ける。今日も、関原はここに、来ているのだろうか。あのテレビで見たよりも角張った重そうな、でも関原の手に収まる一眼レフを携えて、一人でまたこの林の奥に入って自分の好きなようにカメラを瞬かせているのだろうか。
一度関原について考え出すとまた止まらなくなる。恐ろしくも遠からず昨日俺のせいで疲れさせてしまっていただろうから、そんな俺がいるかもしれないここに近付こうとすら思っていなくて今日はいないかもしれない。俺は昼休みの時間に教室以外にいた試しがないので尚更有り得る。
やっぱり礼が云々などと押し付けがましい約束は無かったことにして、出来るだけ関原の視界に入らないようにする事を優先した方が良いだろうか。それがいいのかも知れない。初対面からして最悪だった俺の事なんか数日すれば忘れるだろうし、大きいおにぎりあ食べたいなんていう破壊的に腕が鳴る要求をしてくれたことだけ胸に止めさせてもらって、俺が能無しで約束を守れないと土下座すればなんだただのゴミかと思われるくらいで大した事にはならずに済むだろう。
自分で思うより経験の少ない風邪に参っていたらしい。いつにも増して鬱々と沈み込む思考に引きづられたのか目眩までしてくる。眩みに合わせて足ががくりと脱力して倒れ込みそうになり、思わず校舎に縋り付く。
外に出たせいで身体が冷えたのか、寮を出た頃平気だった為に忘れかけていたのに、それが強引に喚起させれるかの如く、乾燥してヒリつく喉の奥から噎せるように咳いた。
「ごほっ…ぐ…っ、ごほっ」
堪えようとしても耐え切れずに抑え込む手の平の間をすり抜けていく。火照った体に心地好いと思っていた寒風も、いつの間にか背筋が粟立って治まらないくらいの肌を刺すような風に変わっていた。暫く咳き込んでいたら立っているのが辛くなってきて、壁に縋っていた手から力が抜け地面に膝を着く姿勢になっていく。現実逃避か先程の思考の続きか、関原の事が頭に浮かんだ。
関原の好きなものはなんだろう。カメラが好きなのか、撮ることが好きなのか。好きな食べ物は、きっと塩にぎりだよな。何のスポーツが好きなのだろうか。あの細い腕を見るに体力を使う動きがあまり得意ではなさそうだが。でも、その細い腕に俺の筋肉が着いた重い体は助けられた。
無意識に力の入らない右腕をあげてもう片方の自分の左腕を掴む。思った通りだし今更それがどうというわけでも無いが、硬い。何の感慨もなくやわやわと摩ってみる。頭が空っぽになったみたいに無感情に自分の身体を眺める。
何で俺はここに来たんだったっけ。自分の腕を強弱をつけて握り込んで弄びながら考える。えっと、風邪ひいて望月達に移したくなくて外に出て、それで、門は出られないから人気のない所に行こうと思って、それで…関原に、会いたくなって。
普通に考えたらこんなに単純に、早く恋慕の情を抱くなんておかしいんだろうな。でも、初対面であんなに俺と当たり前みたいに会話してくれる人、初めてに等しかったんだ。恋に落ちたなんて言い方したら気色悪いと思われるかもしれないけど、でも、それだけで俺の中で関原は特別になった。真野達とはまた違う意味で。
口が悪いけど、俺の名前呼んでくれないけど、でもそんな関原に、会いたい。意味が分からないって不機嫌そうにも感じる低い声を出されても、その根本にある優しさが何となく伝わる、あのかっこいい声を聞きたい。ああ、
「好き、だ…」
口を衝いてぽろりと落ちた言葉は、本人には絶対に言えない。言わない。地面を見詰めていた視界が滲んで世界が揺れる。腕を弄んで掴んでいた手は、歯を食いしばるのに合わせてギリギリとその腕を締め上げようと握力を込める。
自分が素直になれない可愛くない人間であることが悔しい。弊害も自分の釣り合わなさも分かっている癖に潔くなれない自分が腹立たしい。絶対に関原に好かれないと、俺と同じ気持ちになってくれることなんてないと分かっているから、苦しくて、悲しい。
水分が限界まで含まれた球面からぽろりと落ちた一滴が、昨日の雨で湿った地に染み込んで行った。
「何、蹲ってやがんだ」
聞き覚えのある、ありすぎる声に弾かれたように、頭をあげた。今の今まで俺が脳内で思い描いていて、会いたくて、でもそんな俺に付き合わせるなんて申し訳ないし、何かを欲しがることこそが馬鹿な考えで、想うことすら駄目だと分かっていたのに、でも、会いたかった、関原。その関原が、不思議そうな顔、は見えないけど、ぶっきらぼうと怪訝を合わせたような声で俺に話しかけた。
「あ、あ…の」
「あ゛あ?…おめえ、顔赤えぞ」
思考に靄が糸のように絡みついていつも以上に口の回らない俺の声に被せるようにしてダミ声を出した関原が、首に下げたカメラに気を遣いながら不可解そうな声でそう言って俺の正面にしゃがみ込んだ。
え、そんなに関原が好きだって顔に出ているのか。赤い顔って、そういう事だよな。お、俺は関原の声を聞いただけで顔を赤くするようなそんな分かりやすい奴になってしまったのだろうか。もしかしてそれ経由で、知ったら気味悪がるだろうこの気持ちが察知されてしまうなんて…ありえるかもしれない。
恐ろしい推察が的外れではない気がして、いきなり現れた関原と言われた言葉による混乱で目を白黒させたまま、急いで両腕を顔の前に持っていく。そうするとまた同じダミ声を俺の正面で吐き捨てた関原がなぜかそれっきり黙り込んでしまい、この微妙な空間に沈黙が降りてきた。
暫くそれが続いたかと思うと、突然顔の横に風を感じ、次の瞬間俺の後頭部は大きく広く、骨っぽい手のひらに包まれていた。それに心臓が飛び出そうな程仰天して、ほとんど反射の反応で思わず顔を隠していた腕を浮かせてしまう。髪の毛越しに感じる後頭部の感触に、声も出せずに動揺していると、なんと目の前に関原の顔が迫ってきている気配がした。
「は、ぁ…?せきは…っ!?」
行動が理解出来なくて、関原と呼んで、なんだこの状態は俺への腹いせかそれともご褒美か何なんだと、後半は混乱による本音が出てしまっただけだが取り敢えずこの目近さをどうにかしたくて声を上げたのに、それが聞こえていないかのように悠然と構えた関原はぐいっと更に距離を詰めた。
斯くして疑問を口にする前に閉ざさざるを得なくなり、あまりの近さにぎょっとして目を瞑ると、今度は額にひんやりとしたものの感触がして、これは目を開けたら大変なことになる、と瞑目を強くして息を止めた。
考えるな。想像してはいけない。これは関原の肌の感触なんかではない。そう、別の無機質な冷たい何かをおでこに当てられているだけだ。だってもしその俺のきっしょく悪い妄想が的中してしまったとしたら、落ち着けもしもの話だ。関原になんの意図があってこんな事態になっているか定かでは無いが、もしそれが当たっていたならばつまり---
「………おい、お前…熱あるじゃねえか!額が熱すぎる。なんでんな体で外出歩いてんだ。馬鹿野郎っ」
ぎゃー!やっぱり目の前に関原の顔がある。幻でも妄想でもない。関原が何か言ってるみたいだが内容が全く頭に入ってこない。なんでかってだから関原が喋る度、目つぶってて見えないし、見たら死にそうだが、目と鼻の先に有るであろう関原の口から出る息が顔にかかって来るんだよ。内から出る驚愕と困惑と、そして少し所ではない歓喜に叫びたくて堪らないが、俺の不浄な息を関原に掛ける訳にはいかないだろう。辛うじて身体を強ばらせる程度に収められた俺に良くやった、と言ってやっていいと思う。
心の中で自分を褒めたたえて現実逃避していると、俺から身体を離した関原が目の前で舌打ちする。なぜ舌打ちしたのかが分からず驚いて薄く目を開くと、目の前にある黒髪の頭から小さくクソっ、と聞こえた。口悪く眉に皺を寄せながら、唾棄するように地面に言い捨てた関原が、しゃがんだまま動いて俺に背中を見せた。靴底が砂と擦れる乾いた音がする。
「…おら。早くしろ」
……....は、?
広い背中だけど、骨っぽくて華奢に見えるなぁ、と眩む視界で思ったところでのこの言葉だ。急ぎ脳内でこの状況の次なる行動をどうするべきか、自分の知識とすり合わせてみるが、自らの記憶を辿ってみてもこんな行為をされた覚えが無いし、知識の中にも対処法は載って無い。早くしろと言われたからには早くしないといけないんだろうが、一体何を早くしなければいけないのか、根本的なところが掴めなくて困惑する。
この状態の動因を説明してくれることを期待して数秒待ってみるが、変な沈黙がこの場に胡座をかいて居座るだけで、逆に気まずさがみるみる増していく。
そのいたたまれなさを払拭したくて、咳を抑えられていない訳でも無いのに、態と喉のつかえを取るように咳払いしてみたら、思いがけず本物の咳が喉奥から込み上げてきてしまい、息がしづらくなってしまった。
「こほっ…ぅぐ…っ…」
必死に止めようと試みるが、やはりというか全く収まることなく、せめてと下を向いたが頭はズキズキとしだして、余計に視界が狭窄してきた。
出来るだけ抑えようと口に手をやっているので、実際空気が漏れるような咳しか出ていない筈なのだが、それでもそれを聞き取ったらしい関原が、理解に苦しむと言った空気を醸し出して振り返った。
「だから、早くしろっつってんだろ」
実際にはもっとドスの効いた、言葉全部に濁音がついているような声で言われた。
それはいいんだが、関原くん。俺は結局何を早くすればいいんだかさっぱり分からん。しゃがみ込んで片膝を立てた体勢的に見て、スタートダッシュでもするのか?じゃあ俺はストップウォッチを構えれば良いのだろうか。そうだとすると生憎だが、それは常備していないし、只今財布も持っていない手ぶらな俺では役に立たない。
「ぅっ…ふ…。……悪いん、だが、今、何も持っていなくて」
チクチク喉を突く咳をなんとか押し留めながら、申し訳ない気持ちでそう言った。次の瞬間、なぜか不穏な空気が重々しく漂い始めて、思わずビクッと震える。無言なのに、背中越しに此方を睨みつける関原の目が冷たく感じて、竦み上がりそうになった。図体が大きい癖に情けない限りだが、そう呑気に思える空気ではないことは鈍感な俺でもわかった。
「誰が見返り欲しいっつった?んなもんいるか。俺がやりたいと思ってしてんだ。次、余計なこと言いやがったら、ぶっ飛ばすぞ」
今までで一番落ち着いた、凪いだ声だった。口の悪さは変わらないのに、不器用さが滲む先程の声とは真逆で、殺気すら感じるようなその声に、関原の怒りがこれまでにないくらいなのだと知った。関原の腕がゆらりと持ち上がり、俺の首に伸びて来る。
関原の怒気に当てられて動けない俺は、たとえ動けても関原のすることを受けいれていただろう。関原を怒らせた原因は間違いなく、俺なのだから。例え殴られても文句は言わない。文句なんて、自分の意見の主張も碌にできない俺が言えるとも到底思えないが。
伸びてくる腕を目で追っていたら、その手は俺の胸倉を強く掴んで、捻り上げた。喉が閉まって苦しいが、それを訴える資格も俺にはないので、甘んじてその苦しさを受け入れる。すると、俺を睨み付けたままの関原の怒気が一層膨れ上がった。訳が分からないが、今何か余計なことを言ってもっと関原を怒らせてはいけないと思い、口を噤んだままで恐る恐る関原の顔を伺ってみた。
怒っているのは分かっているが、どう反応すれば関原にとって良いかを推定したかったし、少し混じる邪な気持ちを赤裸々にするならば、今まで長い前髪のせいで見えなかった関原の表情を、直に見たかった。
未だ鋭く此方を睨みつける関原の目とかち合う。ここは日陰だからはっきりと見れたわけではなかったが、初めて関原の顔をしっかりと真正面から見た俺は、息を呑んだ。骨っぽくて、俺からすれば力が弱いと感じる胸倉を掴んでいる腕と同じように、頬が痩け肉が薄いその顔立ちは、吹けば飛んでしまいそうなほど脆く見えた。でも、俺を睨みつけるその眼は鋭くて強くて、決して弱者と感じさせない。
俺を細い腕で助けてくれた関原はこんな顔立ちだった。俺が惚れた関原の強さは、その眼にこそ現れていた。見れて良かった。嬉しい。俺の心中はそれに埋め尽くされる。上っ面で考えていた綺麗事なんて忘れきって、自分の顔が間抜けにも弛むのを止められない。
その顔を隠したいが、関原が掴んだままの手の邪魔をしたくもない。優先するべきは迷うまでも無く関原なので、自分の気持ち悪い顔を隠したいのはなんとか我慢して、表情筋を引き締める努力をした。でも中々上手くいかない。自分の意思に従ってくれない表情筋の、なんと憎らしいことか。ただでさえ怒らせているのに、これ以上関原にストレスを与えないで欲しい。
思い通りに動かない表情筋を叱咤していたら、掴まれた首の締りが増した。そりゃそうだよな。本当にごめん。そう思って視界の焦点を関原に戻そうとすると、いきなり首元の襟を引っ張られて、身体が前に傾いた。
反射で受身を取ろうとしたが、前に持っていこうとしたその腕は地面に届かず、突然感じた浮遊感とともに、逆に離れていった。
「……え」
「ちゃんとつかまれ。落とすぞ」
若干物騒な事を言った関原は、動揺する俺を無視して歩き出す。
な、何コレ。どうゆう状況だ。いきなりの状態の変わりように鈍い脳みそがついて行かない。足が浮いてる。地面に足がついていないってこんなに心許無いのか。知らなかったな。いや、そうではなくてだな、落ち着けよ俺。
この恰好ってまさか、巷で言う『おんぶ』、とかいうものじゃなかろうか。見たことはあるがされたことがないので、人の体温を感じつつ自分の意思と関係無く前に進んで行く、このとても不思議な感覚を突如初めて味わうことになっている。俺の身体の間で関原を挟んでいる。なんだこれ、破廉恥な。俺の発想が変態なだけだろうか。駄目だ、混乱を極め過ぎてまともに考えられない。全く落ち着けないんだがどうすればいいんだ。
誰が答えてくれる訳でもないのに意味の無い質問が次々現れるが、無い頭の使いすぎか頭痛が酷くなるだけで好転する兆しは欠片も見えない。でも、ちょっとだけあいつらが抱きついてきてくれた時に似ているような気がする。最初は戸惑いに戸惑った、お互いが揉みくちゃにして揉みくちゃにされる、あれ。
俺はあれが結構好きだ。男の癖にベタベタしたいと思うなんて気持ち悪いんだろうってことはわかってるんだが、おんぶと同じく、あれも誰かとした覚えがあんまりない。幼稚園にも入らないくらいの幼少期にあったかなかったか。その程度の記憶じゃ、あんまりという言葉すら多いんじゃないかとも思う。
だから、人と触れ合うのに慣れてないんだ。初めて抱き着かれた時、物凄い衝撃を受けたくらいに。でも同時に、凄く、暖かいと思った。人の体温は、その人の鼓動が動いている証拠と同義だ。生きているんだ、と思う。触れていると、その体は暖かくて、微かに触れる腕の内側で脈打つのを感じたりして、頭を擦りつけてくるそいつが可愛くなって…上手く説明出来ないんだが、簡単に言うと、人と触れ合うのが嬉しくて好き、になった、って感じだ。
寒気が酷くなっていた体に関原の体温が移ってきているみたいで、前面が暖かくなってきて、なんだか安心する。ついさっき怒らせていた筈なのに、白い息を吐きながら俺を背負う関原は文句も言わず、それのみか落とされそうな気配も無い。寧ろしっかりと足を抱えてくれていて、落ち着いた気持ちになる。
そんな落ち着いた気持ちになったところで気づいた。これ、あれじゃないか。足がぶらぶらしているのは気付いていたが、腕も関原の肩に引っ掛けたまま宙に揺られている。体の前面が暖かい。つまり
バッと弾かれたように関原の肩に手を着いて体を起こすと、少し声を上げた関原がバランスを崩しそうになるが、持ち直した。
めっっちゃくっついてた!思わず変な悲鳴を上げそうになった。ていうか、めっちゃ体くっついてたじゃないか。なんだそれ、嬉し恥ずかしい。おんぶに驚きすぎてこの密着度を無視してた。や、やばいやばい。変態の俺に近づいちゃダメだろう。変態が移るぞ(?)
あわあわ狼狽えて目を回し、ひいいと幽霊にでも会ったかのような情けない声を無意識に上げていたら、俺の体が震えた。
正確には、今の俺は震えるほどの寒さを感じていないので、震源であるいきなり立ち止まった関原から伝わって自然と震えたのだった。
関原が遊んでいるのでなければ、一体何が起こったのかと不思議に思って関原の頭を見下ろす。未だ俺の体にまで伝わる震えは止まっていないが、顔が見えないので何を考えているのか想像もつかない。
ひょっとしたら、また怒らせたのかもしれない。それだったら想像に容易い。自分から乗った訳では無いにしても図々しくおぶって貰っている癖に、いきなり動き出すわ、背中でうるさくするわ、原因は考えなくてもポンポン浮かぶ。
ハラハラして落とされる覚悟をしていたら、関原が少しだけ首を逸らして上を向き、一瞬俺と目を合わせた。直ぐに頭を正面に戻した関原は、また体を震わせながらゆっくりと歩き出す。
今のは、何だろう。俺の見間違えじゃなければ、目を細めて微かに笑っているようだった。一瞬だったからちゃんと見れなくて心底残念だが、だとすると、この震えは笑っているせいで起きたものだったのだろうか。
「お前、前から分かったけどそれ以上に変な奴だな」
「え…ご、ごめん……」
「良い意味だっつーの。一々謝ってんじゃねえよ…うぜぇから」
「ごめ………ああ」
笑いを含んだ声で、またド直球に変と言われてしまった。声色だけ見れば楽しそうに感じるが、変な奴っていう札はいいものでは無いだろう。そんな表現をされるということは、それなりの印象を持たれるような何かを俺が行ったということに他ならない。その発言にムカつくよりも申し訳ない気持ちが勝って、出会ってからいままでの思い当たる全てについて謝るつもりで謝罪を口にしたら、今度は辛辣な言葉が帰ってきた。
良い意味で、というのがよく分からないが、謝罪自体が不服だった様なので、つい出そうになる口癖を喉の奥に押し込んで、素っ気ないとも取れる返事をしてしまった。顔も頭も、体中が熱い。
俺にしてみれば、展開を理解出来ていない愚鈍な頭が苛立たしかったが、関原はそんな返事で満足そうに鼻を鳴らした。
なんだこの可愛い生き物。何に満足してそんな反応しているんだろうか。本当に、肉付きが悪いのが勿体無い。ていうか、俺が健康的な関原を見て安心したい。自己満足だけど。明日、どうにか準備出来ないか。頭冷やして厚着して、生姜湯飲めば何とかなるんじゃないか。
ぼんやりする思考の中でなんとか気合いを入れて打開策を探していると、突然関原が俺を呼んだ。名前じゃなくて、おい、ていう呼び方だけど。その声に初めて至近距離で見る関原の背中をぼーっと見つめていた焦点を関原の頭に合わせたが、呼んだ本人からはなぜか次の言葉が続かない。横目に見える並木道の木から枯葉が落ちていくのが見えた。聞いていなかったが、どうやら寮に向かっているらしい。
「いつも、ああか」
「……ああ、っていうのは?」
「だから、いつもぼっちで昼飯食ってんのかって聞いてんだよ。聞いとけよ馬鹿」
「ご…」
「謝んな、ムカつく」
「……独りでお昼ごはん食べてるよ。毎日」
「だろうな」
「なんだよ!ていうか、なんでいきなりそんなこと聞くんだ?」
ああ、俺、罵られながらだけど今までで一番、沢山関原と喋ってる。話題がよく分からないし、場違いとは思うけど、嬉しい。頭がぼやぼやするせいか、緊張と風邪の熱が判別つかなくて要らぬ質問までしてしまう。これは怒られるんじゃないかって頭の端で思っていたら、予想外に関原は言葉に詰まっているようだった。余計なこと聞くんじゃねえクソが、くらい言われると思っていたのに、今の関原は一体何を考えているんだろう。
歩みを止めない関原は、数歩歩く間は黙っていたものの、案外直ぐに口を開いた。
「毎日あの林に通ってる」
……。ん?となるお返事を頂いた。あの林ってどこの林だろう。もしかして昨日会った四組の教室近くにある林のことだろうか。だとしても、それがどうしたんだ?意図がつかめなくて申し訳ない気持ちになる。
さっきとは反対に俺が黙ってしまっていると、痺れを切らした関原に舌打ちされてしまった。
「だからっ……ぼっちは寂しいんだろ」
「まあ、言葉にされると痛いが」
「…………だろ」
「え?ごめん関原、聞こえなか…」
「俺がいりゃあぼっちじゃねえだろっつったんだよ」
……。これまたん?となるお返事を頂いた。聞き間違えだろうか。勘違い、にしては間違えようの無い言い方をしていたが。俺の幻覚だろうけど、関原の耳が赤くなっているように見えて、聞き返すのがはばかられる。でもちゃんと聞く準備をしてからもう一度聞きたい。胸の底に浮かぶ期待を抑えきれなくて、噤んでいようとしたはずの唇が開いていく。本当に、まさかとは思うけど、もしかして、
「勘違いだったら悪い。…俺と一緒にお昼ご飯食べてくれるって、そう言ってるのか?」
そう言った瞬間ピクっと一瞬止まった関原の足が、若干ぎこちなく歩く。何だよ、その反応は。そんな反応するから、口が勝手に弛みそうになって困るだろう。まだ明確にそうだと言ってくれたわけでもないのに、俺の願望が幻を見せてるんじゃなければ、そう言っているのと大差無いと取れてしまう。
日頃に比べてネジを一本どこかに落とした俺の頭は、癖のはずのネガティブ思考まで熱とともに溶かしきってどうにかなってしまったらしい。ふつふつと湧き出す、らしくない幸せな考えが、風呂でのぼせ上がった時のようなボヤけた頭の中に浮かんだ。心無しかふわふわしたその心地が、眠気を誘っているような気さえする。
それにつられて夢現に、心の奥底に閉じ込めたと思っていた自分の柔らかい部分が、不意にぽろりと迫り出して露見してしまう。
「…本当はな。気色悪いと思われるかもしれないけど、一人でご飯食べるの寂しいって、いつも思ってたんだ。でも、学校で少し話しただけでもあいつらに迷惑がかかるって分かってるのに、こんな自分勝手で女々しい事頼めるわけないし。なんならそれ以前に、自分の事情で人に頼るなんて図々しいとしか言いようがない。誰だって幼い子供とか、女の子や高齢者は助ける対象であることを当たり前だと思うだろう。百歩譲って愛想が良かったり、低身長で平均より力が弱いとか、可愛げがあったりする男だったらまだ助ける対象として見れるかもしれない。だけど背は高いし、ましてや筋肉がついてるような厳つい顔の男を見て、誰が助けなければ、なんて思う。実際俺は大抵の事は助けを必要としない。けど、とどのつまり出来るかどうかは別として、そんな俺が助けを求めて誰が喜ぶんだっていう話だ。女々しくて変な奴とか思われるのが関の山だろう。だからさ、」
口が止まらない。言わなくていいことまでべらべらと捲し立てるこんな戯言、関原に聞かせるつもりは毛ほども無かったはずなのに、頭の中ではこれでもかってくらいに謝罪が湧いて溢れそうになっていても、こんな事言ってはいけないと思っても聞かない口からは全然違う言葉が出て来る。
ちょっと関原が親切にしてくれたからって直ぐに調子に乗るんだ、この口は。誰が聞きたいんだよこんな話。俺だって聞きたくない。目を逸らしたい話なのに、何も関係ない関原にまで面倒な思いさせてどうするんだ。でも、この使えないくせ余計に動く口は何でか止まってくれない。
「すごい、うれしい。ありがとう関原。おれと出会ってくれて、ほんとうにありがとう。…ほんとにぜんぶ、すきだ」
支離滅裂とはこの事じゃないだろうか。ていうか、言いながら大波の眠気が襲ってきて、本当は途中から何を言ってるのかも把握できてない。ただ、要らぬ事を喋っているんだろうというのは分かる。自分の弱っちい心臓が、いつも俺が緊張している時にドクドク脈打っている痛みと、同じ動きだったから。無意識な行動さえも馬鹿で馬鹿で、マジで嫌になるな。
いつの間にか突っ張っていたはずの腕は緩んで、俺の額は降りた先のシャツに埋もれていた。物凄く、暖かくて、眠い。寒気は感じるのに、触れる温度が暖かくて、心は安らかだった。既に目蓋は限界を迎えて、視界を閉ざしている。一度大きめに上下に揺らされ、抱え直されたのを感じて、俺の思考は微睡みの中に消えていった。
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心優しい方、私を教育して下さいませ。m(_ _)m