そして雨が溶かす
たまにはこういはうのもいいかなっと書いてみました。何気ない一言が、すごく心に響く事ありますよね?っと思い、つくりました。読んでいただけたら嬉しいです。
また暴走してる
また悪い癖
私は人を好きになりすぎる
好きすぎて
距離を詰めすぎて
結局好きな人は離れていってしまう。
だからいつからか私は
人と一定の距離を置いている。
離れず、近づき過ぎず。
そんなことをしていたら、
恋のしかたなんていつしか忘れてしまった。
仕事終わり。
会社のエントランスに出ると、さっきまでぱらついてた雨がザーザー降りなっていた。
傘はあいにく持っていない。
「もしかして傘持ってないですか?」
声がする方を見ると、後輩の井上が後ろにいた。
「そうなの。小降りなら、駅まで走ろうかと思ったんだけどね」
「じゃあ、この傘使っていいですよ」
井上は笑顔で傘を差し出す。
「いいわよ。井上君が濡れちゃうでしょ?」
「うーん。じゃあ、一緒に使いましょうか♪」
「え?」
井上は傘を開き手招きをした。
「駅まで。二人ともずぶ濡れになるよりマシですよ。」
井上の屈託のない笑顔に負け、おずおずと傘の中に入った。
私が傘の中に入った事を確認すると井上は歩き出した。
雨の中、歩調はゆっくり。ヒールをはいている私にあわせてくれている。
この子こんなに気が使える子だったんだ…
「あっ!先輩肩濡れてますよ!もっと寄ってください」
井上はぐいっと私の肩を引き寄せた。
「!? 私は大丈夫だから!ってか、ちっ近い…」
「ダメです!我慢してください。ホントに風邪引いちゃいますよ」
「大丈夫だって!私意外と頑丈だから!」
「でも、先輩の肩も、腕も、すごく細いです。力入れたら折れちゃいそう…もし、風邪ひいたら、責任もって僕が、看病しますね!」
「なんでそうなるの!?細くないし、風邪ひかないし!ってか看病とか来なくていいから!」
「いえ、行きます!行きたいんです!」
「何で!?来なくていいから!」
「行きたいんです!好きな人の部屋がどんなとこか見たいんです!あわよくば、看病している間に先輩の寝顔が見れたらマジ最高です!!」
「!?!?」
私は思わず井上の、顔を見た。
しかし予想外に顔が近づいていて、私はすぐ下を向いた。
好きな人って何!?いつからか!?ってかいい加減肩に回してる手をどけなさい!!
色々言いたいことはあるのに肝心な時に言葉が出ない。
雨音より心臓の音がうるさく響く。
二人はしばらく何も言わず歩いた。
駅が見えてきた時、再び井上が口を開いた。
「先輩が、人と距離をとってるのは何となく見たらわかります。理由は聞きませんが、少しでもいいので。僕に近付いてもらえませんか?僕、本気なんです」
井上の真剣な眼差しに負けたのか、私はポツリ、ポツリと話始めた。
「……私、人を好きになりすぎるのよ。1度好きになると、周りも見えなくなるし、相手も私が好きなのが当たり前だと思っちゃう。
重たくて、離れたくなってるとも知らずにね…イタイ女なのよ…だから誰も好きにならないように、傷付かないように、ずっと当たり障りなく過ごしてきた。」
「それって寂しくないですか?」
「慣れればどうってことはない。もう恋だの、愛だの…そんなの忘れたわ」
私は静かに呟いた。
その瞬間、肩に回された井上の手に力がこもった。
「じゃあ、思い出しましょう?僕がお手伝いします。人を好きになるって、すごく力になるんです。僕は先輩がいるから毎日仕事頑張れます」
そんなことをいつぶりに言われただろうか…
心の奥底が、じわじわと温かくなるのを感じた。
私は誰かにずっとそう言って欲しかったのかもしれない。
一人では動けなくなって固まってしまった心を
溶かしてくれる誰かを。
「私。いきなり男を部屋に上がらせるほど、軽くないわよ?
とりあえず……雨がもう少し弱まるまで、一杯飲みに行く?」
井上は、驚いて私を見下ろした。そして耳まで赤くなっているであろう私の顔を見てまた、屈託ない笑顔に戻った。
「はい。是非。行きましょう!」
二人はしばらくまた歩き出した。駅とはまた一本外れた飲食街へ。
歩いていると、また、井上が私に告げた。
「先輩が、二日酔いで動けなくなっても、僕、責任もって看病にいきますからね!」
やっぱり近づくのやめような…。
読んでいただいてありがとうございました。
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