魔王様とおでかけ8
はじめてのおつかいならぬ、おでかけです。
部屋で思い切り泣くだけ泣いて、アンに話を聞いてもらうと、心は思いの外すっきりとした。
今はまだシバにとっては誰でもよかった結婚相手かもしれないが、時間はたくさんあるのだ。これからリナリーで良かったと思ってもらえるように愛を育んでいけばいい。
そう思うとすっきりとした。
そんな時にアンが、シバからの手紙を持ち帰り、それを読んだリナリーの心は踊った。
城下町デートといえば、お忍びデートの定番である。リナリーも憧れはあったが、自分は第二王子の婚約者だから出来ないなと諦めていたのだ。
それが叶うのだ。
次の日、いつもより早く目覚めたリナリーはアンと共に洋服や小物など楽しみながら選んだ。
そして、ラベンダー色のワンピースに腰丈の可愛らしい赤のポンチョを身に纏った。
「リナリー様。ポンチョのフードはかぶったままにしてくださいませね。決してとってはいけませんよ。」
「わかったわ。」
「それでは魔王様とのデート楽しんでくださいませ。」
アンに見送られたリナリーはシバと共に城の裏門から出ると城下町へと降りた。
シバはいつもとは違い、シャツにベスト、黒のズボンという出で立ちで、雰囲気の違いにリナリーは少しドキッとした。
何を着ても似合うのだ。
「リナリー。可愛らしいな。あまり人に見られたくない。」
「シバ様こそ。何を着ても、素敵です。」
二人は微笑みあい、手をつなぐと町を歩き始めた。
「この町は色々なものがあるが、リナリーはどんなものを見てみたい?」
「今日は剣技会があるのでしょう?見てみたいです!」
「そうか。リナリーは武芸も楽しめるのだな。よし、行こうか。」
シバに案内され、リナリーは歩くと、周りからの視線を感じた。
やはり、シバ程の美丈夫はどんな格好をしても目立つのである。
剣技会の会場につくと、そこは人だかりが出来ていた。
「せっかくだ。俺も出て、リナリーに良いところを見せようと思う。」
「本当ですか?楽しみです!」
リナリーを、淑女方限定の警備のある観覧席へと案内すると、シバは笑顔で出場者の輪の中へと入っていった。
周りは人・人・人ばかり。リナリーはこの席から離れれば迷子になるのが目に見えて分かった。
ここからは移動しないようにしようとリナリーは心の中で思った。
試合はトーナメント方式であり、シバの出番は思いの外早くきた。ただし終わったのも早かった。
魔王だ。当たり前に強かった。
そしてシバはあっと言う間に決勝戦まで勝ち進んだのである。
決勝は、長身の大剣使いが相手であった。
審判の合図と共に試合は始まる。
石畳の舞台の感触を味わうようにシバは数回ジャンプすると、一気に相手との距離をつめ、低い体制から上へて剣を振りあげた。
男は難なく後ろへと身体を引き、それをよける。何度か剣がぶつかる音が響き、二人の呼吸は上がっていく。
リナリーも手に汗を握って応援をしていた。
そう。
その時だ。
鋼のなる音か響いた。
シバの剣が相手の大きな大剣を弾いた。
その弾かれた剣は真っ直ぐに勢いよく飛んだ。
そう。
真っ直ぐに、勢いを消すことなく。
リナリーめがけて、大剣は飛んだ。
大勢の人の息を呑む音が響いた。
リナリーは、眼前にせまる大剣を、その大きな切れ長の釣めでとらえたのであった。
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