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教師

朝目が覚めて、俺はいつも通りのストレッチをこなす。この世界でも朝日は登るらしく、地平線の向こうから真っ赤な太陽が顔を出しつつあるところだった。

ストレッチが終わると備え付けてあったシャワーで汗を流す。朝食は地球からこっちに来る時にこっそり持ってきた菓子パン、メロンパンを頬張る。

その後は、昨日のうちに渡された制服に着替え不備がないかを確認する。

「問題なし、動きやすく多様性のある制服で助かった」

一般的な制服とは違い動きやすい点に特化した制服だった。それに、隠しポケットも多い。これなら仕込みがいくつかできそうだ。

俺はキャリーバッグからおもむろに必要な道具を隠しポケットに仕込んでいく。最後に紅く綺麗な宝石を取り出す。その宝石は透き通るような紅色をしていた。まるで昔の彼女を思い出させるような。この宝石はその子、今は亡きクレイアにもらった言わば形見なのだ。

俺はそれを大事に胸元で握りしめ小袋に入れて胸ポケットにしまう。

「さて、行くか」

俺はすべての道具を持ってこの部屋を出るのだった。



学園に着いたあと、俺は昨日のうちに指示された通りに職員室まで来る。案内してもらったおかげで大体の場所は大まかにとだが把握出来た。昨日はもう授業が終わったあとなのか生徒が一人もいなかった。なので、今日が正真正銘初めてここの生徒と顔合わせになる。

「失礼します」

俺は職員室のドアをノックして中に入る。中には何人かの教師がいたが俺の姿を見るなり、妙に怯えてる気がするのだ。

「来たか」

そんな中、サユキ先生は顔色一つ変えずに俺の前までやってくる。そんなサユキ先生の姿を見て後ろで口をパクパクさせてる教師もいれば顔面蒼白で今にも倒れそうな教師もいる。一体何が起きてるのか理解できなかった。

「ついてきてくれ、クラスまで案内する」

「はい」

俺は先生について行くように職員室から出るのだった。


廊下を静かに進む中、サユキ先生が謝る。

「すまないな」

「はい?」

「みんな悪気があってああいうリアクションをとってるわけではないんだ」

「あぁ、別に気にしていないので大丈夫です。けど、理由ぐらいはお聞きしてもいいですか?」

そう俺が聞くとサユキ先生は一泊置いて、背中を向けながら話すのだった。

「…そうだな、君も今日からここの生徒だ。この学園の現状を知っておく必要があるだろう」

「この学園の現状?」

「あぁ」

サユキ先生はそう言って一息おく。

「この学園にはいくつかの専属のクラスに分かれている。今から君が入るシードクラスは戦闘に特化したクラスだ。他にも後ろから君たちをバックアップしてくれるサポートクラス、医療を務めてくれるキュアークラス。どういう能力か未だに判別がつかないイレギュラークラスまで多彩なクラスに振り分けられるが、その中でも戦闘特化クラスと戦闘補助クラスは二つに分けられる。戦闘補助の場合は実践に出て後方から支援するカバークラスと、武器や防具などのコンディションをチェックして強化や整備などをしてくれるサポートクラスの二つがある。逆に戦闘特化クラスは学園の防衛を任すシードクラスと、戦地に赴いて混沌と戦うフロースクラスの二つがある」

「なるほど、クラス事にそれぞれの役割があると」

「そうだ。だが問題はそこではない」

「といいますと?」

「フロースクラス。君が今から入るシードクラスと同じ戦闘に特化した神格を持つ子達のクラスだ」

「…なるほど」

大体の想像ができた俺はそう短く答えた。といっても、俺もまだ十八にも満たない子供だ。何年先に生きてる大人達が何に怯え何に頭を悩ませてるのかなんて深く想像できる訳では無い。けれど、俺が今まで生きてきてやってきたことの都合上そういう考えもできるというだけだ。

「君は私たちが何に畏怖し恐れているか今のでわかったと?」

サユキ先生も俺の返答に不満に思ったのかそう聞いてくる。当たり前だ、そのフロースクラスの子達と俺を重ねても先生にとっては等しく子供なのだから。

「フロースクラスの持つ力、でしょうか?」

「…そうだ」

サユキ先生は意外そうな顔をしてそう答えた。

けれど、これは誰でも考えうることの出来る問題でもあったのだ。サユキ先生がなぜ俺の返答について不満に思ったのかは別として。こんなこと、普通の教育を受けている人間で考えることに鋭いものなら容易に想像がつくだろう。だれけどここは違う。ここにいる生徒はまともな教育どころか生きることさえ命懸けだったものが多いのだ。つまるところ、学校なんて豪華なところに行けるほどのものが殆どいないのだ。それはまともな教育を受けてる子供が少ないということ。それがどういう意味をするのか。

「フロースクラスの殆どはスラム街や親に捨てられた子供達がおおい」

要はそういうことなのだろう。独自で手に入れた情報でもフロースクラスについてはずば抜けて注意するように書いてあった。

「そういう、生に対して強い執着心や誰かに対する負の感情が強いものほどより強い神格に目覚めやすい」

「…その強さに先生たちは」

「あぁ、コントロールさえできずただ怯えるだけになってしまった」

強すぎる力は恐怖を生む。それが今のフロースクラスということだ。だからこそ、俺はこのフロースクラスについて他のクラスよりも詳しく調べたのだ。

クレイアを殺した原因の一つでもあったから…。

「特にだが、男子生徒は女子生徒と比較して数がとても少ない。その代わりにとても膨大な力を秘めていて、その力は通常の2倍以上だ。それは君も同じだろう」

歩みを止め、サユキ先生は俺の方に振り向きその鋭い眼光で睨む。

「まぁまだ発言したばかりなのでどれまで戦えるのか、どこまで強いのかはわかりません。ですのでその言葉に返答しかねますね」

「…そうか。だがひとつはっきりとさせておこう。君には悪いが、正直私は君のことが信用出来ない」

「つまり、先生にとっては自分は敵だと?」

昨日の言葉のことを含めそう返事をすると、サユキ先生は首を横に振った。

「この学園にいるフロースクラスの男子は例外なく気が荒い。それは戦闘特化型のクラスだけ例外がなかった。つまり、君も心の奥底で何かを隠している。それにだが、君のプロフィールを見た限りところどころ不審な点がある、何かもが不自然なんだ。そんな君を学園長からフロースクラスではなくシードクラスに入れろとの命令があった。あのクラスは女の子だけしかいないクラスだ。フロースクラスとは違い心に傷を負い立ち上がれなかった子達の集まりでもあるんだ。そんな中、男子である君を入れるのはあまり気が進まない」

「生徒相手にぶっちゃけますね」

「それぐらい油断ならないということだよ」

そんな真剣な表情で本音を語ったサユキ先生。

確かに女の子だけのクラスにたった一人男子生徒を入れるのは担任であるなら誰だって気が進まないだろう。それに加えて男子生徒は力が強く気が荒いという偏見がこの学園では全体に広まってると見た。学園長がなぜ俺をフロースクラスではなくシードクラスに入れさせたのかは知らないがサユキ先生の信頼を勝ち取らなければ今後のミッションに支障が出るのは間違いないだろう。

俺は務めて冷静に、しかし愛想笑いを絶やさずにサユキ先生と相対する。

「大丈夫です。理由はどうあれ自分がシードクラスの、クラスメイトとなる人達に危害を加えることは絶対にないので」

「なぜそう言いきれる?」

「それが、俺にとっての約束でもあるからです」

「約束?」

「えぇ、それが彼女との約束ですから」

「その彼女とは一体誰のことなんだ?少なくともここにいる生徒に君と面識がある人間がいる可能性低いと思うが」

「クレイア」

「っ!」

俺の放った一言の答えに、サユキ先生は驚く。俺の口から唯一この世界で混沌に殺され、守りきることの出来なかった生徒の名前が出たからだ。

「なぜ、君が…。いや、そうか。君があの手紙の子だったんだな」

「そういうことです。俺はシードクラスを傷つけない。助けることがクレイアとの約束。それが最後にお願いされたことですから」

「……」

サユキ先生は何を思い出したのか下を俯く。その表情はとても暗く哀しい顔をしていた。

「…すまない」

「先生が謝ることじゃないですよ。それにここは最前線です。彼女もそれぐらい覚悟していたと思います」

「そう言ってくれると助かるよ…」

サユキ先生は俯けていた顔をあげて、なんとか表情を元に戻す。けど、その哀しさが消えることはなく、そんな顔を隠すように先生はまた背を向けた。

「話が長くなったな。わかった、君のことは信じよう。彼女のことは信頼出来る。その彼女が手紙を送っていた人なら尚更だ」

「信じていただけてなによりです」

そうとだけ返してサユキ先生の後をついて行くのだった。


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