壊れた外科医
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私は、悩んでいた。
「蜩先生、本当にありがとうございました。おかげで、娘も元気になりました!」
「先生のおかげです!」
「さすが、期待のホープ!」
称賛の言葉は、今まで散々もらった。
賞ももらった。
栄誉ももらった。
頼れる仲間、素晴らしい医療チームにも恵まれた。
天才外科医として、私は周囲からもてはやされた。
なにひとつ、不自由の無い人生を歩んできた。
……けれど、私の悩みは尽きなかった。
そんなとき、私は自分の運命を変える出会いを果たした。
◆
運ばれてきた患者達は、五人の少女だった。
フェリーの沈没に巻き込まれた少女。
通り魔に刺された少女。
性的暴行を受け、殴られまくった少女。
実の両親に毒を飲まされた少女。
そして、自宅を放火されて、その瓦礫の下敷きとなった少女。
私は、瓦礫の下敷きとなった少女を担当した。
病院は最善を尽くしたが、私が担当した少女以外の四人は亡くなってしまった。
その少女も、もはや長くはもたなかった。
私は、少女達の保護者達のうち、生き残っていた、もしくは逮捕されていない人々に提案した。
亡くなってしまった四人の少女達の臓器や四肢を、残った最後の一人に移植することで、救う方法を。
彼ら、彼女らは、私の提案を喜んで呑んだ。
その結果、五人分の人生を背負うことになった少女「水上つむぎ」が誕生した。
◆
再び、私は褒め称えられた。
五人の命を救った名医と、世間はのたまった。
……名医?
……笑わせないでほしい。
「……うっ、頭が……痛いっ! ……あっ。だ、大丈夫です! 私……いえ、『私達』、全然平気ですからっ!」
当の本人は、副作用でこんなに苦しんでいるではないか。
本人の意思とは関係なく、周りの勝手な判断によって、苦しめられているではないか。
医者は本当に、どんな事情があろうとも、患者を生き長らえさせなければならないのか。たとえ、助かった本人がどんな苦痛を伴ってでも。
この私の悩みは、ある確信に変わった。
◆
職場である大学病院から帰宅後、私はいそいで自室にあるノートパソコンを開いた。
そして私は、ずっとずっと前から考え、アップする直前でとどめていた自作のウェブサイトをネット上にアップした。
『自殺志願者、募集中』
トップページに大きく表示されたテキストを見て、私は自身の枷が外れたような気がした。
医者だって、人を殺してもいい。
生きる方が、苦痛であるならば。
私は、このサイトの中でこう名乗ることにした。
私が造り上げた、空想の救世主。
その名は……天国への扉を開ける鍵「ヘヴンズキー」。
「……死を望む者達に、静かな眠りを」