黄泉凍妃イザナミ
降神高校の体育館。
その屋根の上にいる2人は、校舎の屋上を観察していた。
「なるほど…「闘巫女」と「守巫女」以外の「巫女」か…いや、あれが本来の「巫女」かな?」
ペスト医師の様な仮面を着けた少年=コクシは楽しそうに言う。
「本来の「巫女」というのは?」
その側に立つ、同じようなペスト医師を思わせる鈍色の仮面を着けた女性=スズが聞き返す。
「そもそも「巫女」…つまり「巫」は薄っぺらい表現をすれば「シャーマン」の事だよ?
神の意志を伝える者。
「闘巫女」は、神の意志を伝える為に「神機」を操り、
「守巫女」は、その意志が間違って伝わらない様に「神機」を封印する。
そしてあの女の子は、神の意志を目の前に示す、もはや「預言者」に近い存在。
現状生きているのは2人しか確認されていない「巫女」の3人目…「降巫女」または「妃巫女」と呼ばれる人間だよ」
〜〜〜〜〜
指輪をはめた瞬間、目の前に薄暗い空間が広がる。
「焔帝」の時とは違うのは一目瞭然だ。
なにせ、立っている場所がゴツゴツとした岩肌であり、それが遠くの方まで続いている。
あと身体も動く。
【其方が妾を産んだのかえ?】
声と同時に、目の前に雪の様な白い粉が人型を作り上げた。
とりあえず分かるのは人型ということで、それ以外に表情などはわからない。
「産んだのは私じゃない。けど、私の親友が産み出して、私にあなたをくれた」
【なるほどのぉ…。して、其方は何を望む?
「神機」たる妾を使って、何を成す?】
「…何を成すって言っても」
【まさかとは思うが、大義も無しに妾を使うつもりかぇ?】
雪の量が格段に増え、風も巻き起こり始めた。
「大義なんてものじゃないけど、とりあえず今は、友達を助けるために、目の前のアイツをどうにかしなきゃいけないの!
力を貸して!!」
【ふむ…ならば、貸してやらんこともない」】
思ったよりあっさりと承諾された。
「ほんと!?」
【ただし、代わりに。
今回力を貸した後に、其方の命を貰うとしよう。
なぁに、「神機」が使用者の魂を食らうなど容易いからな、楽に食ろうてやろう】
「な?!」
やっぱりそんな簡単に行くはずないか!
「それは…」
【どうした?怖いかぇ?
まぁそれも自然よのぉ。
たかが、友人1人救うために自分を犠牲にするのは簡単ではないからのぉ?】
「違う…」
【何が違うのかぇ?言うてみよ?】
嘲笑うかの様な声。
ミウミを助けるために私が死ぬ事は、怖く無いわけじゃない。
そうしないと行けない状況ならそれでも構わない。
私は死を選ぶ。
ミウミはそれくらい大事な友達だから。
けど…それよりも先に私には…。
「私はまだ、死ぬわけにはいかない…」
【ほぉ?】
「おばあちゃんは、文字通り全身全霊で「守巫女」であり続けた。
なのに私はまだ「闘巫女」になったばかり…!
ミウミを守るには私が死ぬしかないって言うならそれでも良い!
でもその提案があなたの気まぐれってだけなら、私はまだ死ねない!!
今死んでも、おばあちゃんに顔向け出来ない!!」
【なるほどのぉ…】
「ミウミを助けたい。けど、私はまだ死ねない!
これは「大義」とかそんなんじゃない…私の…
ただの「意地」と「わがまま」!!」
言いたい事は言った。
でもまだ、この目の前の女が適当な事を言うなら、私は不利でも「焔帝」で戦う。
数秒の沈黙。
【なるほどのぉ…なるほどのぉ…
其方、名はなんと言う?】
「神護 アマネ」
【かみもり…かみもり…
おぉ!思い出したぞ!
其方、「降神神社」の神主の娘かなにかかぇ?】
ちょっと予想外の名前が出てきた。
「焔帝」はおばあちゃんの事を知ってたけど、この人も知ってるのかな?
「いや、特にそういうわけじゃないと思うけど…。
ねぇ、あなたも神護 アマギって知ってるの?」
【誰じゃそれは?
妾が知っておるのは、「降神神社」の神主である「神護 アマミの事よ】
・・・それ誰ぇぇ。
ご先祖様か何か?
「ご、ごめんなさい、その人は知らないんだけど…降神神社はよく行くから、関係はあるかも。
あとで調べてみます」
【なるほどのぉ…もはやそれ程まで、妾が壊されてから時が立っているのかも知れないのぉ。
まぁよいわ。
アマネと言ったな?
其方に力を貸してやろうぞ】
「な、なんかまた対価とか言うんじゃ…」
【くはは!
もうそれは良いわ!
其方の「意地」と「わがまま」を、妾も見てみたくなったたけじゃ。
それに、妾もそろそろ暴れたいと思うておうた頃合いじゃからなぁ?
この「黄泉凍妃イザナミ」がアマネの力となろう】
その言葉を機に周囲が完全に白い雪で覆われ、視界が遮られる。
勢いを増す風雪の中、遠くの方で「イザナミ」の声が聞こえた。
【今回は特別じゃ。
今時の言葉で言うならば「出血大サービス」というものじゃ】
〜〜〜〜〜
目の前にはランスと盾を装備した仮面の男。
その数メートル横にはミウミが此方に親指を立てている。
「ありがとう、ミウミ!使わせて貰うね!」
「…お!早速話はついたみたいね!」
私はうなづき、仮面の男=ウスアイを睨みつけた。
「なんだよその目は…ムカつくなぁ!!」
「あなた、ただ血の気が多いだけじゃないの?友達のため的な事言ってさ?」
ウスアイの動きが少し止まる。
「言ってくれるじゃねぇか?
ま、確かに戦いは好きだけどよぉ…友人殺されたのは頭にきてるわブワァ〜カ!!!」
ウスアイが再びランスを空に掲げ、水を纏い始めた。
私は両手を前に突き出して、イメージする。
「出血大サービスなんて言ったんだから、初っ端から「武装化」できるんでしょうね!!」
言うが早いか、すぐに頭に声が響いた。
【使えるものなら使うてみよ。
さぁ妾を呼ぶがいい!】
足元に冷たい風が吹いた。
見ると、私が立っている場所半径数十センチが氷に覆われていた。
更に言えば、突き出した両手にも冷気が宿っているのを感じる。
足元に刺さっていた「レーヴァテイン」が火の粉の様に消えて行くのを視界の端に捉えつつ、私が両手に触れた何かを掴む。
「黄泉凍妃…イザナミ!!」
手にした何かは、徐々に氷の塊になっていく。
そしてある程度の大きさになった瞬間、氷は砕け散り、
その両手には、
それぞれ青白く輝く扇子があった。
周囲を一瞬、かなり冷たい風雪が過ぎ去った。
【今のもサービスじゃ】
「イザナミ」さん、思ったより粋な事をしてくれるじゃん!
新しい「神機」か…
まだ早い気もするけど、今はそんな事も言ってられないしね!
私は両手にある扇を構えた。
「なんだよ…お前!炎の「神機」じゃねぇのかよ!」
「さっきまではね!
そっちから来ないなら…!!」
扇を一振りする。
すると、さっきとは比べ物にならない冷気が地面を這い、ウスアイの足元までが氷結した。
「行くよ!」
勢いよく地面を蹴り、その氷の滑走路を一気に滑り距離を詰める。
右手の扇を畳み、それを滑ってきた勢いのままウスアイの腹部に狙って存分に振るう。
「ごふぁ!」
ウスアイはとっさに盾でガードしてきたが、その盾で衝撃は吸収できなかったようで、
数メートル吹き飛んで、貯水タンクに身体を打ち付け、地面に転がった。
「くっそ!
貫け!水巳槍ぃ!!」
「言っとくけどその技、あんま危機感感じないんだけど」
左腕を前に突き出し、扇を構える。
一直線に発射された水のレーザーは扇に命中するものの、完全に弾かれ、一切効いていない。
「それに、その技リロードが長いもん」
さっきから全然連射してこない。
それどころか、撃つ直前に水がドリルみたいに集まるし、技名言うし、本当に穴だらけだ。
「お前武器が変わったからって調子に乗るなよ!!
纏え!渦蛇槍!!」
ウスアイの言葉に呼応してか、ドリルの様だった水が意志を持った様にうねりはじめ、そして巨大な蛇の形を作り上げた。
「これからがこの「水蛇ヒュドラ」の本領発揮の時間だぁ!!」
「これは…」
なんと言うか…ホントに…
「がっかりだわぁ…」
「な!?」
この手にある「イザナミ」を掴んだ瞬間に、漠然とだが、この「神機」の力が理解できた。
だから断言できる。
あの程度は敵じゃない。
「そろそろお昼休み終わる時間だからさ…一気に終わらせるよ!!」
扇を構えると、その上に小さな風雪の竜巻が発生した。
「イザナミさんさ、なんかコレ名前付ける?あっちも技名連呼してるからさ?」
【なるほどのぉ…では・・・】
「・・・了解!」
ランスから伸びる水蛇を見て、ウスアイに視線を戻す。
自然と口角が上がってしまう。
なんだろう。
昨日は初戦だったからか余裕は無かったんだけど、今はすごく気持ちが軽い。
「黄泉送り「白銀世界」!!」
扇を全力で振るうと、風雪の竜巻はその勢いと大きさを増しながら、一直線にウスアイに向かって行った。
ウスアイも防御の為に盾を構えつつ、ランスから伸びる水の大蛇を風雪にぶつけた。
しかし、
水の大蛇はその竜巻に触れると同時に、先端から一瞬で凍りついていき、
ただの巨大な氷の像と化していった。
「なにぃ!?」
蛇の根元、つまりはその操り手であったウスアイは、心もとない盾で防御を試みるも、
やはり焼け石に水であり、
一瞬にして氷漬けとなった。
暴風雪が過ぎ去って数秒。
ウスアイの動きを止めていた表面の氷が砕け散った。
同時に、盾とランスも砕け散り、光の粒となって空中に霧散した。
「お、お前…必ず、この手で始末してやるからな!!」
若干、よろよろしてはいるが、ウスアイはひび割れた仮面を抑えつつ、
後方に飛び去り、その場から姿を消した。
まさかとは思うけど、あの人もいつの間にか死んでましたとか、ないよね…?
そう考えつつ、私は呆然と立ち尽くすミウミに顔を向けた。
「いやぁ…一発でここまで力を引き出すとか…予想外だわ…」
「なんか、出血大サービスだって言ってた」
「なにそれ、趣味悪い言い回しね?」
ミウミの言葉に自然と笑みがこぼれ、そして2人で大笑いした。
〜〜〜〜〜
「お、お前が…アサギも…こうして…!!」
「そゆこと〜。んじゃ、行ってらっしゃい」
スズの腕が腹部から引き抜かれると、ウスアイは力なくその場に崩れた。
「にしても、もう二つ目を使えるんだねぇ〜。
あの「闘巫女」って何気にヤバいんじゃないかな?
どう思う?スズ?」
腕に着いた血を拭いながら、スズはコクシの方を向いた。
「使いこなしてるとは思えませんので、まだ勝機は充分あると思います」
「だよねぇ〜・・・今のうちに、あのジジイでもぶつけてみたいね」
そのペスト医師を思わせる仮面のクチバシ部分を指でなぞりながらコクシは呟いた。
「まぁ俺の「神機」なら簡単に始末できると思うんだけどさぁ…ねぇ?」
「やってみなくては分からないと思いますよ。情報も少ないですし、「降巫女」も一緒なら尚更に。
また土壇場で「神機」を造られたらたまりません」
「それもそーだね!
んじゃ帰るかなぁ」
コクシは無邪気にそう言うと、トコトコと歩き始めた。




