第八話
「ゴルァァっ!」
タンクタートルが雄叫びを上げこちらに突っ込んでくる。
ギウスとシグマはそれを別々の方向へ跳んで回避する。ついでに触手で攻撃するが、
ガンッ
と音がして簡単に弾かれる。
(やっぱりかなり固いな。)
そう思い、さらに飛び退く。
タンクタートルの尾がこちらへと振るわれたからだ。恐らくこの翼なら防ぐ事が出来、相手の尻尾を砕く事も出来るが、
(出来るだけ傷が少ない状態で倒したいんだよな。)
と思っていたため、使おうとはしなかった。
もし街に行った時に売れるかも知れないし、それに飯の問題がある。
ギウスも一応生き物だ。
そのため飯を食べなければ生きていけない。
最も、魔人の体はかなりエネルギーを消耗するらしく、かなりの量を食べなければならないが。
あまり傷つけないようにしたいのはさっきのヴィシャスウルフとの戦いで倒し方でシグマに負けたくは無かったからと言うのもある。
(だったら狙うのは・・・)
そう思い、タンクタートルの首を見る。
どんな生き物でも首を斬れば死ぬだろうと思いそこを見た。
そしてシグマと視線を合わせる。
先ほどからこちらを見ていた(恐らく攻撃を躱せたのかどうかを確認していたのだろう)シグマは視線の意味を理解して、槍に雷を纏わせ、甲羅を攻撃する。
シグマが持っている剛蠍槍グラン・カムランは能力に魔力を通すと斬属性と風と雷の属性を付与できる。
それに雷のみを付与させ、攻撃した。
「ゴルァァァァァァ!!!」
いくら防御力が高くても属性攻撃には耐性がそこまで高くなく、さらに格上のゲイザースコーピオンの素材で造られた槍だ。その雷を防ぐことが出来ず、タンクタートルに少なくないダメージを負わせる。
それが怒りに触れたのだろう。
タンクタートルはシグマに狙いを定め、もう一度突進してきた。
ただの突進では無く、口の刃で獲物を切り裂かんと噛みつこうとする突進であった。
まともに受ければエンシェントゴーレムであるシグマも無事では済まないだろう。
しかしシグマは回避をしようとせず、手にある盾を構えた。
「ゴルァァァ!」
やった!!
そのような歓喜に似た感情でシグマに盾ごと噛み砕かんとし、盾に噛みついた。
しかし、それは最もしてはいけない間違いだった。普通の突進であればまだ何とかなっていたのかも知れない。
あるいはシグマの持っていた盾が、妨蠍盾ゴラン・カムランでなければ良かったのかも知れない。
妨蠍盾ゴラン・カムランの能力は物理攻撃と魔法攻撃を防ぐのと衝撃反射、文字通り衝撃を相手に反射するものだ。勿論全てでは無いが、8割もの衝撃を反射出来る。
それは相手の攻撃が強ければ強いほど強力になり、
「ゴルァァァァぁぁ!?」
それをまともに食らうことになる。
そしてまともに衝撃を食らった顎は、
「ゴるァぁァァァァァァァぁぁァ!」
関節に衝撃が集中し、外れる。
これが噛みついてはいけない原因だった。
そしてまだ衝撃を受け流しきれずに後ろへ後退することになり、それがタンクタートルにとって致命的な隙でありギウスにとってこれ以上無いほどのチャンスだった。
「ハァァァァア!!」
そしてギウスは手にある死鉤に魔力を通して青い光が出現し範囲を広げ、そしてタンクタートルの首に斬りかかる。
タンクタートルはそれを黙って見ることしか出来ず、さらに叫び声も上げる間もなく、
「ハァッ!!」
クローが首に触れ、一瞬で切断した。
「ふぅ、以外に早く片付けれたな。」
そうギウスが息を吐きながら言った。
それに対し
「ホボアイテノイヒョウヲツケマシタシネ。」
そうシグマが返してきた。
そして2人そろってタンクタートルを見る。
タンクタートルは首を切断されて血を噴き出していた。どう見ても生きて等いないだろう。
「ドウシマスカ?」
シグマがこいつを剥ぎ取るのかどうかというのを簡単に聞いてきた。
ヴィシャスウルフの血の匂いでこいつは誘われてきたが、それは他の肉食の魔物も同じで、より濃くなった血の匂いで集まってくるかも知れない。
いや、絶対に集まってくる。
そうなったときにまた戦闘になる。
だから剥ぎ取りをせずにこの場を去るか剥ぎ取りをするのかを聞いてきたのだ。
ギウスは悩んだが、
「折角倒したんだし、出来るところまで素材を取っておこう。」
と剥ぎ取りをする事を選んだ。
正直倒した相手をこのまま他の魔物の餌にはしたくなかったし、それにいつ街に着くのかも分からない。その前に食料を見つけることが出来なかった場合とてつもなく致命的なことになるからだ。
だから素材と共に肉を回収したかったのが本音だ。
(というか、何でアイテムリングは死体はだめで肉は入れられるんだよ。)
そう思いながら回りを見る。
剥ぎ取りならシグマがしてくれるし、それに剥ぎ取りをしやすいナイフが1本しかない。
それゆえギウスが出来るのは当たりの見張り、警戒しか出来なかった。
(今度剥ぎ取りをチャレンジしてみるか。)
いつかナイフをもう1本手に入れたら剥ぎ取りの練習をしよう。
そう思いながら見張りをして30分。特に何も起こらずに、
「オワリマシタ。」
そうシグマが言ってきた。
見てみると、それぞれの素材が別々に分けられており、それぞれがしまいやすいようになっている。そしてそれぞれの素材は殆ど傷が存在せず、あってもナイフを入れた時のものしか存在しない。
しかもシグマには血の跡が手くらいしかついておらず、かなり清潔的だ。
(甲羅の中にある肉をとるためには体から入らないと無理なのにどうやって血を付かないようにしたんだろう。)
勿論大きい布のようなものはなく、体を入れるようなものは無い。
その状態で手以外に血が付かない理由を考えていた。
「アノ、ハヤクシナイトマタマモノガキテシマイマスガ。」
「ん?・・・ああ、すまない。すぐにしまう。」
思ったよりも長く考えていたんだろう。
シグマに言われて慌てて素材と肉を拾う。
確かにまだ余裕ではあるが、何かの拍子にもっと高ランクの魔物が現れたらどうすることも出来ない可能性がある。
急いでやったおかげで5分でしまうことが出来た。
「さて、早く移動しよう。」
「ワカリマシタ。コチラデス。」
シグマが先導し、それに続く。
戦闘で移動が遅れたし、あまり魔物に会いたくないということもあって少し駆け足気味で歩いていく。それでも一般人の走りより大分速いが。
10分後、駆け足をしながらシグマと話す。
「あとどれくらいでこの森を出るんだ?」
「アトダイタイ15キロクライデツキマス。」
「あと半分か。」
「ハイ。ダカラアトモウスコシガンバ───トマッテクダサイ!!」
突然そう言われ、立ち止まられたので反射的に止まる。その際、つんのめって倒れそうになったが何とか持ちこたえる。
魔人の常人では出すことの出来ない力のおかげで倒れずにすんだ。
シグマはエンシェントゴーレムだからどうにかなるのだろう。そう思った瞬間、
「!?」
急に背中が冷たいものが走り、反射的に触手を振るう。
「キシャアア!」
同時に何かの鳴き声が聞こえ、
グシャァッ と音がした。
そして目の前には地面に叩きつけられた鳥が、いや、鳥の残骸があった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
余りのことに2人とも黙る。
勿論シグマが止まれと言ったのはこの鳥が今にも鋭お嘴を向けてこちらに突っ込もうとしていたためだったが、それが仇となり、目の前に残骸となって存在していた。
「・・・・ドウシマスカ?」
「・・・・羽と嘴だけとるか。」
意外な出来事だったが2人とも調子を取り戻し、素材になりそうなところだけ持ち、その場を後にした。
実はこの鳥は『スパイラルドリル』というランクCの危険な魔物だったが、防御力がなかったが為に、また、触手の振るうスピードが速すぎたがために、そして自身が相手を貫く体勢に入り、飛んでいたために躱すことが出来ず、相手にもされなかった。