第七八話
村を出発してギウス達一行は、森を進んでいった。
本来なら、人が入るにしては危険すぎる森深くを進んでいくのは危険極まりない行為ではあるが、森を進まなければ、予定の3日に着くことが出来ないとマスガウトが言った事、そして、今回は村の防衛に何体か置いていったが、大体10体(シグマは数えていない)のエンシェントゴーレムを連れてきていること、そして、マスガウトやゴルニス達3人の経験豊富な高ランク冒険者が共に行動することから、森を進むことになった。
もっとも、ギウスは魔人で、その能力に暗視というものがあり、暗い森の中でも問題なく進むことが出来るが、かつて会った盗賊達の反応を考えたギウスがそれを明かしていない以上、知る由もないことだ。
今回は幸運にも魔物にも襲われたりすること無く順調に森を進むことが出来た。
恐らく、襲撃犯達がこの辺りを通る際に撃退したりしたのだろう。
それを証明する血の跡を所々発見することが出来た。
これを見たギウスは、
「これこそ、不幸中の幸いってやつか。」
と、呟いたのを、シグマにその意味を聞かれ、また、他のエンシェントゴーレム達からも同じように聞かれたりしたことに、困った反応を見せたギウスを見て、マスガウトやゴルニス達がちょっかいを出してきたり等、多少ふざけた様子さえ見せていた。
しかし、決して余裕があるわけではない。
出発前にマスガウトやシグマから聞いた話だが、襲撃犯の残りの中にかなり高い確率で、かなり腕の立つ魔法使い、または魔術師がいるという。
理由としては、襲撃犯達が初めの襲撃から2回目の襲撃を仕掛けてくるまでの時間の間隔が狭すぎるとの事だった。
通常、村と銀鉱洞を行き来するのに、一番近い道で3日を要する。
そうなれば、襲撃犯達が村に再び攻撃するには、1回目が全滅し、それを伝える為に3日使い、そして、部隊を整えるための時間を除いたとしても、村に来るのにさらに3日かかった計6日間かかるはずだ。
しかし、襲撃犯達の2つ目の部隊が攻めてくるまで、大体3日程度しかかかっていない。
普通であれば、これは異常だ。
しかも、本来なら、襲ってくる魔物や野生動物との戦闘、そして、集団で纏まって森の中を動くことを考えれば、どう頑張ったとしても、不可能だ。
だが、実際に襲撃犯達は、3日たった後に接近していた。
そこでマスガウト達が考えたのは、強力な魔法使い等がいることだった。
この世界に存在する魔法は、属性が8種類──無属性を除く──存在すると共に、これらの属性に作用される魔法が存在する。
目標を攻撃する攻撃型魔法
目標である生物の精神に影響を与える精神操作型魔法
回復または防御力や攻撃力等の能力を上げる強化型支援魔法
目標に対し、攻撃力の低下や防御力の低下等、目標にとって好ましくない効果を与える阻害型魔法
攻撃魔法の類ではあるが、主に味方の援助を目的とした攻撃型支援魔法
味方や敵などを探る他、物や罠を発見する探索型魔法
罠を設置し、それにかかった敵を陥れる設置型攻撃魔法
魔物を召喚、使役し、様々な用途に使う事ができる召喚型魔法
魔道具やポーションを作ることができる製作型魔法
非常に高度で、使える者が殆どいない転移型魔法
信仰する宗教、神によって使える魔法は異なり、使い勝手は悪いものの、他の魔法の同じ種類の魔法よりも強化されている信仰型魔法
これらの魔法に対抗し、打ち消す対抗型魔法
これら計12種類だ。
初めて聞いた名前で、この世界の魔法の種類そのものも初めて知ったものばかりだったが、これらの魔法がどのような役割なのかは理解できた。
これらの中から、恐らく強化型支援魔法または転移型魔法を使える者がいるかもしれないということだ。
転移型魔法の場合は、送る人数も多いため、相当な魔力を消費するほか、魔法の回復を待たなければならないため、もっと遅くなるかもしれないとマスガウトは言っていたため、可能性は低いだろう。
しかし、強化型魔法であれば、話は違う。
敏捷性を上げる魔法や筋力値、体力の消耗を抑える魔法を組み合わせれば、出来ないことはないかもしれないとのことだった。
これらの魔法は、手間は多少かかるものの、転移型魔法よりは簡単な上に、魔力の消費量は低く、尚且つ、低級な魔法であっても魔法を使う者の技量によって上がる能力値は変わるとのことだ。
それらのことから、部隊の移動そのものが3日程度で済ませるほどの強化型魔法を使える魔法使いがいる可能性が高く、そんな存在がいるため、このメンバーで特に熱意を入れているギウスの緊張を解くためにしてくれていた。
そんなそんなやり取りが何度か繰り返され、順調に進み、3日後。
一行は、目的地であるフロンティリア銀鉱洞の目の前まで進むことが出来た。
しかし、一行はそこで足止めされ、フロンティリア銀鉱洞の出入り口、正確には、そこにあるものを注意深く見ていた。
「さて、どうするんだ?」
ギウスは、草木に隠れながらそう訊ねる。
その視線の先は、フロンティリア銀鉱洞の出入り口に置かれていたバリケードだ。
バリケードとはいえ、何本かの丸太で作られたものは、簡易な作りながらも頑丈そうで、一定の力量の魔物には有効的に効果を発揮するだろう。
それは人の腹部までの高さで揃えられており、足止めを目的としていることが伺われた。
そして、次に視線はそのバリケードの両側に立っている見張りに向けられた。
装備は長剣と弓、またはボウガンで遠距離から攻撃されても対処できるようになっている。
防具そのものは皮鎧で、兜の類もないため始末は簡単に済むだろうが、同時に始末しなければすぐに応援を呼ばれてしまう。
そして、最後に視線を動かしたのは、そのバリケードが設置されている奥の方にいるもう1人の見張りだった。
その見張りは、2人の見張りとは装備が違い、防具は見た目からして布製で、鎧というよりはローブのようだ。
そして、その手に持っているのは杖であり、それがその見張りが魔法使いであることを証明していた。
「どうするっつったって、隠密行動はもう無理だな。」
ギウスの問いにそう答えるマスガウトは、苦虫を噛み潰したような表情をした。
この依頼を行う際、マスガウトから捕虜のボルトから得た情報として、襲撃犯達の情報を得ることができた。
その中で、魔術師は2人、魔法使いは10人いることが判明し、2回目の襲撃犯達の攻撃を防いだときに、合計8人の魔法使いを倒したことはわかっていた。
そのため、合計4人しか魔法を使う者がいない襲撃犯達は、本拠地でそれらを奥の方で何かしらの作業とかをしていると踏んでいたのだが、見事に外れた結果となった。
「普通魔法使いとか見張りに置かねぇだろ。」
「人数が少ないから、逆に置いたのは?」
「それこそ無いな。魔法使いとかは貴重だから、普通は人数が多くても見張りなんかにしない。しても、そいつらが作ったゴーレムやガーゴイルだな。」
舌打ちをしたマスガウトに、それに賛同し、ギウスに説明をしてくれたゴルニス達も、誰1人として、見張りの魔法使いの対処などしていない。
ギウスも、魔法使いはどのような存在なのかはこの場で初めて知った。
そんなギウスが考えられるのは、たった一つだ。
「ばれるの覚悟で、突撃しかない・・・か?」
「普通は、そんなこと絶対にしないが、まあ、仕方ないか。」
「俺は、そっちの方が有り難いな。」
「武器を投擲しても、相手の当たった箇所によっては音がなりますし、貫通して壁に当たっても、外して壁に当たってもどうせばれますね。」
「そういや、レギス。お前魔法がたしか使えるんだろ?何とかならないのか?」
「・・・残念なことに、攻撃型魔法しか・・・試してみないと分からないけど。」
「博打はこれ以上結構だな。じゃ、やるか!」
ギウスの提案に、各々が一言言い、賛同する。
森から飛び出て、銀鉱洞まで大体20メートル。
本来なら、もう少し木があったりして、隠れながら進めたが、それも撤去されたらしく、森から出れば確実に見つかる。
例え、この場に魔法使いがこの一行にいて、音を消したり、身を隠したりする魔法を使ってもらい、進もうにも、仕掛けられているであろう探索型魔法で、ばれてしまう。
だったら、一気に突撃し、危険を承知で進むしかない。
例え、この場所で待って、最大のチャンスを窺ったとしても、襲撃犯達の第2班が帰ってこないことで警戒され、最悪、抜け道等があった場合、逃げられるかもしれない。
そうなれば、依頼を失敗し、今後の村の危険を残したままになってしまう上、ルミアがもう2度と帰ってこない可能性は十分にあった。
それは、ギウスにとっても、誰にとっても決して望まれたことではない。
「絶対に、やらないとな。」
ギウスは、誰にも聞こえないように小さく呟く。
マスガウトはそれに気付かず、エンシェントゴーレム達やギウス達に指示を出した。
そして、その位置に各員が着くのを確認し、
「着いたな?それじゃ、3を数えたら行くぞ・・・、1・・・2・・・3!!」
その合図をもとに、ギウス達は森を飛び出した。




