第七話
「グルァ!」
そう吠えながらヴィシャスウルフが2匹飛びかかってきた。
それを触手先程より強くで迎え撃つ。
それが跳んでいたヴィシャスウルフに当たり、声を上げさせる前に弾けさせる。
そしてそのまま触手は動き、もう1匹のヴィシャスウルフも弾けさせ、結果2匹の肉片が飛び散る。
「あっ!!」
ギウスはやってしまったとばかりに声を上げた。
何しろヴィシャスウルフを文字通りに弾けさせてしまったのだ。
そして肉片が飛び散ってしまった2匹のヴィシャスウルフを剥ぎ取ることが出来ず、また、シグマ達エンシェントゴーレムの燃料となる魔石も取れなくなってしまったからだ。
取れるとすれば、少量の牙と肉片のみだろう。
(コントロールが難しいな。)
そう思いながら触手を構える。
そして次の体の部位の威力を調べようと思った。
(そうだ。折角だからこの翼が使えるかどうか試してみよう。)
そして共に翼を構える。
この光をも吸い込んでしまいそうな漆黒の翼は遺跡で金属を含んだ石でできた壁を簡単にえぐり取った。
それでも威力は分かっていたのだが、正確な威力は分からなかった為、ここで使おうと思ったのだ。
(弾けない程度であればいいな。)
そう思い、少し歩を歩める。
それに対してヴィシャスウルフ達は一歩交代する。ここで自分達の目の前にいる相手がどれだけ強いのかが分かった。
しかし、引こうとは思っていない。いや、考えることが出来ない。
確かに自分達より強い相手には会ったこともあり戦ったこともあるのだが、それも数の差や奇襲等を使用してどうにかなり、勝っていた。
だから今回の相手も今奇襲をしようとしている仲間が自分達が引き留めている間に獲物を仕留めてくれる、そう思っている。
本来であればギウスの後ろにいるシグマがそいつらを相手にし、ほぼ全て倒していたのだが、このギウスの相手をしているヴィシャスウルフ達は、さっきいとも簡単に仲間を殺した相手に集中しすぎて怒りと憎悪、そして獲物を見る視線を向けすぎていてそれに気づいていなかった。
それは今までの狩りに対する仲間への信頼か、それとも傲慢か。
その結果、最善の逃げる行為をすることが出来なかった。
「ふぅー。はっ!!」
そしてギウスがそれを待つわけが無い。
少し呼吸をし、息を吐くと同時に前へ踏み出した。
それにはヴィシャスウルフ達も気がついたが、動き出すのよりも圧倒的に早くギウスが肉薄し、
グシャァァッ!!
と肉が潰れたような音がし、その生命を終えた。
それと同時に初めての戦闘も終了した。
残ったのは、
「うっ、こりゃ・・・あーあ、どうしよう。」
ギウスが残した言葉と、翼によってミンチになって地面へへばりついた肉のみだった。
翼には何一つ肉はついておらず付いている血液が漆黒の翼をより黒く幻想的に見えさせる。
しかしそんなことは関係なく、
「牙すら残ってねー。」
と、少し後悔を残したのみだった。
「コレハ・・・スコシヒドクナイデスカ?」
そう言い、シグマがこちらによってきた。シグマのいる方向を見ると、ヴィシャスウルフ達の綺麗な(ギウスと比べると断然に)死体があった。
どこの素材も欠けておらず、毛皮も傷が殆どない状態である。
「うーん、力の制御があまり出来なくてこうなった。」
「ツギカラハキヲツケテクダサイ。」
なんか怒られた。
それと同時に、
翼威力の調整のしようが無いということに気づく。
何しろヴィシャスウルフに軽く振るっただけでミンチみたいになったのだ。
触れただけで石を削ったのを見て予想はしていたがそれを軽く越していた。
触手よりたちが悪い。
「取りあえずこの死体を剥ぎ取るか。」
そう思い、綺麗な死体を集めてからそう思った。そこで一つ気づいた。
(アイテムリングには死体は入るのか?)
アイテムリングは生きているもの以外は基本的に入れることが出来る。だったら死体も入るかも知れない。
そう思い、死体に触れて使ってみたが、
(あれ?発動しない。)
アイテムリングが発動しない。
何故かアイテムリングが発動しない。
(何故だ?死体は生きていないのに入らない・・・アンデットになる可能性があるからか?)
この世界には、死体を放っておくと偽りの生を受けてアンデット、スケルトンやゾンビになるという。そうなれば生き物と同じ扱いになるためアイテムリングに入れられない。
(でも、なんかそれじゃあ足りない気がするな。・・・それともこれを作った奴の何かの意図か?ここで考えても分からないな。)
そう思い、シグマに声をかける。
「取りあえず剥ぎ取りをしよう。街に行った時に売れるかも知れない。」
そして、思いつきだが素材にすればアイテムリングにも入れられるかも知れないという可能性を含めてそう言ったのだ。
「ワカリマシタ。マカセテクダサイ。」
そう言い、ギウスがナイフを取り出してシグマに渡し、ヴィシャスウルフの肉と皮の間に差し込む。
このナイフも実は『オリハルナイフ』といって、オリハルコンで出来た貴重なナイフだったりする。これも遺跡にあった。
効果はとてつもなく切れ味が良く、とてつもなく頑丈なだけ。
シグマが解体している間に牙を集める。
弾けさせてしまったり、ミンチにしてしまったやつで唯一回収出来るのが牙のみで先にアイテムリングでしまえるのか試してみようと思ったからだ。
しかし、集めることの出来た牙は5本のみで他のは砕けていたり、どこかに無くなっていたりした。
「なんだろう。本当にもう少し考えるべきだったかも知れない。」
そう言いながらアイテムリングを発動すると、手に持っていた牙がいつの間にか何も残っていなかった。
「素材は・・・しまえるのか。」
なんか考えるときりが無い気がしたのでそれでよしとする。
そして戻ってくると、綺麗にたたまれた皮や、まとめられた牙、肝臓、魔石がシグマの前に存在し
「ハギトリハオワリマシタ。」
と言ってきた。
「え、本当に終わったの?」
「ハイ。」
「まだ10分も経ってないよ。」
「ソレクライアレバジュウブンデス。」
あまりの早さに驚き、聞くとそう返してきた。
実際には剥ぎ取る事が出来る死体は11匹もいたのだが、経ったの10分で剥ぎ取りが終了していた。
(どうやったんだろう?)
そう思いながら素材を全て収納し、(ちなみに肉もしまえた。)さて行こうと思ったときに、
「マタナニカイマス。」
そうシグマが告げた。
よく気配を探ると、先程とは違うがこちらを探って隙を探るかのような視線と、ゆっくりと近寄ってきている音が聞こえてきた。
「数は・・・1か。今度はどんな奴だ?」
そう思いながらしばらく待ち、そして、
「ゴルルル」
との鳴き声を発しながらそいつは現れた。
見た目は大きな岩だろうか。
4メートルはありそうだ。
それには上の方には様々な棘があり、曲がっているのや真っ直ぐ立っていたりしている。
色は灰色で、茶色っぽい色も混ざって存在している。
そしてそいつには足が4本あり、それぞれに鋭いとは言わないが尖った爪があり、人くらいであれば簡単に引き裂き、叩きつぶすだろう。
そして太く、長い尾が存在し、首はまあまあ長く、そして頭にはねじれた2本の角が存在している。
牙は無く、その代わりに口が刃と化していて触れた途端に肉が裂けるだろう。
「こいつは・・・タンクタートルか。」
「ソウデス。オソラクチノニオイデサソワレタノデショウ。」
『タンクタートル』
棘を持つ巨大な甲羅を持ち、木を薙ぎ倒す尾と岩を砕く足、鉄も裂く刃のような口を持った凶暴で危険な大型亀。
ランクCの魔物だが、防御力はランクAの魔物の攻撃を受けても砕けず、打ち勝つことも出来る。
肉食で一度見た獲物を貪欲に追い続ける。
動きも遅く、攻撃のレパートリーも少ないが威力が高く、半端な防具であれば防げず命を落とす。
氷属性の攻撃を当てると冬眠したような状態に出来る。
素材は、口の刃、角、足、皮、骨、甲羅、尾の筋肉、魔石である。
「こいつは強敵だな。」
あいつの記憶を見て、そう判断する。
実際にタンクタートルはランクCの魔物の中でトップクラスの力を持ち、より強い固体だとランクAの魔物を倒すことがある。
この個体はそこまでは強くはないが、ランクBの魔物とであれば互角に戦えるだろう。
最も、戦えるだけであって勝つことなど出来ないが。
何故この魔物がランクCに止まっているのかというと、頭がそこまで良くなく、罠にかかりやすいからなのだが、そんなことをギウスが知るはずがない。カリギュリウスの記憶にもないのだから。
「さて、第2回戦だな。」
そう呟いたことで再び闘いは始まった。