分岐点1
桜吹雪の舞う4月、高校の最寄駅へと向かう電車を退屈そうに待っている男子生徒がいた。
「これから3年間、毎日おっさんと仲良く電車でGOしないといけないのか……」
……なんとも残念な高校生である。そんなぬれせんべいじゃないくせにぬれている、普通のせんべいくらい残念な高校生は、名前だけは立派であった。一ノ瀬 正真、絶賛彼女募集中の高校1年生で、人生=彼女いない歴である。ジャニーズは無理だとしても、市の美男コンクールで入賞くらいはできそうなルックスの持ち主の彼に、どうして彼女ができないかと言うと、やはり性格が足を引っ張っているのだろう。自分の興味のあるもの以外には無気力で、すきあらば文句を言う。それに加え、変なこだわりの持ち主でもあり、服は白色系しか着ない(制服は仕方なかった)、シャープペンシルを使わず鉛筆しか使わない、味噌汁の具を全て食べてからでないと汁を飲まない、など様々な自己流使いである。そうこうしている間に電車が到着し、スーツを着た人に紛れながら15分ガタンゴトンと乗って、ようやく高校に着いた頃には、正真はすっかり緊張していた。
「ここが緑高校か。なんかボロいなー…」
緑高はまあまあの頭の人が集まる高校であり、そんな緑高に来た正真もまあまあな頭なのだ。緑高には正真と同じ中学の人は1人か2人しかいない。正真の性格を知らない人ばかりなのである。正真の人生の中で最大のチャンスかもしれない。
「おれのクラスはどこだ……、あ、あった1-Dか。」
正真は緊張しながら教室に入っていった。一ノ瀬なので出席番号は2番というかなり前の番号だ。ところで正真は、自己紹介をどのようにするか考えていない。最初の次に言わなければいけないのに、まだ考えてないとは、爆死は免れないだろう。そんなことは1ミクロンも思いつきはせず、正真は他の生徒を、話を聞いてもらえない先生のような目つきで睨んでいた。おい正真、今お前が睨んでいる人たちは嫌でも1年間顔を合わせなければいけない人たちだぞ、そんな目をするんじゃあない。
「……。以上200名の入学を許可する。」
長々と喋っていた校長が、ようやく話を終えたようだ。正真はその間も緊張しっぱなしで、中身のないおじさんの話を真剣に一字一句聞き逃さぬように聞いていた。
新入生退場のあと、いよいよ(正真にとって)地獄の自己紹介タイムが訪れた。
「初めまして。担任の横田です。1年間よろしく。」
横田なおこ。独身27歳で彼氏は2つ年上のセールスマン。高校の先生ができて、彼氏もいるとは、なかなかハイスペックな先生である。
「では、まず1番の人から自己紹介してもらおうかな。1番、一ノ瀬ちゃん、よろしくね。」
「はい!出席番号1番、一ノ瀬明です!元気いっぱいが取り柄です!1年間よろしくお願いします!」
正真はこのなかなかな美人を見ながら、自己紹介を無難に終わらせようか、一発ウケを狙いにいこうか考えていた。
(ウケを狙うならあれか。涼宮ハ○ヒの、宇宙人、未来人……ってやつか。いや、著作権に引っかかるな。じゃあ他に何がある。一発ギャグでもかまそうか?そうするなら誰のギャグを)
「あのー、一ノ瀬くん。次、君だよ。」
「は、はい!い、一ノ瀬正真といいます。……よろしく。」
(ああ、もっと考えとけば良かった。これならいっそダダ滑りで良いからギャグ言っておけば良かった。)
「……です。よろしく。」
「0000です。よろしく。」
正真が後悔先に立たずという言葉がいかに的を得たものかを身をもって体験している間に地獄は過ぎ去ったようだった。
次の日は、新入生テストなるものがあったようだ。正真はテストでは爆死しなかったようだった。その次の日は学校内の教室の場所の案内、さらにその次の日は、教科ごとの担任の紹介、と様々なイベントが波のように押し寄せてきて、正真はそこまでクラスメイトと仲良くなれていなかった。
土日を挟んで4月15日の月曜日。横田先生はこんなことをおっしゃった。
「ペアを作ってください。文化祭などの様々な行事の時には、そのペアで動いてもらいます。」
正真は、異性の友達を作る良い機会だと考えていた。(前の先の一ノ瀬さん。隣の席の久保さん。真ん中くらいの席の長岡さん。長岡さんの列の1番後ろの松野木さん。出席番号40番、廊下側の端っこにいる山上さん。この5人が良いと思うな。逆に後ろの席の遠藤さんはちょっと遠慮したいな。)
相変わらず酷い男である。先に言っておくが、この選択によって正真の運命は大きく変わる。6人それぞれのパターンをこれからみなさんに見せていこう。