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告げる者

-ジェネラル・R・フォード-


「この空母はあと数時間でマリアナに到着するわ。」


初瀬はとなりに座っているフォードに言う。


「そう。ありがとう。一応、助けて貰ったし、お礼は言っておきます。」


フォードは頭を下げる。


「別にいいわよ。私たちは自国の安全の為にも出撃したのだから。それにしても、貴方の船体に書かれちゃったね。あの、マーク。」


初瀬は甲板に辛うじて残った鉤十字(ハーケンクロイツ)を指差して言う。


「もうじき、私たちは空母の艦載機で横須賀に帰還するわ。」


甲板には、複座のスーパーホーネットが電磁式カタパルトに装着される。残った電力を利用して、一度だけの発艦は出来る。それで、大和まで飛行するのである。


「私は、これからどうなるの?」


「本国に打電して、処遇を待つ。まあ、返還するにしても修理してからじゃないと返還出来ないけど。」


空母の船体はボロボロである。曳航されてマリアナまで行き、そこで応急修理をして黎明島のドック内で本格的に修理する。


「そう。分かったわ。」



艦載機で、初瀬は三隈と共に大和まで戻った。そして、着くなり天皇の御前会議に出席する事となった。




-皇居-


「まずは、ご苦労様です。」


着くなり、天皇自らが出迎えた。


「ありがとうございます。三笠陛下。」


初瀬は最敬礼をする。三隈も、同じように行う。


「奥では既に閣僚たちが集まっております。もう少し、苦労を(ねぎら)いたのですが。これ位しか出来なくて申し訳ありません。」


「いえいえ。陛下のお手を(わずら)わせるわけには参りませんから。それに、御国の為に行ったまでです。」



「それで、本当に連中は。」


「はい。亡霊(ナチス)の残党です。ネオナチでは無く、本物の。正真正銘の、国家社会主義独逸労働者党(ナチ)傘下の人間です。」


「そうなると厄介ですね。既に、アジアでもマレーシアが陥落し、ベトナムやインドも南が占領されております。オーストラリアやニュージーランドなどの南の国は次々と陥落しております故、防衛線構築が間に合っておりません。」


「アフリカや、南米の状況は?」


「アフリカでは、ナイジェリア、アルジェリア、ソマリアにエジプトを除いて国土を維持できておりません。事実上、政府は崩壊しました。南米ではブラジルがボア・ヴィスタに政府を移して南米同盟を通して徹底抗戦を訴えております。南半球側の南米は、全て陥落しております。」


閣僚たちが次々に現状を報告する。


伯剌西爾(ブラジル)空母『サンパウロ』は沈んだそうですし、南米の陥落も時間の問題となりました。」


「一体、何処の誰が亡霊共を率いてこんな戦争を。」


「その事ですが陛下。ジェネラル・R・フォードを占領したザミエルと名乗るナチス親衛隊員は総統(ごちょう)は生きていると答えました。」


「何だって?」



「大佐も馬鹿な人だよね。」



突然の声に、全員が扉の所を見る。


「ま、でも。任務は果たせなかったけど、時間稼ぎは出来たから良かったけどね。」


今まで、扉の所には誰も居なかった。それに、扉は内側から鍵を掛けている。外からは、鍵穴が無い為に開ける事が出来ない。


「大佐も、もし総統閣下のお慈悲が無ければ。今頃は本当の悪魔(ザミエル)になっていたかな。」


制服にはヒトラーユーゲントの服装をしている。そして、コートを羽織っている。そのコートは、武装親衛隊のオーバーコート。もう一人はドイツ国防陸軍の将官野戦服を着込んでいる。


「早速現れたわね。生物実験体。」


二人は、全くの瓜二つ。制服は違うが、顔や声、身長から、全てにおいて全くの同じ存在だった。


「生物実験体とは酷いな。これでも、優良人種なんだよ。」


「それで、一体優良人種が何の様な訳?」


数人が、それと同時に拳銃を二人に向ける。


「僕たちは特使。射殺は許されない。」


そう言って、机の所に向かって歩く。


「まあ、撃っても僕には当たらないけど。」


歩きながら言い、机の上に衛星テレビを置く。


「今から、総統閣下からの重要なお知らせがあります。静聴するように。」


スイッチを入れ、周波数を合わせる。



『やあ、諸君。顔ぶれは違うが、久しぶりと言っておこう。』


映し出されたのは、紛れも無くヒトラーであった。


『最初は失礼した。何の挨拶も無しに攻撃しようとした非礼はお詫びする。』


そう言って、礼をする。聞いている者の一部は、ヒトラーらしからぬ行動に唖然としている。


『どうかね?再び、同盟は組まないか?貴国と我が国が手を結べば、世界だって手に入れることが出来る。終われば、世界の半分は貴国に割譲してやるぞ。』


「フ、フフフ。世界を半分か。笑わせてくれる。芸能界にでもデビューしてやがれ、この三流役者。国だ?貴様の国が一体どこにあるって言うんだ?あの戦争によって、ドイツからも世界からも追い出された貴様に、国なんてあるのか?」


初瀬は思いっきりテレビに向かって言う。


『フン。君が斉藤家の現当主である初瀬か。初めまして、っと言っておこうか。我が国でも好き放題やってくれたようだが、今回はそう簡単にはいかんぞ。』


ヒトラーは笑いながら言う。


「やはり、南極か。では、宗谷を撃沈したのは貴様たちだな。南極を調べられたら、自分たちの築き上げた帝国を失う羽目になる。だから、近づく調査船を潜水艦を使って沈め、調査をさせないようにしたんだな。」


史実では、日本の南極観測は成功しているが、こちらの世界では未だに誰も戦後に南極に到達できた者は居ない。航空機も、南極に近づいた機は原因が全く分からずに行方不明となる機が多数出ている。


『その通りだよ。我々は南極に基地を移し、そこから世界に対して反撃する。』


「なら、その野望を崩してやるよ。何度でもな。叔父である次郎さんの様に、貴様たちの野望を、何度でも。何度でも、崩してやる。」


初瀬は、言い放った。


『では、その顔が恐怖に歪む時を楽しみしているよ初瀬君。では、戦場で会おう。では、私は忙しいので、これで失礼する。期待していた返答を受けられなくて、残念極まりないよ。』


そう言って、テレビの電源は切れる。


「それじゃあ、僕たちもこれで。実はいうと、僕たちも総統の言う期待した返答を受けられなくて残念で仕方がない。」


そう言って、テレビを持ち、帰ろうとした所を。


「待て。」


初瀬が銃を向けながら止める。



「名を名乗り、幾つかの質問を答えていけ。」


「銃を撃っても、僕たちには当たらない。君の撃った銃弾は、ザミエルの頭部に当たったが、彼女は生きている。僕に撃って、仮に当たっても同じだよ。」


振り向きながら銃を取り出す。


「殺したい所だけど、僕は特使。発砲したら、特使として来た意味を失う。そんな事したら、総統閣下が怒ってしまう。だから、質問に答えるよ。僕はロキ。」


ヒトラーユーゲントの制服に、武装親衛隊のコートを着た少年が答える。


「・・・・・フェンリル。」


もう片方のドイツ国防陸軍の制服を着た方が答える。どちらも、北欧神話に登場する神(行った事から、そう言わない時もある)である。


「優良人種とは何だ?空母の女の時にも聞いたが。」


初瀬は銃を向けながら聞く。


「戦前、ドイツ第三帝国と呼ばれた時に総統閣下はある予言をした。2039年、人類と言う存在は消え、人類の極一部が進化した『神人(ゴッドメンシュ)』と限りなくロボットに近い残りの人類の世界になる。」


ロキは、説明を始める。


「僕たち優良人種は、その神人(ゴッドメンシュ)を人工的に作り出す『神人創造計画』を推し進める中で、偶然生まれた存在。繋ぎの様な存在。だから、僕たちの事を神人ではないが、常人でもない存在『超人(ユーベルメンシュ)』と殆どの者は言う。」


「それが、優良人種・・・・か。」


「そう。そして、それらが何人か居る。僕とフェンリルは、その中でも特に優れた四天王の一人って訳。そして、時にはそれらで部隊が編成されることもある。それが『超人部隊(ラストバタリオン)』。」


「ふ~ん。貴重な情報をありがとう。」


そう言って、初瀬は何の躊躇いもなくロキに向かって発砲する。油断していたロキは、頭部を撃ち抜かれ、その場に倒れる。


「仲間が死んだのに、動かないの?」


初瀬はロキを撃った後、もう一人の超人。フェンリルを見る。


「・・・・・死んでない。」


「え?」


その時、何事も無かったかのようにロキは血まみれの頭のまま立ち上がる。


「全く、特使として穏便に済ませようとしたが。」


そう言って何処からともなくM61を取り出す。


「そんなに殺して欲しいのか?初瀬。」


狙いを初瀬に付ける。そして、引き金を引こうとするが。突然、何かに反応するかのようにロキは耳に手を当てる。


「・・・・了解しました。直ちに。」


ロキは耳から手を離し、


「命拾いしたな。どう言う訳か、ベトナムでの反撃が増したようなので、そちらに行く事になった。」


ガトリング砲を再び何処かに入れる。


「次に会ったら、殺す。」


そう言って、二人は消えた。

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