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奪還

-ジェネラル・R・フォード-


「う、うぅぅ。」


背中から出血しているフォードは、艦橋の壁に手を付きながら立ち上がる。


「まさか、体当たりしてくるなんて。飛行甲板が大火災に。」


辺り一面が火の海になっている。甲板に駐機されていた戦闘機は全て火災に巻き込まれ、炎上している。


「でも、何とか浮かんでるわね。」


船体はまだまだ、十分な浮力を保っている。そう簡単に沈まない様に、何重も重ねられた防御隔壁が作動して、船内への被害が最小限に食い止められた。




「無事ね?」


「何とか・・・・ね。」


飛行甲板に激突したYF-12A改のコックピットは、飛行甲板に思いっきり突き刺さっていた。そこから出た初瀬と三隈は装備を点検する。


「無事ならいいでしょう。」


銃撃を喰らい、急いで残骸の陰に隠れる。


「応戦してよ。私は、刀しか扱ったことが無いのよ。」


「そ、それでよく空母の奪還を上奏できたな。」


「うるさい、うるさい。」


そう言って刀を抜き、自分の所に向かってきた魔弾を斬る。


「私は、あっちを相手するわよ。」


そう言って、陰から出て、魔弾を放った射手。ザミエルの許に向かう。


「くそ。甲板に()んじゃない!!。」


三隈は、持ってきたアサルトライフルで飛行甲板に出る艦橋の出入り口に向かって撃ち続け、けん制する。




「まさか、まだ生きていたとはね。」


初瀬は、ザミエルと対峙する。


「そう、簡単に。くたばって、堪るもんですか。」


咄嗟に空母の飛行甲板にある、アフタバーナーの遮蔽板を展開してYF-12A改の特攻によって起きた爆発を回避したザミエルは、それでも全身ボロボロだった。


「私は、復讐するのよ。お前たち、大和に。裏切った、お前たちに、復讐するのよ。」


マスケット銃に弾を込め、初瀬に狙いを付ける。


「そ、そして。お前はあいつに末裔。我らを裏切るように仕向けた、日本の海軍軍人の。」


引き金に指を掛け、笑みを浮かべる。


「私は、魔弾の射手。その銃弾は敵を貫き、魂を貫き、安らかに眠らせる。」


引き金を、ザミエルは引く。魔弾は、マスケット銃の銃口から放たれ、不規則に軌道を描きながら初瀬に向かって行く。


「これだから、亡霊(ナチス)は進歩しないのよ。垂直降下した時に、甲板には鉤十字(ハーケンクロイツ)が見えるから、直ぐに半世紀以上前の幽霊だと分かったね。」


そう言いながら刀を振るい、魔弾を斬り落とす。


「しかし、貴方達(ナチスども)も懲りないわね。未だに、優良血統であるアーリア人の幻想を抱いているとは。」


「総統閣下は遂に目覚めるのよ。半世紀以上もの長きに渡る眠りに就いておられ、もう直ぐお目覚めの時。」


マスケット銃を放り投げ、何処からともなくもう一丁のマスケット銃を取り出す。


「総統閣下?とっくに死んだ筈でしょ?」


「あの時、死んだのは総統閣下であり、総統閣下では無かったのよ。」


マスケット銃をクルクル回しながら、ザミエルは答える。


「何ですって!?」


「彼はクローン。本物はその数か月前に毒によって昏睡状態に陥り、仕方がないから冷凍保存体としてUボートに乗せ、南米へ逃れていた。」


「クローンですって!?あの時、死んだ筈のヒトラーはクローンなのですね?」


初瀬は恐ろしくなる。もし、ナチスがクローン技術を改良していたら?そうなれば、それを応用した兵士大量生産であるクローン兵士(ソルジャー)計画が既にナチスは実用化できる段階である。




「連中は、馬鹿なのか?」


三隈はアサルトライフルが弾切れを起こした為、拳銃で応戦しているが、一部の兵士は全くけん制せずにただ走り出してくる兵士が居る。


「連中は死の恐怖が無いのか?それとも。」


三隈は疑問に思うが、その迷いを振り切って応戦する。



「く、狂ってる。」


「狂ってる、ですって?何を今更。」


ザミエルは笑い始める。


「我々元親衛隊員ですわ。一体何百万人を殺したと思っているのですか?狂っているなど、半世紀以上も言うのが遅い。」


「貴方、兵士を大量に作って、一体何をしようとしているの?」


「復讐。ただ、復讐。我々を忘却の彼方へと追いやり、忘れ去った奴らに思い出させ、そして我々の軍靴の響きと共に世界規模の新世界を作る。」


ザミエルはまるで子供の様な笑顔だった。


「本当に、狂ってる。」


初瀬は拳銃を取り出し、ザミエルの頭に狙いを定める。


「撃てばいいじゃない。私は避けもしない。隠れもしない。どうぞ。」


銃口は頭。当たれば、即死する。なのに、避けるどころか抵抗すらしないと宣言しているようなものだ。


「こんな狂った人間、生かしておくと。後々面倒になるわ。」


引き金を引き、ザミエルの頭を撃ち抜いた。頭から血を流しながら、甲板から海へ落ちる。



「片付いたな。」


ザミエルが海に落ちたと同時に、三隈の方も片付けた。


「弾はあと2発。危なかった。」


マガジンを抜き、残弾を確認した後に再装填する。


「片付けたわね?」


初瀬が合流する。


「何とか。弾がもう無いが、敵がいないからどうとでもなるだろう。」


初瀬は甲板を背中から血を流しながら歩いている少女を見つける。


「へ~。やっぱり、何処の国にも付喪神はいるのね。」


「付喪神って、あれが?」


三隈も、艦魂が見えている。


「はあ、はあ。助けに来てくれたの?だったら、お礼を言わないとね。」


フォードは苦しそうになりながらも、最低限のお礼を述べる。


「気にしなくては良いわよ。本当は傷つけずに奪還したかったけど、無理があったから、手荒な真似を採ったわ。」


初瀬とフォードは話す。三隈には、少しついていくのが困難だった。無理やり、連れて来られたと言う事もあるが、どうも嫌な予感がしているのも確かだった。


「!!。危ない。」


突然、フォードが2人を艦橋内へ瞬間移動させる。直後、その場所で爆発が起こる。フォードは背中から再び出血するが、まだ楽な方の痛みである。




「外したわね。」


ジェネラル・R・フォードから数㎞離れた位置に浮上した潜水艦の艦橋には、ゴーグル式多目的双眼鏡を上げた一人の少女と、ザミエルが居た。


「貴方、確り狙ったの?もう少し近づけば、私の魔弾の射程内なんだけど。」


ザミエルの頭には、確かに銃傷が残っているが、何不自由なく行動している。


「え~。だって、魔弾放てる位置まで近づくとファランクスで攻撃されるかもしれないもん。」


少女はそう答える。右手には戦車に搭載される筈の戦車砲を片手で持っている。


「その155mm砲じゃあ、砲声が大きくて位置が知られたわよ。」


マスケット銃を持つザミエルだが、少女は回れ右をして艦内へ通じるハッチを開ける。


「もう直ぐ潜航するから、艦内へ入る支度をして。」


そう促してから、艦外マイクを取る。


「右舷魚雷発射管並びに上部魚雷発射砲を右舷に向け、魚雷発射用意。」


右舷に装備されている魚雷発射管が開き、上部の魚雷発射砲も右側を向いて狙いを付ける。


「発射。続いて、タンク注水。潜航開始。」


そう言ってハッチから艦内へ入った。魚雷は命令と同時に放たれ、ジェネラル・R・フォード目指して航行する。




「魚雷が来る。」


フォードは魚雷の接近を知る。


「距離5万。遠いけど、魚雷の速度は速い。雷速70ノット近く出ている。」


フォードは二人に伝える。


「速く舵輪を持ちなさい。私がソナーを見る。」


初瀬は三隈に舵輪を持つように指示する。三隈は、もう言われるがままだった。


「持った。」


「分かったわ。魚雷は左舷より近づいてきている、数36本。全弾回避は・・・無理ね。最低限に被害を抑える。」


指示されたとおりに速力と操艦を行う。面舵に切り、可能な限りの回避に努める。



「魚雷接近。命中まで3・・・・・2・・・・・1・・・・・0!!。」


その瞬間、艦に横揺れが襲う。フォードはわき腹から、足から、出血する。


「隔壁閉鎖。格納庫に火災。スプリンクラー作動せず。」


初瀬がパネルに表示された艦の状況を伝える。


「格納庫にて誘爆多発。」


爆発の幾つかが、飛行甲板を突き破って噴き出す。甲板をはじめ、船体は穴だらけだった。


「マリアナ方面艦隊から、消防艦6隻と曳船4隻を派遣するそうです。」


浸水は止まり、何とか持ち堪えられた。しかし、飛行甲板を含め、空母はボロボロ。とても、戦闘可能な状態ではなかった。

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