突入
-YF-12A改-
「空母の搭載兵器をどう掻い潜るのですか?」
後ろに居る三隈が操縦する初瀬に言う。
「何のための護衛機よ?彼らは、空母の火器管制レーダーを破壊して離脱するように指示してある。私たちは高度2万6000mから一気に垂直降下。空母の甲板目掛けて突っ込む。」
初瀬は、少女とは思えない大胆な発想をする。
「魔弾は?。陛下の言っておられた、魔弾への対処法は?」
「馬鹿なの?どうしてわざわざ空母の着艦して、魔弾を使ったと思っているの?」
「あ!!。」
「魔弾にも有効射程ってもんがあるのよ。でなければ、危険を冒してまで空母の着艦する必要なんてない。」
三隈も、初瀬に言われて直ぐに理解した。
-ジェネラル・R・フォード-
「♪我々は、進撃する。裏切り者を殺す為に。勝利よ、勝利の女神よ。我らに、微笑みを♪」
甲板に鉤十字を描き終えたザミエルは、日傘を甲板に置いて、シートを引いてサンドイッチを食べながら歌っている。
「♪歓喜の道を進む我ら。タレイアよ、喜劇の道を教えよ♪」
タレイア。ギリシア神話に出てくる、喜劇を司る女神。
「何の歌だ?」
艦橋に居るザミエル指揮下の武装親衛隊員はザミエルの歌っている歌の曲名を聞きあっている。
「分からない。大佐は、よく自分の作曲した歌を歌っている時があるからな。」
「ま、戦場にいる俺らの娯楽には。丁度いいかもな。」
その時、レーダーに反応が出てくる。
「不明機接近中。数は8機。」
艦橋から、甲板に居るザミエルに伝える。
「来たわね。愚かな者達。我々、優良人種に敵うとでも思っているのかしら?」
マスケット銃に弾を込める。
「そろそろ、この子とのお別れも近いわね。」
マスケット銃を撫でながら、ザミエルは言う。
「まさか、私を攻撃に?」
飛行甲板の先に立っているフォードは驚く。
「今度は奪取じゃなく、撃沈ね。」
フォードは自分の運命を理解するのだった。
「どうせ沈むなら、味方に沈めてもらいたかったな。」
「ミサイルロックオン。」
攻撃隊はミサイルをそれぞれの目標にロックオンする。
「発射。」
ミサイルがパイロンから切り離され、ジェネラル・R・フォード目指して飛翔する。
「当たれ。」
そう言ったのも束の間。
「ミサイルが、自爆!!。・・・・・いや、違う。迎撃されたんだ。」
青白い曳行を引きながら、マスケット銃から放たれた魔弾が乱舞する。
「魔弾がこっちに!!」
ミサイルを全て迎撃した魔弾は、次に向かってきた8機の戦闘機を攻撃する。
「ぎゃあああ!!」
全機が魔弾の餌食になり、燃えながら海面に落ちて爆発する。
「♪勝利よ、勝利。我らは、向かってくる天使を堕とし、勝利へ向かって進撃する♪」
マスケット銃をクルクル回しながら、甲板をまるでバレー選手のような優雅さで舞う。
「♪勝利の女神は、悪魔である私に微笑んだ。何て、皮肉だろう。女神が、悪魔に力を貸すなんて♪」
そう言った時、マスケット銃を甲板に突く。
「あ、ああ!!。あいつが、あいつが、来る。我らを滅ぼした、あいつが来る!!。」
ザミエルは膝を着き、ガクガク震えながら言う。
「レーダーに、不明機あり。先ほどの敵機に紛れて、接近されていました。」
「高度は?」
「信じられませんが、高度2万6000m。降下を始めました。」
「2万6000m、だと!!」
「ブラックバード。まさか、大和が持っていたとはな。」
艦橋では慌ただしくなる。
「ちっ。大佐は先ほど撃ったばかりだ。弾込めには時間が少しかかる。」
そう言って、搭載されているファランクスを真上に向ける。
「ミサイルは?」
「そんな高度で突っ込んでくる目標に、ミサイルなど役に立たん。」
「行くわよ。覚悟を決めなさい!!」
垂直降下に入ったYF-12A改は、どんどん速度を上げていく。マッハ6は、軽く突破する。
「マッハ12まで、この機体は耐えられるのよ。風洞実験では、マッハ15で機体がバラバラになったらしいわ。」
「そ、そんな速度で脱出したら。こっちが焼ける。」
「安心しなさい。この操縦席は、カプセルにもなっている。これさら、機体から切り離されるようになっているのよ。」
初瀬は垂直降下のGに耐えながら、言う。
「我々の祖国、ドイツを滅ぼした、あいつが来る。」
仰向けに飛行甲板に寝そべり、マスケット銃を構える。
「今こそ、地獄に送ってあげる。魔弾が、貴方を地獄に送ってあげる。」
見えてきた、YF-12A改に照準を合わせる。ファランクスは既に射撃を開始しており、弾幕が張られている。ザミエルも、笑みを浮かべながら魔弾を発射した。
「護衛機の連中、ミスったね。」
ファランクスの弾幕の中を猛スピードで突破するYF-12A改は、飛行甲板を捉える。
「魔弾が、魔弾が来る!!。」
後ろに居る三隈が叫ぶ。
「うっさい。黙ってないと直接射出するわよ。」
直接射出。それは、摩擦熱で人体が炎上すると言う事だ。
「やめて。それだけは。お願い。」
「なら、黙ってなさい。」
垂直降下し、距離500mと言うギリギリで脱出。機体は、そのままの勢いで飛行甲板に激突し、炎上するのであった。