光の祝福2
グレイが調べてくれた結果子犬はこの町を出たすぐ近くの森に迷い込んだらしいことが分った。
最近は魔物や悪魔が随分出没するようになって人気がない場所はすっごく危険になってるんだけど、人家が近いその森は大した魔物もでないみたい、精々野犬や低級な魔物ぐらいだとおじいさんもお墨付きをくれた。
くれた…のだけど!
「炎の昂ぶりよ、我が願いに応えよ。ファイヤーボム!」
掌に炎の力を召還しそのエネルギーを集中させる、イメージとしては球体を思い描くとよい(初級魔法事典より抜粋)らしい。そして、それを敵目掛けて投げつける。敵一体に対して有効な攻撃魔法だ。その私が唯一使える攻撃魔法をいったい何回馬鹿の一つ覚えみたいに使っただろうか?
「疲れたよぉ~」
確かに強い敵はいないんだけど、なんでこんないっぱいでてくるのよ~
しかもグレイってば傍にいてくれるけど、本当に手伝ってくれないんだもん。
「はい。はい。もう少し頑張ってくださいね。目的物の反応にかなり近付いてますよ」
「ちょっとぐらい手伝ってよ~」
「何泣き言言ってらっしゃるんですか?私が傍にいれば炎の力は呼び出し易い筈ですし、魔法力も格段に上がっている筈ですよ。だいたい、貴女がもっとレベルが高ければ低級な魔物ほど恐れて近寄ってこなかったんですからね」
はううう。泣きっ面に蜂…(だからファンタジーだってば)
「私が悪ぅございました」
結局、彼に敵う筈もなく、ずっとこの調子で随分森の深いところまで来ていた。
「本当にこんなところにいるのかなぁ~」
幾ら好奇心旺盛の子犬でもたった一匹でこんなところまで来られるだろうか?私たちだってここまで来るのに結構魔物に襲われたし。
「反応は確かに強くなっていますが…確かに妙ですね…」
グレイが訝しげに形の良い眉を顰める。
「何が?」
「目的物の反応は強くなっているのに…、何かが邪魔をして…まさか…!?」
問いかえす私の言葉に何か気付いたようでグレイは立ち止まった。
「カナン、此処を離れましょう。今すぐに!」
「ええぇ~、そんなせっかくここまできたのに。それにもうちょっとで探し当てることできるんでしょう?」
親切なおじいさんに応えたいし、せっかくの初仕事成功させたい!グレイの警告は気になったけれど、こんな人里近い森に大した敵などいる筈がないと侮りもあった。
「大丈夫だよ!」
私はグレイの制止をきかず更に奥へと足を踏み出した。
「いけない!」
グレイが手を伸ばし、私を止めようとした。
けれどそれは遅きに失した。
確かに踏み出した私の足は大地を踏みしめることはなく突如現われたとしか言いようのない暗闇の穴へと吸い込まれていった。
落ちる!
落ちていく、深く深く、まるで奈落の底へと―――
グレイの伸ばした手が私の腕をとり、それから庇うように体を引寄せ抱き締められる。
私はと言えばその間、落ちていく自分を感じながらも何一つできずにいた。ただただ呆然と目を開けることさえできずに恐怖に慄いていた。
その暗闇は何処までも深く、何処までも続いているようだった。
一体、私たちは何処へ行ってしまうのだろう?
この暗闇に終わりはあるのだろうか…
ガクンッ―――と体が急に止まった。
止まったというより何だか無理矢理引き止められたような感じだった。足は地についていない、体は宙に浮いて酷く頼りない。
そっと目を開けるとそこはまだ闇の中で。足元に目をやると闇は何処までも深く続き、果てしない。
もしも…
もしも此処で止まっていなかったら地獄が口を開いて待っているのではないかと思わされた。だから、体が思わず震え私を抱えてくれているグレイにしがみつかずにはいられなかった。
「…ここ、どこだろう…?」
一体今、自分がいるのがどこなのか、自分が今置かれた状況がどうなっているのか見当もつかない。
ただ…間違いなく失敗してしまったのだということは分った。しかも良くないことに自分だけならまだしも、グレイまで巻き込んでしまった。
それもグレイが危険を報せてくれたのに!
「まんまと敵の陣地に足を入れさせられたようですよ」
頭の上から声が降ってくる。私は申し訳なくて顔を上げられなかった。
「ここは魔法結界の中ですよ」