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夢から醒めた夢3


 東の空が僅かに彩を変えた。


 囀る鳥の声が聞えた。



 少年は朝の気配を感じ取っていた。


 ……もうすぐ夜が明ける。




 夜が明けるというのに彼女は未だ眠ったままだった。まだ知り合って間もないけれど何時も笑顔を見せてくれる彼女がもの言わぬ人形のように横たわる姿は言いようもなく不安を煽った。「大人しく留守番しているんだよ」と言い残していなくなった闇の精霊も未だ帰ってこない。


 少年には闇の術、夢見の術に関してなんら知識はなかったがそれでも漠然とした不安を感じていた。


 このまま……


 夜が明けてしまったらどうなるんだろう?


 ……帰ってこられるのかな


 ……ちゃんと目覚めてくれるのかな


 その不安を口に出してしまえば余計に形になってしまいそうで少年はぎゅっとその唇を噛締めていた。



 その少年の服の裾がそっと引かれる。


 ……あ


 傍には少女。同じように不安そうな瞳で見上げてくる。


 それは同じような不安を抱えながら、それでいて……それでいていつも自分を心配している、今もそうだった。


 (自分の方が怖がりのクセに)


 言葉にできない分、少女の瞳はいつも真っ直ぐに伝えてきた。自分の方が怖いクセに不安なクセに、大丈夫だよ――と、いつも尻込みしてしまう自分を勇気付けようとしてくれた。


 何時の頃から一緒に暮らしてきた少女。妹だよ――と言えるように思えるようになったのは何時からだろう。


 覚えていないけれど皆と暮らしていたあの街から逃げ出した時も砂漠の苦しい道のりも爺ちゃんが死んでしまった時もいつもいつもこんな瞳で見上げてきたから、だから強くなろうって思った。


「大丈夫だよ、絶対大丈夫」


 少年は自分に言い聞かせるように言葉を噛締めた。


 見守るしかできない自分に少年は不甲斐なさを感じずにはいられなかった。昏々と眠り続けるカナンも心配そうに自分を見つめるエルも大事な大事な仲間だからもっともっと……


 もっと強くなれたらいいのに……


 そう願わずにはいられなかった。




「大人しくしていればオマエたちに危害は加えない」


 背後から聞えた声に振り返る。何時の間にとさえ思わなかった、そんな筈はない、鍵の掛かった扉は開いた様子もなく今まで見上げていた窓は開いていないのだから。


「アンタ、何者だ! 何しに来たんだよ!」


 少年は武器を手にしていない自分の迂闊さに舌打ちしながら、それでも少女をその背にそしてカナンの眠るベットを庇うように侵入者に対峙した。


「迎えにきただけだ」


 魔導士の被るローブで頭まで覆い隠されたその姿は見えなかったが、柔らかさのない口調でもその声は女性のものだった。


 やれる――と感じた少年は素早く自分のベットの脇に置かれた自分の武器に意識を飛ばす、アレを手にすれば……


「そういう瞳をしたモノにそう言っても無駄か……」


 侵入者がそう呟いた瞬間、少年の動きは止まった。否、意志に反して動くことができなくなったのだ。


 何かをされたワケではないのに少年の身体中に緊張が走る、瞬きすらできない状態。動けばその瞬間に……それは想像でもなく確かな形となるだろう、気配に聡い分少年は動くことができなかった。


 侵入者は何にも邪魔をされずベットに眠る少女を抱き上げた。


 堪らずに飛び出したのは少年ではなかった。


「あ~ああぁ~~!!」


 縋るようにそのローブを掴んだのはモノ言えぬ少女だった。


「エル!」


 灰色の精霊が言った言葉が蘇る。欠けているのは――風の精霊(かぜのたみびと)精神ココロ――立ち向かう勇気。


(畜生! 畜生! 畜生! 怖いのは俺だけじゃないのに!!)


 侵入者の指が縋る少女に触れた瞬間。


 少女はその場に崩れ落ちた。


「エルっ!? エルに何をした!」


 目の前で起こった出来事に呪縛を解かれたように少年は侵入者に掴みかかった。


「より強いものに歯向かうのは勇気ではない。無謀という我が同朋よ、覚えておくがいい。仲間は殺さぬ。だが、邪魔は許さない」


 ぞくりとする冷たい温度の声。その声が仲間だと告げた。


「嘘だ! オマエなんか仲間じゃない。仲間ならどうしてエルを傷つける!」


 すっと指が近付く。避けることのできるゆっくりとした動きなのに少年は避けることも出来ずにただ叫んだ。


「そのうち分かる。道が拓かれたならお前たちも来るといい」


 ゆっくり、その指が触れる。


「何処へ?」


「お前たちの故郷、砂漠の都、虹の都へ」


 体中から力が抜ける。


 駄目だ、という意思に反して重くなる瞼。


 何故かその瞬間、恐怖はなかった。ただ頭の中、繰り返す『虹の都へ…』



 意識はそこで途絶えた……



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