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出会いと別れの街2

 轟々とした炎の昂ぶりと発光は一瞬の輝きを放ち、どうやら収まったようだ……

 

 ―――と恐る恐る目を開いて確認した。

 

 

 目の前の魔方陣には……何の変化もないみたいだ。

 

 触媒として置いてあったキャンドルの炎が一様に消えていること以外は何も変わっていない。

 

 

 まさか……また失敗?

 

 呆然と魔方陣を見ながらその言葉が頭を掠めた時、後からくすり――と何やら笑い声にも似た音が漏れた。

 

 

 へ?―――と不意をつかれて振り向くと其処には果たしてその声を洩らした人がいた。

 

 

 

 見たことも無い人だった。

 

 細身だけど上背があってすっきりとした姿をしていて、短く癖のない髪の色は初めて見る彩、何て言ったらいいのかなぁ、青味がかった銀色?、瞳の色は極薄い灰色(グレイ)。この国では見たことも無い髪と瞳の色だったけど、格好はこの国の魔導師の男の人が普段に着るローブを羽織った何の変哲もないものだったから、てっきり私が気がつかない内に奥まで入ってきちゃったお客さんだと思ってしまった。

 

「あの~、何か御用ですか? 魔法のアイテム何かは私はまだ見習ですからあまりお役に立てないと思いますけど……」

 

 見習どころか卒業も危ういとは……隠しておこう……

 

 普通この国では魔導師は普段、魔法屋を営んでいることが多い。魔法屋は魔法が使えない人やあまり高レベルの魔法が使えない人の為に魔法を閉じ込めたアイテム(これは主に宝玉(オーブ)に挿れることが多い)や触媒となるアイテム、魔導書何かを扱うお店で、私のお母さんもご多分に漏れずそうなのだ。尤も、この国では結構有名な魔導師であるお母さんは請われて出張することの方が多いから、今も私がお留守番しているんだけど……スットクが切れかかってるんだよね。

 

 という訳で私は焦りながらそう言った。

 

 それにしても綺麗な人だなぁ……お兄ちゃんもかなり格好いいと評判だったから、いつも間近に見て目は肥えている自信があるんだけど、その私を以ってしてもかなり見惚れてしまう。お兄ちゃんはどっちかって言うと(妹の欲目かもだけど)精悍って感じだったけど、この人は掛け値なしに綺麗な人だ。

 

 まじまじと見つめていると、男の人がくすりと微笑んだ。

 

 うわぁ~ 笑うともっと綺麗。

 

「確かにそうみたいですね、私は貴女が扱えるようなレベルの魔法には用はありませんから」

 

 ぐっ。顔に似合わずきつい人だなぁ~、確かにそうだから文句は言えないんだけどさぁ……

 

 その綺麗な人は全く失礼だった。よく考えたら、他人の家に声も掛けないで入ってきてるし、私のレベルも知らずにこんなこと言ってくれるんだから。(それとも、そんなに私の成績が悪いことってばればれなのかしら……)

 

「た、確かに私のレベルって高くないけど、いきなり失礼じゃないですか!」

 

 いや、高くないどころか最低レベルなんだけどね……とほほ。

 

 

 

「そうなんですか? 私は正直に言っただけなんですがね? 全く人間界のマナーとは難しいものですね。以前にはそんなこと言われたことはないのですが……」

 

 噛み付くように言った私の言葉を意外そうな表情で受け取ったその人はそう返してきた。

 

 えっ? 人間界のマナー?

 

「え? じゃあ? まさか貴方、精霊さんなんですか?」

 

 私はじろじろと(そういう自分も結構失礼な奴かも……)彼の全身を見ながら言葉を続けた。

 

「耳も尖ってないし、尻尾も触角も角もないし……口だって裂けてないし身体だって大きくないし~、でもでもそれでも精霊さんなんですか?」

 

(よくよく考えてみれば失礼なんだけど)彼の全身を観察した結果を迷わず口にしてみた。だって、これまで本で紹介されてた精霊さんや他の人が(普通は見えなくて力を借りる時だけ姿を見せるんでそんなに本物を見たこと無いけど)連れてる精霊さんで、こんなに人間と区別がつかない姿をしてるのっていなかったから。

 

 髪と瞳の彩はめったにないし、人とは思えないほど綺麗だけど、それ以外変わったところなんて無い……と思う。思わず確認する為に近寄って、更に後に回って尻尾が隠れてないか調べたりしちゃったよ。

 

 

「ええ、これでも正真正銘精霊ですよ、貴女が呼び出したね。という訳で宜しくお願いします、マスター」

 

 彼は私の言葉が相当可笑しかったらしく、くすくす笑いを洩らしながらそう応えた。

 

 

 え? ちょっと待って……今、確か……

 

「ねぇ、今、マスターって言った?私が呼び出したって言った?」

 

 私の勢いは相当のものだったのかたじろぎながら彼は応えてくれた。

 

「え、ええ。確かに言いました。私は貴女に呼ばれたんですよ」

 

「本当に、本当に、本当に本当~!!」

 

 思わず彼の手を握り締めながら問い質してしまった。

 

「……はい。」

 

 少々鼻白んだ感じだったけど、彼は間違いなく肯定してくれた。

 

 ―――ということは!

 

 私は魔法学院から配布されている文書を開いた。それは特殊な紙とインクを使ってあって、一見するとただの白紙の紙なんだけど、ある条件が揃うと文章が浮かび上がる。今は卒業の仮題である『精霊の呼び出し』に成功すると……やった!卒業証明書だ。

 

「うわ~~やった――――! 卒業だ――――!!」

 

 ちょっと、風変わりそうな精霊さんだけど、本人も言ってることだし確かに成功したんだよね。

 ありがとう、神様、仏様(?)、精霊の王様~~

 無事卒業できたお礼にこれから私頑張って恩返しするからね。

 

 

 

 本当に本当に私は感謝していた。

 

 これからこのちょっと風変わりな精霊さんとどんな風に関わっていくのか想像もせずに。もし、ちょっとでも先のことが分ったらこの時のことをどれほど後悔したか―――

 

 それは予知能力のない私には分からないことで、仕方ないことだったけれど。

 

 


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