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闇と炎と1

 ワタシは黙って揺らめく炎を見詰めていた。

 

 小さな羽虫がその炎に近付いてはその身を焼かれる。残酷だけどどうせ追ってもきりがないんだから仕方ない。

 

 その炎はどんなにか魅力的なんだろう小さな虫たちにとって……

 

 いっそ何も考えずに飛び込んでいける潔さが羨ましくもあった。

 

 

  

「う~やっぱうろちょろと出てくるねぇ~」

 

 声に不快感を滲ませてシュクヤさんが言う。その言葉にようやく我に返ることができた。いけない、いけない、こんな感傷的なの柄じゃないよ。

 

「ご、ごめんなさい。火を消しますか? そしたらそんなに寄ってこないだろうし」

 

「そんなことしたら物騒だろ? 私ならそれで平気だけど、アンタにはヤバイって。火を絶やしたらいけないんだろ? こういう場合」

 

 そうだよね~野外の場合、それは常識だよね……全くワタシってつくづくサバイバルには向いてないよね。うっかりで済む時と済まない時があるっていうのに。

 

「そんなに気を使わなくっていいって、どうせこの一晩のことなんだからさ」

 

 しゅんとしてしまったワタシを見かねてかそうフォローしてくれるけど……実はそれがすごいプレッシャーだったり。

 

「ははは、そうですね……」

 

 明日朝一番で出発して次の街で早いこと仕事探そ。

 

 

 

 毛布に包まり膝を抱えて揺れる炎見ていた。「夜のほうが得意だから休む必要はない」というシュクヤさんはとっととワタシに休めって言うけど気を遣ってもらうと返って駄目かも……眠れないよ……

 

「眠れないのかい?」

 

 シュクヤさんが私に声をかける。

 

「ごめんなさい」

 

 明日の為にもちゃんと休養をとらなくっちゃいけないのに。

 

 けれどシュクヤさんはそのことを心配しているようではなかった、さっきまでにはなかった険しい光が瞳にある。

 

「いや、ちょうど良かったよ」

 

 え?

 

「カナン、アンタ炎の攻撃魔法使えるかい?」

 

 ひそめた声にも鋭さがあった。え? え? 何で? 何でそんなこと訊くんだろう?

 

「え、あ、うん。一応使えますけど」

 

 ……あまり高いレベルを要求されたら困るけど、最下級の攻撃呪文でも使えると言えば使えるよね。

 

「じゃあ、悪いけどおっもいきり使ってもらうことになりそうだよ」

 

 そう言いながらもシュクヤさんの切れ長の瞳は辺りを覗う。

 

「え?」

 

 つられてワタシも辺りを覗うけど闇が拡がるばかりで何も見えない。一体何をシュクヤさんが警戒しているのかさっぱり判らなかった。

 

 何事なんだろう?

 

「判んないかい? よく闇に耳を傾けてごらん」

 

 

 耳を?

 

 何か聴こえる?

 

 

 ぱちぱち……と火が弾ける音。それから……さわさわ、ざわざわ……と風が木の葉を揺らす……音。

 

 風?

 

 ざわざと木の枝が揺れる。

 

 ……けれど、そんな強い風は肌に感じない。

 

 じゃあ、このざわめきは? 何?

 

「アンタ、妙にいろんなもんに好かれるてるみたいだね。しかも……よりよって」

 

 最悪だよ――――シュクヤさんは形のいい眉を顰めながら吐き捨てるように言う。

 

 

 ざわめきは近付いてくる。

 

 さわさわ、ざわざわ、がさがさ……・と。

 

 

 闇に隠れながら何かが近付いてくる。

 

 な、何? い、一体何事~~~?

 

 

「こ、これって……」

 

 何でしょう? ……ね……

 

 

 どうか、どうか変なものじゃありませんように。ワタシは心の中で祈った。……けど、最近神様は忙しいらしくあんまりワタシのお願いは聴こえてないご様子なんだよね。

 

 でも、あえてお願いします神様、どうかあんまり変なものとか危険なものとかじゃありませんようにぃ~

 

 ざわめきが大きくなる。

 

 がさがさ、がさがさ……・

 

 何だか黒い陰が蠢いているようなカンジ……・

 

 

 こ、これは……

 

 

「コイツラみたいな知能の低い相手には闇の攻撃呪文は利きづらい。一番有効なのは炎の攻撃呪文なんだよ」

 

 すっごく忌々しいってカンジの声がする。

 

 ……まぁそれはそうかもしれない、だってどうやらこれは……シュクヤさんがだいっ嫌いなものの集団だったんだもん。それも半端な数じゃなさそうな……

 

 ……はっきり言ってワタシも嫌いです、こんなのは。

 

 見ただけでぞっとするというのは単体ではないけれど、やっぱりなんというかこれだけ集団でしかもなんだかどんどん近付いてくるのを見てあんまり好きな人はいないと思う……いや、ほんとにこの異常事態は何なんだろう。

 

 旅に出てからこっち随分といろいろなモノに襲われ慣れてきたワタシでもこれは……ちょっと……と思うほど……有体に言えばぞわぞわ~と鳥肌が立つという状況。

 

 だって、だって、幾ら一匹一匹がちっちゃくったって地を埋め尽くさんばかりに空を覆い尽さんばかりにやってきたら……

 

「もう勘弁してよね!」

 

 そう思うよね……そうシュクヤさんが言うのも尤も。

 

「こ、これってやっぱりワタシたちを狙ってるのかな……?」

 

 できればそうでないことを願いながら確認とばかりに訊いてみた。

 

「アンタさぁ~どっか大物だよね。この状況見て、んなこと言えるなんて」

 

 冗談じゃないとばかりにシュクヤさんが言う。

 

「こいつらが偶然こんなに集まって偶然私たちの周りに集まってきてるとでも思ってるのかい」

 

 え?あ、じゃあ……これって……

 

「いるんだよ。近くに、『蟲使い』が!」

 

 う。蟲使い……使い魔というのはよくあるけど、蟲というのはちょっと特殊。使い魔を使役するのは精霊さんの手助けがいるほどの魔力はいらないんだけれど何というか一種の才能らしい。向き不向きもあるし、人によって使い魔にできる動物というのは違ってくるらしい。多くは蝙蝠だとか猫だとか知能が高い生き物ほど使いこなすのは難しいのだとかなんだとか……ちなみに私は今のところ相手にされた動物はいません……とほほ。

 

 にしても……蟲かぁ~特殊だよね。だって、一匹一匹は無力だろうからなぁ~

 

「もう! 何ぼけっとしてるんだい。自分の状況わかってんの。侮っちゃだめだよ。蟲使いの蟲は特別製だよ。たいていは猛毒を持ってるヤツとか人肉がお好みの獰猛なヤツらだからね」

 

 お、お好みになられたくないです!

 

 なんとか追い払わないと!

 

 

 ワタシは気を集中させはじめた……

 

「--炎の昂ぶりよ、我が願いに応えよ。火炎弾(ファイヤーボム)!」

 

 魔力を集中させて放出した。足元に近づいてきていた何十匹もの蟲を撃退した。やった! グレイに鍛えられたお陰でちょっと威力が上がった気がするよぉ~

 

「ちょ……ちょっと!」

 

 喜びを密かに噛み締めているとシュクヤさんが噛み付くように話し掛けてきた。

 

「はい?」

 

「もっと威力のあるヤツ使いなよ! ご覧足元」

 

 へ? その言葉に私は足元を見た。

 

 うえ?何これ……確かに私の炎の魔法は足元の蟲を倒したのに、気がつけばそこはまた蟲たちで埋め尽くされてる。う、うそ~~~

 

「っつたくよくもまぁこんな数集めたもんだ。こりゃ生半可な魔法じゃ倒せないよ」

 

 そ、そんなぁ~~

 

「……ないんですけど……」

 

「ん? 何がさ?」

 

「い、いえ、だからそのこれより威力のある炎の魔法が……」

 

 びくびくしながら私は告白した。ごめんなさい、頼りないマスターで。

 

「あん?」

 

 シュクヤさんがじろりと私を見る。ひぃ~ごめんなさい~~~

 

「あの男に扱き使われてて、んな低レベルの炎の魔法しか使えないワケ? ……ったく」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 もうここは平身低頭するしかない。

 

「ショウガナイねぇ~んじゃ、効力は薄いけど風の呪文でもいいよ」

 

「……」

 

「ん? まさかそれも使えないとか?」

 

「……はい」

 

「んじゃ、別のでもいいよ、得意なの光でも水でも大地でもこのさいなんでも……あ、闇系は私が言うのもなんだけどほっとんどコイツラには効かないからね」

 

「……」

 

「え……まさか……」

 

「……そのまさかだったり……」

 

「ええぇ~!」

 

「ごめんなさいぃ~!」

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。ほんとにごめんなさい!

 

 今度からちゃんと攻撃魔法を特訓しますから! ……って今度があったらだけど……しくしく。

 

 

 


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