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出会いと別れの街1

「そこのスペル間違えないでね。すごっく似た言葉あるから」

 

 なんのことはないつい先々週同じことをやった時に其処を間違ったのは自分自身だったりする。

 

「は~い」

 

 私の言葉に明るく返事をしてくれるのは人間で言えば5歳くらいの姿形をした妖精さん。

 これでもしっかり大人で、教えれば人と同じことをやれるようになる。但しスピードは遅いけどね。

 

 今、私がしようとしているのは召還の儀式。

 

 それは何かと言うと、魔法の力を貸してくれる精霊を呼び出し、契約をして自分の守護となってもらう儀式なのだ。精霊と契約を結ばなくても簡単な魔法は使えるけれど、魔導師たるものそれではいけない。魔導師が魔導師たるのは普通の人には使えない強力な魔法が使えるからで、それには精霊の守護が不可欠なんだから。そして、これは魔導師を育成する魔法院の卒業試験でもある。それが成功しないと一人前の魔導師にはなれない。

 

 その儀式は複雑な魔方陣を描き、其処をゲートにして自分に在るだけの魔法力を使って精霊を呼び出す、精霊はその力の大きさに依って下級なものから果ては精霊王まで応えてくれる……筈。なのだが、私は未だ一向に成功しない。

 

 この前は魔方陣のスペルを間違えていたらしいので、今度は慎重に妖精さんを雇って(この方が最初にきちんと教えれば間違いがないから)現在に至る。あ、妖精さんは種族は違うけど、同じ人間界の住人だから価値観は一緒。すなわち、お金で雇うことができるのだ。ということで何度も失敗して後がない私は貧乏だったけど背に腹はかえられぬと彼を雇った。

 

 本当に後がないのだ。この卒業シーズンに間に合わなかったら留年だし、第一、この魔方陣を描くインクは特殊な製法で作るので無くなったら、作るのにまた膨大な時間がかかってしまうんだから。

 

「ねぇ~、これでいい~?」

 

 妖精さんの準備が終ったみたいだ。魔方陣を『絵で見る魔方陣 入門書』で確認する。

 うん、間違いないみたい。

 

「うん、大丈夫みたい」

 

 じゃあ、後は呼び出すだけ!―――なんだけど……

 

 前々回は確か目に見えて何の失敗もなかった筈なのに、どの精霊さんも呼びかけに応えてくれなかった……んだよね……。学院の先生に相談したら、目を瞠って驚いてたっけ。

 

 

 

 ---そんな馬鹿な!?そんなこと初めてです。

 

 ---貴女は魔導師としての才能がないのではないですか?

 

 ---お兄様はあんなに優秀な方だし、お母様はそれこそこの国では英雄とさえ呼ばれた方なのに。

 

 う~ん、確かにお兄ちゃんみたいに優秀じゃないけど、私だって頑張ってるんだけどなぁ~。

 同じ台詞を6年にも及ぶ在学期間言われ続け打たれ強くなった私だけど、流石にこうも反応なしだとへこむなぁ……

 

 早く一人前になってこの国を旅立ちたいんだけど……今は兎に角、卒業!よ。

 

 留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年、留年

 不吉な言葉で頭が一杯になっちゃう。留年しても、お母さんは笑っちゃうくらいだろうし、今はこの国にいないお兄ちゃんは「仕方ないな」と小突くくらいだろうけど、それにしたって恥かしすぎる。

 

 目標は卒業!

 

 神様、精霊の王様、仏様?大それたことは言いません、どうか卒業くらいはさせてください~

 

 ということで私は完成した魔方陣を前にして切実なお祈りを始めた。

 

 

 

  地の道、水の道、火の道、風の道、光の道、闇の道

 

  我が創りし門をもてその道を拓かん

 

  我が願いは標と為りてそが道を示す

 

  汝我が声、我が願い聞き届けよ

 

  我に応え我が元に姿を現せ……

 

 

 どうか、どうかお願い。私を卒業させてくださいっ!

 

 私は胸の前で両の手を組み、目を閉じ、力の限り祈った。

 

 

 けれど、10秒経ち、20秒経ち、30秒経ち、1分、2分……3分。全く魔方陣には何の反応もない。触媒として魔方陣の周囲に張り巡らされたキャンドルの炎だけがゆらゆらと揺らめいているだけ。

 

 私はがっくりとその場に膝をつき、またしても失敗かと気を落とした。

 お手伝い妖精さんは流石に気の毒と思ったのか私の元へと駆け寄ってきた。何ともし難い重苦しい雰囲気に包まれそうになった。

 

 

 ―――その時だ。

 

 突如、キャンドルの炎が激しく燃え上がったのは。

 

 驚いて思わず抱き合う妖精さんと私をまるで嘲笑うかのようにその炎は激しく渦巻き燃え上がる。

 但し、そんな炎の傍にいて熱くないのはそれが幻想界の炎で実体がないのだろう、落ち着いて考えればそう分るのだけど、私たちはそれどころではない。ただただ声も上げられずに呆然とするだけ。

 

 炎はやがて一つの大きな球体を造り、眩く輝き始めた。

 

 何、これ?

 

 こんなの聞いてないよ~

 

 魔法学院では不慮の事故に備えていろんなケースを勉強したけど、こんなの教えてもらってない!

 どうしたらいいのよ~~~そう叫びたいけどやはりそれすら叶わない。

 ただただ妖精さんをぎゅっと抱き締めていた。せめて、この子だけでも助けなきゃ!

 

 炎の球体はまるでその内部が躍動しているかのように蠢き、

 

 そして

 

 閃光が溢れ出て

 

 

 何も。

 

 何も見えないくらいに白光を放った……

 


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