表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/73

召喚3

「あ、あんた……」

 

 女の人が目を瞠りながら声を洩らす。その言葉もなんだか上手く声にできていないみたい、口をぱくぱくさせて「あんた」って呼んだグレイを見ている。

 

「何でこんなトコにいんのよ!」

 

 それでも女の人は一気にそう捲くし立てた。

 

「貴女の方こそ随分な言いようですね」

 

 言われた方のグレイは何処吹く風ってカンジ。いつもと変わらない。

 

「まず、挨拶をなさるべきではありませんか? 新しいマスターに」

 

 マスタ―? グレイは確かにそう言った。え!? ってことはこの人も精霊さん?

 

 その迫力系的美人さんはじろっとグレイを更に睨むと視線をワタシに下ろした。

 

 ううっ。真直ぐな視線が痛い。なんというか野菜や果物なんかを買うときみたいにじろじろと値踏みされてるカンジ。

 

「まさか……このお嬢ちゃんが私を呼び出したってのかい!?」

 

 いえ、信じられないのはご尤もです。ワタシ自身信じられません。

 

「このちんちくりんなコに闇の界、継承権第3位のこの私を呼び出すことができるなんてね~」

 

 ……ちんちくりん、ってワタシのこと? ……この美人さんから見れば仕方ないか……グレイだって綺麗だし、いつもそんな顔ばっか見慣れてたら……精霊さんたちって美的感覚高すぎるよ~~

 

 じゃなくって! 今、継承権3位って言った? それって凄すぎない!

 

 

「おや、何時の間に席次を落とされたんです?」

 

 ワタシの驚きも、いきなりの美人さんの登場もなんのその……グレイときたら何時ものペースだ。

 

「な、何をイケしゃあしゃあと! アンタと関わった所為でこっちはえらっいめにあったんだからね~!」

 

 そうでしょうとも! 分ります! ワタシもそうです。

 

「くだらない。あの程度で席次まで落とすとはね、貴女の力は所詮、その程度なんですよ。私がどうのこうのということではありませんよ」

 

 ぐ、グレイほんと容赦ないよねこんな美人さんにまで。ワタシだけじゃなかったんだ……嬉しいよな、悲しいよな……というかこの精霊さんてじゃあ、前はもっとすごかったんだ~よくワタシ呼び出せたな~まぐれって怖い……ん? これってグレイのお蔭なのかな? あ~何が何だか分んなくなってきた。

 

 と言うより、そんな凄い精霊さんと対等なカンジのグレイってば本当に凄い精霊さんだったんだ~

 

 ……ワタシって、本当に何にも知らないよね……

 

 ちょっとだけ……溜息が出た。今更だけどね。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……ナン……」

 

 ん? 誰かが呼んでる? ……誰だっけ……とっても懐かしい……

 

「カナン?」

 

 もう一度。……って、わわ!

 

「は、はい~~!」

 

「という訳です。宜しくお願いします。」

 

「はい~?」

 

「……やはり聞いていらっしゃらなかったのですね」

 

 はう~睨まれてるよ~~

 

 ほんのちょっと、ほんのちょっと考え事していただけなんだけど、どうやらその間にワタシはグレイの話を全く聞いてなかったみたい。ごめん、悪気はないのよ~。心の中だけで謝ってみるのは実際に口に出すと余計事態を悪化させそうだから、はう~だから睨まないで~~

 

「仕方ありませんね、もう一度言わせていただきますよ。今度はしっかり(・・・・)と聞いて下さいね」

 

 あ~いかわらず、大袈裟に溜息をついて、それからいやに『しっかり』って単語にアクセントをつけてグレイが言う。くそ~厭味大魔人めっ!

 

「は、はいい!」

 

 そして、条件反射で素直に返事してしまうワタシ、至上最弱のマスターの称号を与えられそうだ。

 

「私は以前言いましたように一度炎の界に戻る必要があります。暫らくお暇をいただきますが、その間は彼女が貴女の供を致しますので心配はありません。こう見えて彼女は私の知る限り相当の実力を持っていますから」

 

 と、グレイは闇の精霊さんを見ながら言う。

 

「ちょっと! 『こう見えて』は余計だよ!」

 

 そう言われた精霊さんは黒髪を振り乱しながらグレイに喰ってかかっている。びじんさんだけど……なんだか随分言葉使いが悪いような……

 

 って、うひゃ! 目があっちゃったよぉ~~~

 

「それにしても、このコと二人っきりになるのかい? 他に誰かいないの? 剣士とかさぁ? アタシの使う魔法は呪文の詠唱が長いからさぁ……時間稼げる奴がいないと困るんだけど。」

 

 う! まったくその通ですね。

 

 さらりとした黒髪をイライラした様子で掻き揚げる闇の精霊さん。あああ~怒ってるぅ~~

 

「仮にもマスターを『このコ』呼ばわりですか?」

 

 あああ~今度はグレイが闇の精霊さんを睨んでるしぃ~~……って、ちょとまって、『仮にも』? ちっともフォローになってないよぉ~

 

「しょがないじゃないのよぉ~このアタシを呼び出したんだからもんのすごい魔術師かなんかかと思ったらこんなちっぽけなコで、マスターってカンジじゃないんだから」

 

「その『ちっぽけなコ』が貴女を確かにこの人間界に呼び出してくださったんですよ、感謝されてもよろしいのではないですか?」

 

 ……フォローが入るのはそこですか……いえ、確かに『ちっぽけ』なんですけどね。

 

「確かにまぐれにしろなんにしろ、呼び出されたのは間違いないけどさ。でも、まだアタシはこのコをマスターと認めたワケじゃないんだよ! アンタ、気が早いんじゃない?」

 

「貴女に選択肢は他にはありませんよ」

 

「何よ! 命令ってワケ!」

 

「そうではありませんよ。戻りたくはないでしょう? 力を取り戻したくはないのですか?」

 

 ぐっと唇を噛み締める音まで聞こえそうなほど闇の精霊さんは悔しそうな顔でグレイを睨んでいる。きっと、それは痛いところをついたんだろうなぁ~ワタシもしょちゅうそうだから分かりますとも!

 

 ……じゃな~い!

 

 まずい! まずいよ~~何時の間にかグレイと闇の精霊さんが一発即発の状態じゃないのぉ~~

 

「ま、待ってよ。確かにまだワタシ契約済ませたワケじゃないし、それにそんなエラッそうな人間じゃないし」

 

「じゃあ、早く契約を済ませてしまいましょう」

 

 ……だね……じゃな~い。ワタシはフォローしてるつもりなんだよ~グレイのばか~~

 

「そうだよ、アンタ、アタシと契約する気あんの?あるんだったらちゃんとしなよ!」

 

 なんで~~!!

 

 ワタシは二人を執り成そうとしただけなのにぃ~~

 

「この女性の名はカナン、旅の目的は『虹の橋』を探すことですよ、どうですか? 協力される気になれらましたか?」

 

 ちょっとまって~~しかも、ワタシはてんで無視なの?ああ、しかもそんな説明の仕方じゃ馬鹿にされるか、呆れられちゃうよ~~~

 

 案の定、闇の精霊さんは信じられないものを見たとばかり目を大きく見開いてじろじろワタシをみてるしぃ~~わ~ん、グレイの馬鹿ぁ~~

 

 

「ちょいと、アンタ」

 

「は、はぃぃ!」

 

「ほんとにアンタって『虹の橋』を探してるワケ?」

 

 はう~ん信じられないって気持ち分かります、馬鹿にしたい気持ちも分かります。だけど……

 

「う、まぁ、なんといか成り行きというか……なんというか……」

 

 いや、あれもこれもそれもどれもぜ~んぶグレイの所為なんですぅ~~許してくださいぃ~~

 

「気に入ったよ!」

 

 は?何て仰いまいました?―――そうワタシが訊き返そうとした時だ。

 

 

 

 ―――汝、力を求めし者よ。その願い我は聞き届けし。

 汝が願い我が力の限りを尽くし叶えんが為、我は汝が僕となりて仕える者なり――――

 

 

 それは誓の言葉だった。精霊がマスターを認めた証。

 

 って、えええぇ~!こんなんで良いワケぇ~~

 

 精霊さんって、精霊さんってこんなカンジばっかなんだろうか? それともワタシのまわりばっかこんな変わった精霊さんばかり集まっているんだろうか。どっちにしても酷く不安をカンジずにはいられなかった。

 

「んじゃ、そゆことで宜しく」

 

 呆然としているワタシに闇の精霊さんは悠々と言った。

 

 それは本当に良いんですか? と訊き返したいほどの呆気なさで、『宜しく』なんて言われても何て言っていいんだか。

 

「誓いの言葉を以って、この方は貴女のマスターとなったんです。もう少し言葉使いを何とかなさってください」

 

「うっさいなぁ~、アンタなんて丁寧なのは言葉使いだけでしょ! 慇懃無礼ってばアンタの為の言葉じゃん。そんなヤツにとやかく言われたくないね」

 

 よく分ってるなぁ~じゃなくって!

 

 あああぁ~もうほっとくとこうだし!

 何で寄ると触ると喧嘩になるんだろ?? 精霊さん同士ってこんな仲悪いもんなんだろうか?

 

「もうやめようよ、喧嘩なんて。ね、ほら、グレイってば精霊界に行くんでしょ? 早く行っちゃいなよ。あ、闇の精霊さん、改めて宜しくお願いします」

 

「心外ですね、喧嘩などしませんよ、私は忠告しているだけです」

 

「はい、はい。そういうことにしとくから」

 

 それはいつものことで、だから、不思議だった。闇の精霊さんがそんなワタシたちのやりとりに驚いているように目を瞠っているのが。

 

「……アンタ、コイツのこと『グレイ』なんて呼んでるのかい?」

 

 息を呑んで、表情は凍って……で、酷く恐る恐るってカンジ。

 

 だから、ワタシも息を呑んだ。それってばそんな拙いことなの? 『グレイ』って呼ぶことが拙いの?

 

「え……う、うん」

 

 だけど、それはそのとおりの事実で肯定するしかないし。なにより、なんか駄目って理由があるのか、訊きたい。

 

「『グレイ』って呼んじゃ拙いことでもあるんですか?」

 

「拙い……つか……アンタ怖いもんなしだねぇ~」

 

 え?

 

 どういう意味?

 

 訊こうとしたけど、それは止められた、他ならぬグレイに。

 

「くだらないおしゃべりはこのくらいにしましょうか。折角、カナンが行くように言って下さったので私はそろそろ出かけます。くれぐれも留守中お願いします。貴方の新しいマスターは目が離せない人ですからね、『夙夜』」

 

 シュクヤ?

 

 え? なんだろ?

 

「ちょ、嫌がらせかい!」

 

「別に。それは貴女の呼び名の一つでしょう。『誰より闇が似合う(ひと)』、夙夜」

 

「それが嫌がらせ以外の何だってんだい!」

 

 あ、この精霊さんの呼び名なんだ。眞名は隠してるから普通、呼び名を持ってたり俗称とかあったりするもんらしいけど……そう言えば、グレイは呼び名教えてくれなかったし、だから『グレイ』って呼んでるワケだけど……それにしても、この精霊さんは自分の呼び名好きじゃないみたい。

 

 なんにしても一人蚊帳の外ってカンジ……

 

「嫌がらせなどではありませんよ。貴女が余計なおしゃべりなどなさらなければ宜しいのです」

 

「なんだって~、何時アタシがべらべらしゃべったってんだよ!」

 

「さあ? でも貴女のそういった面は全く信用していないので、忠告させていただいたまでですよ。カナンに下世話なことを吹き込まないでくださいね」

 

「何が忠告だよ、全く嫌なヤツだね。アンタなんかホント二度と会いたくなかったよ」

 

「それはご愁傷さまです。ですが、それは遅きに失してますから今更くだらないことは言わないことですね」

 

「ああ、もうああ言えばこう!もう、いいよ、アンタの言う通りにしといてやるから、さっさとお行きよ!」

 

「言われなくとも」

 

 なんなんだろ、ワタシやっぱり拙いことしてたんだろうかいろいろ頭の中がぐるぐるするけど……でも、それは訊いちゃいけないこと……なのかもしれない……

 

「カナン」

 

 グレイがワタシを振り返る。

 

 グレイはいつもと変わりない、けど……だけど……

 

 ううん、やめよう。訊かれたくないことだってあるかもしれないんだもん。

 

「それでは行って参ります。直ぐに帰ってくるつもりですが、大人しくしていてくださいね」

 

 グレイは『帰って』くるって言った。そうだね待っていよう。今はきっとそれしかできないだろうから。

 

「うん」

 

 そう思ったから素直に返事したのに意外そうな顔をされた。全く、グレイってばそういうヤツよね。厭味大魔王!そのあたり、きっと闇の精霊さんとは気が合うよね、グレイって共通の敵? がいることだし。

 

 あ、でも『グレイ』ってワタシ呼び続けていいんだろうか?

 

 なんだか……

 

 なんだか、また旅の振り出しに戻った気がした。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ