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召喚2

 すぅ~っと大きく一つ息を吐いた。

 

 緊張するなって方が無理だって思う。手だって震えてきた。そりゃ何度だってやったと言えばやったけど、成功したのはたったの一回こっきり! (そして、その一回のお蔭でワタシは散々な目にあってしまってるし……)その上、今回は後がない、魔方陣を書くインクは一回分だけ、それになんと言っても!!

 

 失敗したら怖いのは学院の先生より厳しいグレイ。そして、ワタシは見上げる。何も映していない筈の薄い灰色の瞳を。

 

「大丈夫ですよ、成功しますから」

 

 そこに映るワタシの姿は見えていない筈なのに、グレイはまるでワタシの姿を、ううん、それだけじゃなくって内側の不安まで見透かしたように微笑む。

 

 いっつも、自信たっぷりで成功を疑っていない。ちょっとだけ、ワタシには無理だよ―――って思ったけど、考えてみればグレイってばよくワタシなんて信じてくれるよな~~だけど、そこまで信じられるのって初めてでてれくさいけど、嬉しかった。

 

 先生たちは頭ごなしにワタシの駄目さを言い募るばっかりだったし、お母さんやお兄ちゃんだって仕方ないとは思ってくれても、ここまで信じてくれなかったし……そして、自分自身も、だから……

 

「うん! がんばるね」

 

 自分だって信じてみよう。自分の力を。

 

 一発勝負!

 

 今回は触媒は置かない。と言うか置けない、触媒は例えばワタシがグレイを呼び出すとき使ったキャンドルだって実は普通のキャンドルじゃない。ちゃんと魔法生成したものなのだ。こういう儀式に使う触媒は魔法生成したものじゃないと効力は薄い。けど、そこまで買う余裕はないし、グレイが補助を行ってくれるから多分大丈夫。

 

 一つ問題があるとしたら、グレイの魔力に惹かれてまた炎の界の精霊さんが呼び出される可能性が高いこと、だけど、グレイはそうはならないって言ってた。何故か説明してくれなかったけど、要は成功させることだし、仮に炎の精霊さんが来ても魔力は片寄るけど、失敗よりは遥かにいい。

 

「じゃあ、やるよ!」

 

 そのワタシの言葉を合図にグレイが魔力を集中させる。複雑な印を幾つか結び、魔方陣に複雑な結界をつくりワタシの魔力を増幅させる場を創る。

 

 ワタシはその力の高まりに思わず息を呑んだ。

 

 グレイはとても綺麗だった。魔法を魔力を高めている時の彼はいつも思うけど、とても綺麗だ。きっとワタシが敵だったとしても見惚れてしまうに違いないくらい。そして、何故かいつも哀しげにみえた……

 

 思わず魅入っていたワタシは頭を大きく振ると、自分のやるべきことに集中する。そんな頭に浮かんだことを忘れて。

 

 ワタシは胸の前で両の手を結び、呪を唱える。

 

 

 

  地の道、水の道、火の道、風の道、光の道、闇の道

 

  我が創りし門をもてその道を拓かん

 

  我が願いは標と為りてそが道を示す

 

  汝我が声、我が願い聞き届けよ

 

  我に応え我が元に姿を現せ……

 

 

 

 魔力の高まりを身体が感じる。瞳を閉じているのに身体が魔方陣から発せられる眩い光を感じている。

 この輝きは魔方陣が精霊さんの魔力を感じ、反応してる証。

 

 ワタシは確信した――――きっと、上手くいく。

 

 

 魔方陣は更に眩く輝いた。いや、その表現は正しくない。眩いどころではない、閉じている瞳にすら映し出されるような輝きが身体を覆い、ワタシはそれを無意識に庇うように両腕を翳し避けていた。

 

 その光が一瞬何もかもを覆い尽したあと……全ては暗闇に覆われたかのように無色になり、静寂が訪れた。

 

 

 どうなってしまったのだろう?

 

 ワタシは恐る恐る目を開けた。

 

 

 ―――え?

 

 え? え? なに……まっくら……?

 

 目を開けた筈なのに拡がるのはただ闇だけだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 カナンが戸惑っている。彼女の気の乱れが伝わってくる。私は気配には聡い方だ、殊に視力を失ってからは、だが、そうでなくとも彼女の狼狽は手に取るように分るだろう。無理もないのかもしれない。初めてなのだろうからプライドの高い闇の界の精霊を呼び出すなど。

 

 そう、間違いなく彼女は成功したのだ。闇の精霊を呼び出すことに。

 

 私は彼女の召還魔法の補助を行った。彼女はそれがただの魔力の増幅効果を持つものだと思っていたようだが、その実違う。確かにその効果もあるがもっとそれは効力を特定したものなのだ。

 

 私は彼女が精神を集中する為に視界を閉ざすことを知っていた、だから、そのタイミングを見計らって特定の単語を彼女の恐らくは知らぬ言語で宙に描いた。書くというよりは描くというに相応しいその文字は人間界ではほぼ失われた言語、今では極一部の地域の高僧や高官しか知らぬ精霊文字。嘗て人と精霊とが対等に暮らした頃の名残だという。そして、描いたのは特定の固有名詞、私と以前は敵対もしそれだけにその能力の高さも認める精霊の、そしてその時の戦利品である真名を。

 

 その行為はつまりその魔方陣を不特定の精霊の呼び出すものではなく、その真名を持つ精霊特定を呼び出すものとしたのだ。だから、もしも……もしも、カナンに充分な力さえあれば彼女を呼び出すことができる筈だ。但し、充分な力というのは半端なものでは駄目だ。何故なら、その者は私同様誰の声も届かない場所に封印されているだろうから、私の声さえ届かなかった。あの時、関わった者は皆封印されている。

 

 そうして、そうやって……全てを忘れさせようとしている。

 

 ならば私は取り戻すだけだ。その力に逆らって、あの時失った全てを。何を犠牲にしても。

 

 

 私は拡がる闇の中、その鍵を握る少女に声をかけた。

 

「慌てることはありませんよ、カナン」

 

 私の声に彼女はすぐに飛びついた。

 

「グレイ! だって、だって真っ暗だよ、何にも見えない。これってどうしちゃったの?」

 

 ついこの間も魔族の罠に嵌り暗闇の結界に落とされたばかりの彼女だ、落ち着かないのも分かる。

 

「何も心配することはないのです、カナン、貴女は……」

 

 成功したのです。

 

 本当ならなしえる筈のないことを、貴女は一体何者なのだろう? ―――そんな考えが一瞬浮かぶ。

 

 けれど、この少女が何者であっても私は彼女の力に縋るしかないのだ。仮令彼女が魔性の者であったとしても、迷うことなどないのだ。

 

「え? 何? グレイ?」

 

 カナンが私の声のする方に寄って来る。彼女は何をも迷ってはいない、私を依るすべにしている、全てを預けてしまっている―――それこそが危険であるというのに。

 

 私は貴女をこそ利用しようとしているのに……

 

 カナンがおずおずと私のローブの裾を掴んだ時、闇は消えた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「随分な歓迎だねぇ? 自分で呼び出してそんなに驚くことないじゃないの?」

 

 真っ暗闇が心細くて、グレイを探した。やっとグレイを探し当てて、そのローブの裾を掴めてほっとした時急に辺りが明るくなった。というより、元に戻ったみたいだった。

 

 さっきみたいに眩しいほどの光があるわけじゃないけど、急に光が戻ったから眩しくて目を細めた。そこに聞こえた声。

 

 そこにいたのは嫌でも人目を引く女の人が立っていた。眩しくて細めた目では見えにくいのに、それでもその人がとっても綺麗なんだってことはすぐに分った。長く長く、流れるような黒髪。漆黒の闇のように艶やかで深い色。長い睫毛に彩られた黒い瞳。皓い肌に紅い唇ちらっと見ただけでも忘れられないような人だ。

 

 眩しい眼をそれでも凝らしながらその人から離さなかった。

 

 ……!?

 

 その人は酷く驚いたみたいだった。固まっているっていうような感じ。真直ぐワタシの方を見ている?ううん、違う方向は同じだけど、ワタシを素通りしてその後を見ている。

 

(ワタシの後って?)

 

 グレイのローブの裾を掴んだまま後を振り向く。――何かあったけ? 驚くようなもの???

 

 けど、そこに在るのは何も変わったことのないものばかりなnんか変わったものって言ったら……そうだなぁ……すぐワタシの上にあるグレイの顔がいつもの胡散臭いぐらいににこやかなものじゃなくって口を真一文字に結んだなんだか難しい表情なトコくらい……かなぁ~

 

 あ、この二人ってばひょっとして知り合い?

 

 そゆことだってあるかもしれない、ワタシは何にも知らないよね……グレイのこと……

 

 二人を見比べる。

 

 二人は固まったように動かない。見詰め合っているように見える。

 

 二人とも綺麗……だなぁ~なんだか完璧な二人。なんだか非の打ち所がないってのはこうゆうのを言うのかもしれない、二人並んだら本当にお似合いだ。

 

 

 ちくり、って胸が痛んだような気がした……なんだか変な気分。

 

 

 


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