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召喚1

「それにしても私たちには仲間が必要ですね。2人きりのパーティでは限界があります。それに一度私は炎の界に戻って貴女と契約したと報告も済ませておきたいですしね」

 

 グレイが冷静な口調で戦力を分析する。確かにこのままじゃあグレイにばっか負担かかって辛いよね。ワタシときたら碌に攻撃魔法が使えないし、大きな呪文使うとキャパオーバーで倒れちゃうし。

 

 今はグレイにおんぶに抱っこ、何から何まで面倒看てもらってる。精霊さんをこんなに扱き使うのって問題だよね。グレイにだっていろいろ用事があるだろうし。第一こんなずっと人間界で実体化し続けて問題ないのかなぁ……

 

「そうだよね。何とか仲間増やしたいなぁ~」

 

 とは言ってもそんな簡単にはいかないよね。

 

「できれば剣士、私たちだけでは物理攻撃面が頼りないですからね、それに大呪文となると時間稼ぎをする時間が欲しくなる。まぁ、まだ使いこなせてませんが」

 

 う。確かにまだ全然使いこなせませんが……上級魔法になればなるほど呪文の詠唱に時間がかかるようになるから隙も多くなる、それをカバーする為に普通パーティには剣士とか武術家がいる。

 

 けど……それってば、はっきり言って今は無理!だって、人を雇うお金なんてないんだもん。ううっ。貧乏って敵だわ~

 

「そんなお金ないよぉ~」

 

「……ですね」

 

 グレイが顎に手をおき考えている。ワタシが頼りないばっかりに苦労かけてるよなぁ~でもワタシじゃ何もアテがないし、グレイにたよるしかない……んだよね……とほほ。でもでも、グレイにさっきみたいにぜ~んぶ頼ることだけはしないぞ!

 

「ならば、少々カナンには無理をかけることになりますが、別の精霊と契約していただくのがいいでしょう」

 

「へ~新しい精霊さんねぇ……」

 

 へぇ~なるほど……

 

 …………

 

 

 って? え?

 

「ええぇ~!!」

 

「何をそんなに驚いてらっしゃるんですか?」

 

 ワタシが思わずあげた奇声にグレイが訝しい表情を向ける。

 

「だってぇ~」

 

 だって、だって、だって!

 

 そりゃ、取り敢えずお金はかかんないけど、ようやく一人目の精霊さんを呼び出したばっかのワタシにそんなの無茶だよ~

 

 しかも! しかも……グレイ一人でワタシは……もう手一杯というか、これ以上苦労を増やしたくないというか、これ以上振り回されたくないというか……ごにょごにょ……

 

「確かに精神力という点で貴女には負担が多くなりますし、不安もありますが、この先のことを考えるとパーティの充実を図る必要が頓にあります。仕方ありませんよ」

 

「でも、でも!」

 

 でも! だいたいさぁ~やぁ~っと一人目の精霊さんを呼び出すことができたばっかのワタシにもう一人なんてさ、成功すんの???グレイ一人呼び出すのにどれほど失敗重ねたことか!

 

 大体! 魔方陣を書くのにインクだっているし! 作るのには結構時間かかるんだよ~~~しくしく。もし、買うとしたらそれなりに高いし!

 

「い、インクだってないし……」

 

 そうそう、ってことにしておこう、失敗する可能性が限りなく高いということの方が心配だけど。

 

「買えばいいじゃないですか」

 

 そんなワタシにグレイが事も無げに微笑む。はい?でもそんなお金……ない……よ……

 

「昨日いただいた成功報酬で」

 

 うっ!

 

「それで一回分くらいならば買えるんじゃないないですか?」

 

 た、多分、一回分くらいならなんとかなるだろうけど……一番安い、特殊効果のなんもないインクなら……

 

「だけど、それ使っちゃたら本当に一文なしになっちゃうよ~」

 

 そしたら、この先野宿で食料は現地調達ほんとサバイバル生活突入になっちゃうよ~とほほ。

 

「いいんじゃないですか。そしたら、また依頼をこなせばいいのだし、そのくらい切羽詰っていた方が失敗しなくて済むでしょう?」

 

 グレイが綺麗に綺麗に微笑む。きっと、こんなシチュエーションじゃなかったら誰もが見惚れてしまうくらいに。けれども、すっかりグレイのこの笑顔のウラを知ってしまったワタシは正直、蛇に睨まれた蛙状態だった。だらだらと汗をかきながら、逃げ道を探すものの、最早逃げ場がないってカンジ!

 

 そして、やっぱりというかなんというか……お見通しだったらしい……失敗する方の確率がうんと高いということを。

 

「じゃあ、それでいいですよね?」

 

 そんなワタシに逆らえる筈も無く……グレイの微笑を受け入れていた。

 

 気分は正しく……とほほ……というカンジで。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「あ、そこ間違ってますよ」

 

 グレイがやれやれってカンジで声をかける。

 

「ええぇ~なんで分るの~~!」

 

 目が見ないって言ってたのに~

 ま、まさか、ワタシをからかったとか……ううん、グレイってば人使い荒いけど、そんな性質の悪い冗談言ったりしない! それは自信がある……ような気がする。

 

「まったく……。見えなくっても分りますよ。間違えれば魔方陣に蓄積される筈の魔力が感じられなくなるのですから。私に言わせればそんなことも分らない方が問題だと思いますけど、第一こんな初歩的な魔方陣も満足に描けないんですか?」

 

 っぐ!

 

 相変わらず歯に衣着せないんだから!

 

 そ、そりゃ魔方陣も満足に描けないけどさ、そもそも参考書を荷物に入れる暇も与えずに連れ出したのはグレイじゃないのよ~アレさえあれば、多少は……マシなんだから……たぶん。

 

「なによ~、参考書さえあれば魔方陣くらいちゃんと描けるもん! それにそんな魔力の分散があるなんて魔法学院の先生も言ってなかったし、誰もそんなこと言ってなかったんだから分んなくても仕方ないじゃない」

 

 怒りに任せて一気に捲くし立てると、グレイがやれやれというカンジで溜息をつく。

 

「やれやれ、最近の魔道師も随分質が落ちたものですね。てっきり貴女ぐらいかと思っていたら……まぁ、でも安心してください。貴女はこの私がしっかりと鍛えなおしてさしあげますから」

 

 ワタシは拳を握り締めた。

 

 そりゃ、そりゃ、ワタシは優秀な魔導師じゃないけど!けど、けど、ワタシが魔導師の代表みたいに言われるのも他の魔導師まで馬鹿にされるのもイヤだ。

 

「わ、ワタシのことは馬鹿にされても仕方ないけど、魔導師みんなを馬鹿にすることないじゃない!グレイはしんないだろうけど、ワタシのお母さんはフェアウェルランドの英雄だし、お兄ちゃんは天才って名高いんだからね」

 

 だから、ワタシはグレイに向かって一気に捲くし立てた。

 

 ぜいぜい肩で息をするワタシにグレイの態度はやはりと言うかなんと言うか、やっぱりあくまで冷静だった。

 

 だから余計腹が立つ!

 

「『レマ』と『レファン』って名前出したらそれだけでこの辺りの人はすぐに分かるくらい有名なんだからね」

 

 ってちっともワタシはすごくないから威張って言うことじゃないんだけどね。

 

 ちょっと自嘲気味にはなるけど、ともかく、グレイに魔導師全体が質が悪いなんて認識だけは覆してもらわなくっちゃいけないんだから構っていられない。ワタシは「どうよ!」とばかりに胸を張ってグレイに詰め寄った。

 

「……『レマ』……『レファン』……『レファン』」

 

 グレイが何かを思いつめたように呟くのはさっきワタシが言ったお母さんとお兄ちゃんの名前。

 

「なに? グレイも知ってるの?」

 

 ワタシの問いかけにはっとしたように顔を上げるグレイは真剣に何事かを考えていたみたいだった。

 

「……いえ」

 

 語尾を濁した返事はなんだか煮え切らないカンジがした。

 

「まぁ、ともかく貴女が仰ったことが事実だとして、それは貴女が威張る事ではないと思いますが……違いますか?」

 

 やっぱり……見逃してはくれないか……とほほ。

 

「その通りです……」

 

「ならば、まず、貴女は魔導師全体の質の高さを証明する為にもこの召還魔法を成功させてくださいね」

 

 そして、やっぱりにっこりと満面の笑みを以って言われるそれからワタシは逃げられる筈もない。

 

 だから、ワタシはすっかりその笑顔に有耶無耶にされてしまった。グレイがお母さんとお兄ちゃんの名前に気をとられていたということを。

 

 

 もっと、この時気にしていたら少しは何かが変わっていたかもしれないのに……

 

 

 


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