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光の祝福3

 魔法結界が張られる理由は他からの干渉を防ぐこと。敵の攻撃から自分を護る為に。それから魔法の効力を上げる為に空間を区切って効力の範囲を狭めること。そんなところが挙げられるだろうか?

 

 なんにせよ私たちはこれでとっても不利になった。私たちを狙ったにしろそうでないにしろ結界の主まんまと結界に入り込んだ私たちを嘲笑っていることだろう。自分の力を最大限に生かせる場所に獲物はいて自分自身はと言えば至極安全な場所にいることだろうから。

 

「こんなすごい魔法結界なんて……」

 

 私は呆然とした。闇は深い、何処までも続いているかのようだ。これほどの結界を張ることができるなんて……

 やっと学院を卒業したばかりの私が、しかも然程危険があるとは思ってもいなかった場所で出会う敵にこれほどの能力があるなんて……

 

 聞いてないよ~

 

「確かにこれほどの魔法結界とは。これは施術者の命もしくはそれに相当する力を触媒とするほどに強力なものです。それほどの力を使って結界を創るとは」

 

 グレイの言う通りなら、もしもこの結界を破れば施術者は命がけの結界を張ったってこと?になるんだよね。そんな凄い結界に引っ掛かったのが私じゃ申し訳ないなぁ……

 

 ……じゃなくって!

 

「えええ~! じゃあどうやったらここでられるの~~!!」

 

 どう考えても私じゃ出られないような気がする……

 

 わあぁ~ん。この結界を創った術者さ~ん、何かの間違いです!私を此処から出してくださいっ!!

 

「結界から出るには術者の術をそれ以上の魔力で破るか、破邪の武器で物理攻撃を加えることが有効ですが……」

 

 グレイが私に確かめるように言う。そ、そんなことぐらい確か……教科書で読んだ……ような気がする……

 

 そんなことが問題なんじゃなくって、そんなこと私にできると思う?

 

「そんなの無理だよぉ~」

 

 少しくらい泣き言を言わせてください。どう考えても出られそうにもないし、この先のことを考えればなんだか絶望的なんだもん。

 

「カナン……」

 

 グレイの声が低い。そこには酷く警戒の色がある。

 

「な、何?」

 

 今度は何ですか? びくびく。

 

「何かいます」

 

 っへ?

 

 な、何かってなに~~~

 

 注意深く辺りの様子を窺うと確かに何か気配がある。確かに暗闇を低く長く響く咆哮が聞こえてくる。

 

 グレイがその気配を追う先、その瞳を向ける先。

 

 そこには

 

 赤く、暗闇に浮かび上がる二つの光があった……

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 二つの鋭い光が睨んでいる。

 

 それが何か大きな獣の眼光だとすぐに気がついた。だって、それは敵愾心をもって私たちにその存在を知らしめてきたのだから。暗闇に燃え上がる赤い被毛。燃え上がる……赤く、赤く……

 炎の獣は牙を剥き出しにして私たちを威嚇する。

 

「うそ……何アレ……」

 

 炎を背負った大きな獣。四つ足で噛まれたら痛そう(それくらいで済めばだけど)な牙、その瞳は赤く光って相変わらず私たちを睨めつけている。

 

 見たことないし、聞いたこともない獣、教科書の『目で見る魔獣図鑑』とかにも載っていなかったよね多分……

 

 けど、見ただけでこの獣が凶暴そうで、私たちを今にも襲おうとしている――ってことは分った。

 

「魔獣ではありません。ちゃんと人間界の獣ですよ、アレは」

 

 グレイの声は冷めているといっていいほど冷静だった。

 

「で、でも……」

 

「幻想魔」

 

 グレイが私の声を遮った言葉。

 

「幻想魔!?」

 

 私の声が上擦ったのは無理もない。

 

 

 幻想界の魔法を使いこなす悪魔。精霊の力とは源の異なる不可思議の力を操る悪魔。精霊の力の干渉を受けないその力は扱うのが困難で人間界では実体化しにくい。だからこうして結界を張って力の安定化を図ったりする。そして、それだけでは扱いにくい力を別のモノに付加して使うのが普通。

 

 つまり、人間界で力を使いたいなら人間界の生物を媒介としてその生物に力を与え使役することで力を使う。

 

 ―――と肩にかけた携帯鞄から出した『目で見る悪魔図鑑』には書いてある……

 

 うっ。

 

 グレイの視線が痛い。「そんなことも知らないんですか?」とそれは語っているような気がする。

 

 し、仕方ないじゃないの~見たこともなければ、聞いたこともない悪魔なんだから!

 

 

 第一、この本にも書いてあるじゃない。

 

 ”まず、その悪魔に出会うことはないないでしょう”って。なになに?えっと……”何故ならば、幻想界の力を操る悪魔は上級魔の中でも特に選ばれたモノに過ぎません。それだけに絶対数も少なく、滅多に人間界に出現することはないからです。”

 

 ふ~ん、そうなんだぁ~―――って此処にいるよ此処に!

 

 で、出会った時はどうすればいいんだろう?私はその次の頁を捲る。其処には対策が書かれている筈……

 

 ”万が一、幻想魔と遭遇した場合は”――あ、あったあった。これこれ。

 

 ”何をおいても逃げましょう! まず、勝ち目はありません。”

 

 …………。

 

 逃げ……られそうに……ない……んですけど…………

 

 

 

「ごそごそと何かやってらっしゃるかと思えば……。流石ですね、この暗闇を照らす大いなる力を持った獣を目の前にしながらその明かりで調べ物ですか?」

 

 ぐっ!!

 

 相変わらず抉るような一言。

 

「だ、だって、知らべればなんか分るかもしれないじゃないのよ!」

 

 私は参考書を握り締めながら応えた。

 

「……で、何か参考になりそうな事柄は書かれていましたか?」

 

 うう~、本当に手加減ないんだから~

 

 

「……書かれて……ません……」

 

 私が小さく呟くとグレイは如何にも大袈裟に溜息をついた。

 

「あの獣を攻撃しても幻想魔、ここの結界の主には大したダメージを与えられないことでしょう。アレは使い魔みたいな存在ですから。効果的なのはやはりこの結界を破ることです」

 

 そんなことができたら最初からやってるよ~~~

 

「貴女が光の魔法を使えれば私がその力を増幅することでなんとかなると思うのですが……」

 

 グレイが横目でちろりと見る。

 

 すみません。情けないマスターで……しくしく。

 

「かと言って、物理攻撃は貴女には無理でしょうしね、私も人の武器は扱えませんし」

 

 そうですね……。なんてったって、武器って言ってもただの木の杖だし。

 

 とかってやっている間にも炎を力を負った獣は威嚇するように唸り声を上げる。

 

 その赤い瞳は真直ぐに私たちだけを見て。

 

 なんで憎々しげに見るんだろう?

 

 なんでそんなに怒りを向けるんだろう?

 

 まるで私たちをズタズタにしなければ許せないと言っているかのような……

 

 

 炎の獣は低い姿勢をとり、力を全身に集め、そして……そして、私たち目掛けて跳躍した。

 

 

 その無駄のない動きに私は身動き一つ、叫び声一つ上げることができすにいた。

 

 目の前にいよいよその獣が踊り出てきてできたのは堪らず目を瞑ることだけ。

 

 助けて! ―――と声さえ出さなかった。

 

 

 


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