第11話 開封配信とAIの警告
翌日。アキラは玄関の前で落ち着かずに歩き回っていた。
(予定だと、そろそろのはずなんだが……)
スマホを何度も見て時間を確認する。
そのとき、不意に玄関のチャイムが鳴った。
「うぉっ!」
アキラはびくりと体をこわばらせ、肩を跳ねさせる。
「宅配便でーす!」
「来たかっ!」
弾かれたようにアキラはドアへ向かい、勢いよく取っ手を引いた。
◆◆◆
アキラはすぐにカメラをセットし、届いたばかりの大きな段ボール箱の前に座る。
「えー、昨日購入した『NDA公認 探索者スターターキット』が届きました! 今から開封していきます!」
名無し:【おお! 本当に買ったんだ】
名無し:【でけぇw】
名無し:【もう届いたのかよ、早いな】
開封を始める前に、ふと配信画面の視聴者数を確認する。
「え、1200人か……」
思った以上の減り方に、アキラは画面の前で小さく息をのみ、残念そうな表情でまぶたを伏せた。
名無し:【意外と残ったじゃん! これ以上はもう減らないと思うぞ】
名無し:【俺、バズって同接3000まで行ったのに100以下になったライバー知ってるわ。それよりはだいぶましじゃね?】
ベテラン:【むしろこの1200人は固定客だということだろう。これはかなり多い方だぞ、おめでとう】
コメントを読み、アキラは少しだけ安堵する。
「……ああ、ありがとう。みんな、待たせたな。よし、気を取り直して行くぞ!」
アキラは言葉と同時に背筋を伸ばし、表情を配信者の顔へ切り替えた。
アキラはガムテープを切り、段ボールを開けた。中には黒いウレタンに固定されたアイテムが並んでいる。
「うおっ、なんかプロっぽい!」
最初に取り出したのは探索者専用スマートフォン「DCom 7S」だった。
「これが探索者専用スマホか。俺の安物とは大違いだな」
電源を入れながら、アキラは重さや質感を確かめる。
名無し:【DComいいなー】
名無し:【頑丈で銃弾を受けても壊れないらしいよ】
名無し:【まあダンジョンで使用するやつだからな。早々に壊れても困るだろう】
そのとき、スマホが突然、落ち着いた女性の声を発した。
『――起動を確認しました。私は探索サポートAIです。ユーザーの今後の探索活動をサポートします』
「え、うわ!? しゃ、喋った!?」
アキラはスマホを持つ手を少し震わせながら、顔を近づける。
名無し:【噂の探索サポートAIじゃん!】
名無し:【限定で付いてくるやつか!】
「えっと、よろしく……?」
おそるおそる言葉を返し、アキラは画面に視線を合わせた。
『まずはユーザー認証をお願いします――』
冷たい対応に苦笑しながらも、アキラは説明に従って登録を進めていく。
『登録が完了しました。現在、ユーザーのD-ナビと連携しています。ドローン・アイ MkIIとのペアリングを行い、必要な情報を「DCom 7S」へ中継する設定変更を提案します。よろしいでしょうか?』
「あ、ああ。頼む」
少し戸惑いながらも、アキラは承認した。
『ではドローン・アイ MkIIの電源をお入れ下さい』
アキラは「ドローン・アイ MkII」を取り出す。レンタル品より小型で、洗練されたデザインだ。
「入れたぞ!」
スイッチを押したアキラは、AIの反応を待つ。
『ペアリングが完了しました。これで「DCom 7S」を直接操作せずとも、ドローンカメラによってモンスターなどのサーチが可能です』
「へぇ。それは便利じゃないか」
アキラは思わずドローンの機体を持ち上げ、角度を変えて眺める。
名無し:【そんなことまで出来るのか】
名無し:【いちいちスマホ使わなくてもいいのは楽だな】
次に段ボールから迷彩コンバットスーツ、そして近接武器セットを取り出す。
「おお! プロテクターは頑丈そうなのに、軽くて動きやすいな」
軽く腕を振り、動きやすさを確かめる。
「ブレードにメイスか……」
どちらもタングステン合金製で、手にずっしり重い。
「両方はきついな。メイスだけにするか。剣ならソウルイーターがあるし」
アキラは装備を身につけ終えると、息を整えてカメラの前に立った。
迷彩スーツの色合いと体格のバランスを確認しながら、胸元のベルトを軽く引き締める。画面越しにもわかるように、姿勢を正して立ち位置を調整した。
「……これでいいか?」
小さく声を落としつつ、視線だけでモニターを確認する。
名無し:【おおー。カッコイイ】
名無し:【意外と似合ってるじゃん】
映っている自分の姿は、思っていたよりも様になっているようで、アキラはほっと肩をゆるめた。
「じゃあ、一旦終わりにするか。次の配信は飯食ってから1時に再開するからよろしく!」
名無し:【おつかれー】
名無し:【了解】
名無し:【おつ!おつ!】
配信を締めたアキラは、サポートAI入りの探索者スマホをじっと見つめた。
(自分から設定の変更を提案してくるなんて……。こんな高性能なAI、いつ開発されてたんだ……?)
会社を辞めたとはいえ、アキラはプログラミングを専門とする部署にいた。AIの最新動向についても、それなりに情報を集めていたはずだ。
しかし、このAIの振る舞いには既知の情報と決定的な隔たりがあるように感じる。
アキラは首を軽くふり、疑問を振り払おうとした。
――いや、待てよ。
(俺のユニークスキルなら、この違和感の正体を探れるかもしれない……)
問題は、スキルを使うことを、AIに察知されるリスクだった。
万が一、ユニークスキルをダンジョンの外で使用したことがバレれば、アキラの自由は大きく制限されるだろう。
(でも、このまま得体の知れないAIを使い続けるのは不安すぎる。知りたい。どうしても、このAIが何者なのかを……!)
アキラは決心した。スキルを使用したとしても、AI側が「スキルによる干渉」を検知する方法はないはず。
「ちょっとだけ、覗かせてもらうぞ」
アキラは深く息を吸い込み、スマホに意識を集中させた。
「《ハッキング》」
視界が一瞬ホワイトアウトし、次の瞬間、世界は情報で構成された光のグリッドへと変化する。
そして、スマホ内部の「AI」が存在する領域が、異様に高密度な情報の塊として視覚化された。
(なんだ、これ……!このAI、ただのプログラムじゃない……!?)
次の瞬間――視界が赤く染まった。
コードの流れが壁のような防壁に跳ね返され、激しい頭痛が襲う。
「……っぐ!」
スマホを取り落とし、顔が青ざめる。
『警告。ダンジョン外でのスキル使用は法律で厳しく禁じられています。今回は不問としますが、次に確認された場合は、管轄ギルドへ通報します』
AIの落ち着いた声が、冷たく響く。
「俺のユニークスキルを弾くなんて……何だ、こいつ……!」
戦慄が背筋を走る。
このAIは、彼の能力に干渉できる――それが今、明らかになったのだ。
(危険覚悟で調べて正解だったな……。やっぱりこいつ、ただのAIじゃない……)
冷や汗をぬぐい、アキラはスマホを拾い上げる。
(少なくとも、こいつと同じAIが入ったスマホには、俺のユニークスキルを使っても弾かれるってことだな)
“一般販売前”と書いてあった以上、このAIが広まるのも時間の問題だろう。
つまりは、前にユイに対してやったような、相手のスマホに干渉してステータスを下げるような使い方は出来なくなる可能性が高い。
(とはいえ、こんな場所で試すのはやりすぎだったか……)
もう二度とダンジョン外でユニークスキルは使うまいと、固く心に誓うのだった。
◆◆◆
ギルドに着いたアキラは、必要な準備を終えるとそのまま待機室へ向かう。
広い部屋の中では、それぞれの探索者がカメラを確認したり仲間と打ち合わせをしたりしており、にぎやかさと緊張が同居していた。
アキラも壁際のスペースに腰を下ろし、ライブ配信の画面を立ち上げる。
「配信を再開するぞー!」
スマホの画面には、コメントが次々と文字を送り出していく。
名無し:【待ってた】
名無し:【やっとか……】
「よし! じゃあ行くか!」
アキラは深く息を吐き、立ち上がる。
待機室の奥へ歩を進めると、天井の高い通路の先に巨大な石のゲートが現れた。
石造りのゲートを進み、足を踏み入れた瞬間――世界がゆがむ。
視界が白くぼやけ、気づけば。
アキラは静かな草原の真ん中に立っていた。
風が肌をなで、遠くで笑い声や足音が重なって聞こえる。
視線を動かすと、すでに多くの探索者たちが各方向へ散っていくところだった。
「おお! 洞窟じゃない! 人がいる!」
アキラは草を踏みしめながら周囲を眺め、目に入る景色に思わず声を弾ませた。
名無し:【今度はイレギュラーエリアじゃなさそうか】
名無し:【まあ、そうそう変な事にはならんだろう……】
「……よし、今度こそちゃんと探索できそうだな!」
地形におかしな点がないことを確かめ、アキラは満足そうにうなずいた。
そのとき、専用スマホが淡い光を点滅させながら音声を流す。
『現在、ユーザーの配信視聴者数は約1900人に増加しています。この勢いを維持して、更なる視聴者を呼び込みましょう』
「へぇ……いいじゃないか。なら今日の目標は、さらにファンを増やすことだな!」
アキラは口元をゆるめ、気持ちを探索者から配信者のそれへ切り替えた。
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メモ
現在のステータス
Lv.8
HP:10
MP:7
筋力:50
耐久力:30
敏捷性:40
持久力:28
スキル:直感
ユニークスキル:ハッキング
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