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ジャングルのクリスマスツリー

作者: 川野譜
掲載日:2026/06/01

おじいちゃんが家にやってきた。


「おじいちゃーん。冒険家のおじいちゃん。」

「おう。次郎とココよ。」

「おじいちゃーん。ねえねえ、また、冒険の話聞かせてよ」

「久しぶりだな。元気にしていたか。」

「うん!」

「おっ、次郎。ココも太ったなあ。

次郎。お前は,ゴリラのココを可愛がっているな。よし、よし。なぜ,ゴリラを飼おうと思ったんだ?」

「だって僕、動物大好きだもん。」

「うほうほうほほほ」

室内ゴリラのココは元気よくグーを作ってドラミングをした。

うほほうほほ!

うほほうほほ!

「・・・・おじいちゃん。何か、面白い冒険話ないの?」

「うーん。そうだなあ。あれは、30年以上前のことだったかな・・・。次郎は野生のニンゲンという生き物を知っているか。」

「えっ?」




〜冒険家ヒロシ~野生人間ムルグの話〜



―――


「あれは、30年前のこと。私がアマゾンの奥地へ遊びに行った時のことだった。

が、その前に,まず野生のニンゲンの生まれについて二郎に話さねばならない。


その昔…遠い昔の話だ。その日三日三晩続いた大雨ののち、アマゾンの奥地にある巨大樹の麓から、野生のニンゲンが生まれ落ちたのだ。次郎は知らんかもしれないが、人は皆,生まれ出た時一様にオギャーッという産声と共に生まれてくるものだが…

当時、「マタハラーッ!」という声と共に,野生のニンゲンは生まれ出て来た。そうしてその大きな声は,ジャングルの奥深くから時折聞こえて来るようだったのだが、それが大雨が降り続く一週間もの間続いていたそうだ。その騒音に対し,アマゾンの村に住んでいたあるものは、何か変わったことが起きているようだと言い、あるものからは、よく分からないが殺してしまった方がいいという声も出始めていた。

そんなある時,村の奥深くから野生のチンパンジーのムルグという名前のメスが名乗り出て来た。チンパンジーのムルグは、声のありかを確かめるため巨大樹の麓まで降り立ち、そこに野生のニンゲンがマタハラ―ッと生まれ落ちているのを発見した。心優しいムルグは,奇妙な言葉で泣き喚く野生のニンゲンのために、野生のドリアンをもいで持って来てやった。一週間,ものを口にしていなかった野生のニンゲンは、ムルグの手から渡されたドリアンを掴み取ると、ドリアンの食べ方をムルグに尋ねて来た。

…そうして、騒ぎはようやくおさまり、村には静寂が訪れたように思えた。ところで次郎よ。話を聞いているか。」

「え。うん」

「このメスにムルグという名前があったのには実は訳があってな。実は,チンパンジーというのは発生器の機能上、ムルグという発音しか出す事が出来なかったため、アマゾンにいる五億五千匹のチンパンジーのすべてにムルグという名が付けられていたそうだ。そうしてチンパンジーに育てられることになった野生のニンゲンはドリアンとコーリャンと休息を取ることで何不自由なく成長していったのだが、当然そうしていくうち不意にある大きな問い」に直面した。「自分は何故、生まれさせられなければならなかったのか」という哲学的な問題だった。

そうして、早くも五歳にあって独り立ちをするため、野生のニンゲン=ムルグは親元を離れて旅に出る決心をした。いっぽう、ムルグの世話役だったメスのチンパンジーは、溢れ出る母乳を従えて近所の赤パンジー達の乳母として忙しく働きまわっていたのだが,「今日から旅に出る」と言って来た野生のニンゲンに向かってこう言ったのだった。「おい。ムルグよ。お前はチンパンジーのムルグではない。天地天命に誓っていうが、わたしはあなたのお母さんでも何でもない。お前は、木の精だ。」。その時初めてムルグは泣いたのだった。オーエ~ス、オーエ~スという鳴き声はアマゾン川の上流でたった一日の半分ほど続き、そうしてたった一人旅に出るにあたって,五歳の仮性ムルグは、まずは自分のための旅仲間を探す事にした。それも、村に居た占い師の長老ムルグから「旅に出る前に、船を作れ」という予言を使わされたせいだった。

長老は、じゃりじゃりと箸のようなものを手でこね合わせると、こういった。金の船。銀の船。それから、木の船。このみっつの行いには気をつけなさい」というお告げであった。こうしてムルグは、世界で初めて、チンパンジーとしてアマゾンから出ることになった。別れの会に際して、傍にいたムルグとムルグとムルグからはドリアンとコーリャンと葉っぱなどの餞別をもらい、それからその後ムルグはやっと仲間を見つけて来た。大きな雲に乗って現れたのは、黒ゴリラのアラタと大ザルのソナタ、それから中ザルのカナタだった。

黒いアラタが言うには「いっときの思い込みで、船を作るのは危険です。私は,家を作ります」定住を礎とするアラタは、家づくりを推奨してきた。一方ソナタは、「長老のお告げを忘れてはなりません。私たちは,船を作るのです。それも、大きくなったり小さくなったり伸び縮みできる船です」と言い出した。ソナタには、異名としてドラえもんというあだ名が付いていた。そして、カナタだが、「わたしは、どんな手段であっても、金色に輝くものでなければいやです」と言って、仮性ムルグのためにアマゾンの河口で砂金を探し出してくれた。そうしてムルグは結局、静かに呟いたのだった。自分は確かに、船は作れません。船が水の流れで動き、風のはやさを動力として動くとき、私のもとには風使いも水使いもいません。わたしは巨大樹の麓から生まれ出た、ただの木の精です。そう言い、そのとき、カナタのいたアマゾンの砂金窟からは、大きな鉛の粒が取れたそうだ。

そうして結局、それからはみんなで力を合わせて金のシャチホコを作ることにした。仮性ムルグが提案した金のシャチホコは、驚くべきことに作り出すのにゆうに4年もの歳月を必要とした。その間に、仮性ムルグは手が伸び、足が伸び、Tシャツからはみ出たるその筋肉質な体躯をもてあますようになった。黒いゴリラのアラタはそれを見て「仮性ムルグよ。木の精よ。いつの間にかゴリラみたいになったなあ。」と言って、手に持ったトンカチをトンテンカントンと鳴らしてシャチホコの形をならしていった。そうして、動物園の中庭のような雰囲気の中でようやく金のシャチホコが出来上がった。仮性ムルグはもうただのチンパンジーには見えず、どこから見てもターザンのようになっていた。そして皆で夜を抜け、息を潜めながらアマゾンの川をばしゃばしゃと下っていくことにした。途中、大きなワーニーと出会ったときは、カナタとソナタが「そいや!そいや!」と言って、竹の棒で突いて追い払ってくれた。仮性ムルグはそのたびに「ああ、あぶなかった。あやうく、金のシャチホコを奪われるとこでした」と言った。

それから一週間後~

街に現れ出たのは金のシャチホコ(1,5メートル)をかついだムルグと黒いゴリラ、それから中ゴリラと大ゴリラだった。

プップップップー!クラクションが鳴り響き、街の大動脈である道路の交通が完全にストップしてしまったのだ。私がムルグと出会ったのはその日が初めてのことだった。

ムルグは、まるでタコのようにつぶらな瞳を持ち、小さな葉っぱ三枚で急所を隠している筋肉質のお化けのように見えた。私はというと、これからアマゾンの探検へ行こうとショップでギフトを買いあさっているときのことだった。

警察がその時、号令をかける声を聴いた。そうして1秒も経たないうちに、まずゴリラが倒れた。それは、巨大なクリスマスツリーがなぎ倒された衝撃のように思えた。それから隣のゴリラが倒れ、端っこのゴリラも倒れた。もう一人のターザンも、もはやこれまでかと思われたその時だった。「麻酔銃を、打つなーっ!」ムルグが叫んだのだ。驚くべきことに、野生のニンゲンである木の精、仮性ムルグは言葉を習得していたのだった。

「お前は、私たちと交信できるのかーっ!」

警察が、拡声器で喋った。

「麻酔銃を、むけるなーっ!」

「お前は、一体何をしにここへ来た!」

「うほうほうほほほ」

しかし、ムルグはすぐにまた元のゴリラに戻ってしまっていた。おとなしくなったムルグに、警官が一人歩み寄ってきて手錠をはめた。「う、うほはほへはーっ!!」ムルグは、悲しそうに叫び、通行人全員から見られながら、文明の利器であるパトカーの元へと連れられて行った。けれど誰かと意思を交わそうとし続けているのか、必死に金のシャチホコを指さし続けていたのだった・・・

※金のシャチホコとムルグの写真をおじいちゃんが出す。

次郎がそれを手に取って見る

「うわあ。」


私が次にムルグを見たのは、村の独房に入れられた姿だった。私は、昔からの願いだったアマゾン探検を済ませた後、ワニのウロコをもらい、それからバオバブの木で建てられた小屋の中にへたりこんでいるムルグを観察していた。それから村の長老から、村の入り口に突き刺してある金のシャチホコを見せてもらったのだった。

金のシャチホコは、とても立派なものではなかったが、ムルグ達が一生懸命にそれをトンカチで叩き続けた姿が浮かんで来るようだった。


「一体なぜ、こんなことになったのかは誰にも分かりません」

アマゾンの隊長はそう言い、金のシャチホコを巨大な猫のように撫でていた。






「これが私が、野生のニンゲンムルグについて知っているすべてだ。次郎。・・・面白かっただろう」

おじいちゃんはテーブルの上のソーサーにカップを置き、コーヒーを飲み終えた。

それははっきりいってとても苦く、深みのない味がした。


次郎はレゴブロックを組み合わせながら、返事の代わりに屁をこいたのだった。

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