表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第1話「死んだら昭和だった件」

俺の名前は霧島蓮。享年二十歳。死因は工場のラインに挟まれるという、なんとも締まらない最期だった。


音楽専門学校を出て、バンドで売れる夢を追いかけた。ビジュアル系が好きで、ギターを抱えて生きてきた。でも現実は甘くなかった。ライブハウスのノルマは払えない、メンバーはバラバラ、バイトと練習の繰り返しで気づいたら貯金はゼロ。結局「とりあえず」で地元の工場に就職して三ヶ月。「とりあえず」のまま死んだ。


我ながら情けない。


気づいたら知らない天井を見ていた。


「蓮!いつまで寝てんの!学校遅刻するよ!」

知らない声だった。でも不思議と怒鳴り声の温度感だけはわかる。母親のそれだ。


(…母親?俺の母親、こんな声だったか?)


体を起こすと、見慣れない部屋だった。勉強机、本棚、カレンダー。


カレンダーに目が止まった。


『1982年 4月』


(…は?)

俺はしばらくそのカレンダーを眺めた。窓の外は春の朝だった。どこかで鳥が鳴いている。のどかだ。のどかすぎる。


(1982年。俺が生まれる前やん。)


とりあえず鏡を探した。勉強机の横に小さな手鏡があった。恐る恐る覗き込む。


知らない顔だった。


黒い短髪、丸い目、どこにでもいそうな少年の顔。悪くはない。悪くはないけど、これは俺じゃない。

引き出しを漁ると生徒手帳が出てきた。


『山田 蓮』


俺はそれを三秒間眺めた。


(…山田。)


もう一回読んだ。


(山田。)


(山田って。)


(やまだ、レン。)


声に出してみた。「山田蓮」。響きを確かめた。どこにでもいる名前だった。駅前の定食屋にいそうな名前だった。


(霧島ちゃうんかい!!)


心の中で叫んだ。霧島蓮という名前に、俺はどれだけのアイデンティティを乗せて生きてきたか。ビジュアル系をやるために生まれてきたような名前じゃないか。それが山田。山田って。


蓮だけ引き継いでいる謎のこだわりが余計に悲しかった。


「蓮!聞こえてるの!?」


「…今起きる」


自分の口から出た声も知らない声だった。少し高い、まだ声変わりが終わりきっていない少年の声。


(俺、高校生になってる。)


制服に着替えながら状況を整理した。転生、というやつだろう。漫画で読んだことがある。ただ俺が想像していた転生は、異世界で魔法使ったりするやつだった。1982年の日本に高校生として放り込まれるとは思っていなかった。


しかも山田として。


(山田て。)


まだ引きずっていた。


階段を降りると味噌汁の匂いがした。食卓には知らない女性が立っていた。この人が母親らしい。


「何ぼーっとしてんの、早く食べて」


「…うん」


朝ごはんを食べ終えて、母親に小遣いを渡された。手のひらに硬貨が落ちてきた瞬間、俺は固まった。


見慣れない硬貨だった。銀色で、500と書いてある。

(500円玉…?500円玉って、こんなんやったっけ…?)


なんか違う気がする。でも何が違うのかうまく言えない。現代と微妙にデザインが違うような、そうじゃないような。


(…あ、そういうことか。)


じわじわと実感が湧いてきた。これは本物の1982年だ。知識として知っている時代じゃない。俺が今まさに生きている時代だ。


玄関を出ると、春の風が吹いた。


どこかで売れる前のZが、ギターを鳴らし始めている。


俺には、それがわかった。

(やったるか。)

(…でも山田か。)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ