未来
「――ねえ、咲夜さん。最近、ずっと元気がないみたいだけど……なにか、悩みでもあるの?」
「……光冶さま……いえ、そんなことは」
お二人の結婚から、二ヶ月ほどが経過したある小昼のこと。
縁側にて、ふと馴染みのある声が鼓膜を揺らす。顔を上げると、そこには風護さまと似た美貌の男性。光冶さま――風護さまの三つ歳下のご弟さまで。
ちなみに、お二人――風護さまとお姉さまはご入籍以降、共に和泉家で暮らしています。ですが、ほとんど顔を合わせなくなったかというとそうでもなく。前述の通り両家は古くから懇意の間柄にあるので、入籍以降もお二人がこちら――白峯家へお越しになることが度々あって。……まあ、流石に私から和泉家には足を運び難いですが。
そして、光冶さまは以前よりも度々……まあ、無理もないでしょう。もしも、その立場に――例えば、お姉さまと風護さまが白峯家で暮らすなどということになっていれば、私だって居た堪れなくなりしばしば和泉家にお邪魔していたことでしょうし。
……ただ、それはともあれ……元気がない、か。……まあ、否定はしがたいですね。そして、理由も明白――ですが、自分では如何ともしがたくて。きっと、いつか時間が癒やしてくれるのを待つより他には――
「――ところで、咲夜さん。突然だけど、僕と結婚しない?」
「………………へ?」
「――おめでとう、光冶さん、咲夜。それにしても、未だに驚いているわ」
「そうですね、朝乃さま。ですが、本当におめでとうございます、咲夜さま、光冶。お二人の末永い幸せを、心よりお祈り致します」
「祝福のお言葉、恐悦至極に存じます。風護さま、お姉さま」
「ありがとう、朝乃さん、兄さん」
爽やかな風が髪を撫でる、ある晴れやかな秋の日のこと。
黄金色のイチョウが美しく映える和の庭園にて、かつて祝福を送ったお二人から今度は祝福を受ける私達。その理由も同じく――この度、光冶さまと私が夫婦となったからで。……まあ、驚きますよね。お二人にとってもあまりに急なお話でしょうし、そもそもきっと私が一番驚いていますし。
「……それにしても、本当に仲が良いのね貴方達。もちろん、昔からの縁なのだし驚くことではないのでしょうけど……でも、そこまで良かったかしら?」
それから、一ヶ月ほど経過して。
和泉家にて、どこか困惑したような表情でお尋ねになるお姉さま。貴方達、とは光冶さまと私のことで間違いないでしょう。
……まあ、無理もないご反応でしょう。昔からのご縁ゆえ、確かに友好的な間柄ではありましたが……籍を入れてからというもの、傍目からも明瞭に違いが分かるほどに仲睦まじくなっていますから。
「……確かに、少し驚きですよね。ですが、とても良いことではありませんか、朝乃さま。僕らにとっても大切なお二人が、これほどに幸せそうになさっている――これほどに素敵なことなど、きっとそうそうないと思われますし」
「……まあ、それはそうかもしれないけど」
すると、優雅な足取りで私達の方へと近づき告げる秀麗な男性。陽だまりのようなその微笑みは、私達の幸せを心から喜んでくれることを如実に伝えていて。……ええ、もちろん幸せです。何故なら――私達二人の進む先には、それぞれにこの上もなく望む未来が待っているはずなのですから。
――それから、ほどない頃でした。卒然、お姉さまが風護さまへと別れを切り出したのは。




