波乱の合同ミーティング
放課後の静まり返った旧校舎の一室に、ざわざわと足音が響いた。今日は、自由時間の過ごし方に関する意見交換のため、風紀委員と生徒たちの合同ミーティングが開かれる日だ。
教室の前方、ホワイトボードの横に立ったのは、風紀委員長・神津レンヤ。相変わらず姿勢がよく、高校生に見えない風格がある。
「自由時間とは何か。そこを定義しておく必要がある」
その声に、教室の後ろから即座に返事が飛ぶ。
「好きなことしてゴロゴロする時間でしょー?」
飄々とした様子で手を挙げたのは、桜井ミク。制服のリボンを緩め、頬杖をついているその姿からは“自由”の代名詞のような気楽さが滲み出ている。
レンヤは、表情を変えず答えた。
「その、“好きなことしてゴロゴロする”の範囲を定義しておく必要がある」
「定義、定義ってうるさいなぁ」とミクが顔をしかめると、もう一人の生徒が口を挟んだ。
「自由ってのは、意味がないことにも意味を見出せる時間だな」
答えたのは、荒川ソウタ。不良風の外見に反して、時折妙に論理的なことを言う男だ。
「不良が論理的だとちょっと腹立つなぁ」とミクがつぶやくと、ソウタは涼しい顔で返した。
「見た目で人を判断するなって、現代倫理の基本だぜ?」
「とにかく、推しの動画を見るの禁止とかは止めてね!」
ミクが声を上げると、レンヤがすかさず問いかける。
「推しの動画を見続けるという自由時間の使い方には、どんな意味があるんだ?」
「推しは光。つまり、光合成してる!」
「え?何言ってんの?」
「なるほど」と、レンヤが軽く頷く。「自由とは、行為の意味を自ら定義し直せる能力である。と言えるな」
「なんで納得してんの?」
ソウタがツッコミを入れていた時、ガラリ、と教室のドアが開き、紺野セイラが入ってきた。カートに、ポットと人数分の湯呑み、お菓子を乗せて。
「お茶を入れてきました〜」
その瞬間、ソウタの動きが止まった。
ピクリと肩が震え、頬がじわじわと赤くなっている...
ソウタの分かりやすい挙動を見ていたミクは、ニヤリと笑い、小声でソウタに囁く。
「ねぇ、もしかして荒川ってさぁ、セイラちゃんのこと…」
「絶対に言うなよ!」
「じゃあさ、さりげなく聞いてあげようか?セイラちゃんに、荒川の印象」
「まじで!!」
すると、レンヤがいつものように、割って入って言う。
「何をコソコソしているんだ。集団形成は一定の節度をもって行うべきだ」
「出た〜、集団形成マイスター!」
ミクはそう言っていたが、ソウタは、ある事を思い出していた。
『他の女子生徒といる時は入ってこないのに... なるほど、レンヤは桜井の事...』
そして、思わずレンヤを見てにやついていた。
「露骨なニヤニヤはやめろ!
では、自由時間における行動の許容範囲を五段階に分類することを提案する」
「めんどくさっ!」
「自由時間の自由をガチガチに縛る気か?」
ミクとソウタが反対の事を上げるも、レンヤは表情を変えずに言う。
「自由には責任が伴う。“無限の自由”は、“他者への無関心”と表裏一体だ」
「あーぁ、始まった〜!」
ミクは、大きな声でつぶやきながら、淡々と説明を続けるレンヤの横顔に見惚れていた。
「つまり、他の人の自由も守るために、ある程度のルールが必要ってこと、ですよね?」
穏やかな口調でそうまとめたのは、セイラだった。
「紺野さん、すげぇ... 」
セイラは照れ隠しに言う。
「えっと! ... 荒川君も、お茶、入りますか?」
「くださいッッ!!」
ざわついた空気が少し和らいだ頃、ホワイトボードには自由な発言が書き殴られていた。
・自由時間の推し鑑賞はOK(ただしイヤホン必須)
・ソロ行動の自由は保障するが、孤立させない努力も評価
・自由な討論はOK、ただしラップバトル形式は禁止
「自由すぎて何も決まってない気がするけど、まあ楽しかったからいっか〜」
ミクがのんきに笑い、レンヤは淡々と答える。「意味のない時間に意味を見出すという点では、良かったよ」
その時、ソウタがレンヤに耳打ちした。
「そうやってかっこつけてるけど、桜井の事ばっかり見てたな」
「見てない!問題行動がないかの観察だ!」
レンヤの大きな声に、ミクが気が付いた。
「え?何の話?」
「なんでもない!!」
ちょうどその時、廊下からチャイムの音が鳴った。放課後の終わりを告げる鐘の音だ。
「そろそろ教室、戻りましょうか。…この会議も、楽しい自由時間でしたね」
セイラの言葉に、ソウタが応じた。
「…ああ、またこういうの、やろうぜ」
誰かが残したホワイトボードのいたずら書きが、最後に微笑みを誘った。
“自由とは、君と笑い合える時間”




