正しさを選び合う場所
講堂に集まる生徒たち。
普段は風紀に興味のない生徒までもが、この日ばかりはざわざわと視線を向けていた。
壇上に立つ風紀委員長・神津レンヤ。
「本日は、風紀委員会からの提案として――現行校則の一部見直しについて、生徒全体で議論し、決議を取ります」
どよめきと、ざわめきと、…そしてスマホの録画。
そのとき、壇上にもう一人の影――副委員長・紺野セイラが立った。
「私は、風紀委員会を代表して、意見を述べさせていただきます」
その瞳は真っ直ぐで、張り詰めた空気に場内が静まった。
「かつて、私は…」
セイラの語りが始まる。
数年前、彼女は転校生だった。学校に馴染めず、「変わり者」「空気が読めない子」と言われ続けていた。
「どこにいても、笑っていても、私は浮いていました。でも、この学校の“校則”に出会ったとき、初めて“基準”ができたんです」
「守れば正しいという線引き。私は、これが嬉しかったんです。この学校には居場所があるって」
それから、少し震えた声で言った。
「でも、段々と――私は、その正しさから外れた人を、追い詰めてしまっていました」
ざわっ…と、講堂が微かに揺れる。
セイラは、少し語調を強めて言った。
「風紀を守ることが、誰かを排除することと同じだったら。私はそれを“正しい”とは、もう言えないと思います」
自由連合を中心に半数以上の生徒が拍手を送っていた。
そして、生徒たちの、ざわめきが続く。
「髪色で怒られるの、いつも納得いかなかった」
「制服自由にすると、めんどくさくなる」
「ルール、ちょっとだけ緩くした方がいいじゃん!」
「緩くしたら、また荒れるかもしれない...」
そして、投票の時間が来た。
【校則の一部改定に――賛成 or 反対】
講堂に響く、電子音。
ピッ…ピッ…ピッ……ピン!
【賛成:251票】
【反対:149票】
――校則、一部改定、可決。
場内に、どよめきとも、安堵ともつかない空気が広がった。
その中心にいたレンヤは、深く息を吐いた。
「……これで終わりじゃない。ここからだ」
翌週。
風紀委員と一般生徒の合同ミーティングが始まっていた。
「自由は責任を伴う、正しさにも謙虚さが必要、両方を忘れないようにしたい」
レンヤの言葉に、うんうんと頷くミク。
「あと、給食ん時に、ずっと変な歌ながすの止めて欲しい」
「あれ、委員長が選んだやつ!」
風紀委員の1人がそう言うと、教室に笑い声が広がる。
そこには、以前のようなピリピリした空気はない。
代わりに、何が正しいのかを一緒に悩む空気があった。
放課後、屋上にて。
セイラが空を見上げていると、レンヤが現れる。
「風紀委員って、結局なんなんだろうな」
セイラは少し考えてから、微笑んで答えた。
「…私は、正しくあろうとし続ける人のことだと思う。完璧じゃなくていい。でも、怖がらずに見つめようとすること。それを、諦めない人のこと」
レンヤは少し笑った。
風紀委員会は、元は「いじめをなくすため」に作られた。
だが、その理念はいつしか「いじめそうなものを排除する」へとすり替わり、個性と自由を抑える装置になっていった。
けれど、その矛盾に気づいた生徒たちが、また新しい風紀を作り始めた。
彼らはちょっと遠回りして、安心と自由のバランスに、ようやく向き合い出したのだ。




