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風紀改革、始動

「風紀委員会 緊急会議?」

 ざわつく風紀委員たち。呼び出したのは、他でもない委員長・神津(かみづ)レンヤだった。

 教室の前に立つ彼の姿は、いつも通りきっちりとした制服。

 …だが、ネクタイが、少し緩んでいる。


 副委員長・紺野(こんの)セイラの目が鋭くなる。

「委員長、ネクタイ、大丈夫でしょうか...」

【第7条:ネクタイの結び目は、正確に喉仏の真下。ズレは±3ミリまで許容とする】

「知っている。だが、今日は“議論の余地”という風紀を持ってきた」


 一瞬、委員たちは言葉を失う。


 レンヤは続けた。

「今日の議題は一つ。校則の再定義だ。校則は絶対ではない。時代も、生徒も変わる。ならば、それに寄り添う風紀であるべきだ」


 沈黙を破ったのはセイラだった。

「それは、“風紀”じゃありません。“感情”に任せて校則を揺らすことは、生徒を不安に晒すことです」

 彼女の言葉には重みがあった。

「私は…かつて、自分の個性が“異常”と呼ばれて、どこにも居場所がなかった。でも、この風紀委員会に入って、“正しさ”が私を救ってくれた。だから私は、“曖昧な自由”なんかより、“明確なルール”を信じる」

 その目は真っ直ぐで、レンヤを突き刺す。

 レンヤは、一度だけ目を伏せたあと、静かに答えた。

「君を救った“正しさ”を、否定するつもりはない。だが――“正しさが人を守る”のと同じくらい、“正しさが人を縛る”こともあるんだ」


 校則改定案の提出日が近づく中、風紀委員会は二派に分かれていた。

 ・「変えるべきだ」とする改定派(レンヤ派)

 ・「守るべきだ」とする保守派(セイラ派)

 このままでは風紀委員会そのものが分裂する――


 そんな空気の中、レンヤはひとつの提案を出す。

「生徒総会を開こう。風紀とは、生徒全体が関わるべきことだ」


「そんなの、混乱するだけだわ!」

 セイラが声を荒げたのは初めてだった。

「ルールを委ねるなんて、無責任だよ。もし、生徒たちがバラバラな意見を出したら、風紀はどうやって保たれるの!?」


 レンヤは、言葉を選びながら答えた。

「バラバラだからこそ、風紀が必要なんだ。そしてそれは、“合わせる”ためじゃなく、違いを“共に置く”ためのものだ」



 そんな中、セイラはミクに声をかけていた。

 セイラが孤立していた時も、今も、ミクは変わらずセイラに親切だ。孤立しそうなミクを、セイラは見過ごせないのだ。

「ミクちゃん、大丈夫?」


「ねえ、セイラちゃん。あたしも昔、校則に助けられたことあるよ。でもね、助けてくれた校則が、今のあたしを“変なやつ”って言うんだ。じゃあさ、“変わらない風紀”って、結局、誰かを傷つけるのかな...」

 セイラは何かを言いかけたが、言葉にならなかった。


 ミクは、保健室でひとりの女生徒にも声をかけられる。

「…ねえ、風紀を緩めるって、本当に良いことなの?」

 彼女はミクの同級生、斎藤(さいとう)カオリ。

 昔、ミクの自由な言動を真似してトラブルになり、校内で孤立してしまった子だった。

「あの時のこと、覚えてる?」

 ミクは静かに頷く。

「ごめん。あたし、自由が全部良いと思ってた。でも、自分の言葉で誰かを追い詰めてたこと、気づいてなかった」

「ううん…ミクちゃんが悪いんじゃない。でも、自由って怖い。正しさの中にいたほうが、楽だったよ…」



 その日の夕方。

 ミクは珍しく制服をきっちり着込んでいた。

 それを見たレンヤが言う。

「…似合ってるな」

 ミクは、意外な言葉への喜びを隠すように、こう言った。

「レンヤくん。あたしさ、自由にこだわってたんじゃない、ちゃんと自分で選んだ事をしないと、他人のせいにしちゃう気がしてたの」

 レンヤはその言葉に、小さく頷いた。

「俺も、ようやく“風紀”というものが見えてきた気がするよ。それは“形”じゃない。“人の心の在り方”なんだって」

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