犯罪捜査の基本
――放課後、生徒会室。
シズカ先生のパソコンのディスプレイには、びっしりとログが並び、複雑なファイル構造の画面が目まぐるしく変わっていた。冷却ファンの小さな音だけが、静まり返った空間に響いている。
その中心にいるAI教師・シズカ先生の指が、まるで舞い踊るようにキーボードの上を滑っていた。目にも止まらぬ速度でコマンドが打ち込まれ、スクロールされるログが止まる気配はない。
ソウタがぼそりと呟く。
「.....ハッキングじゃねぇか」
「学園内で起きた問題への調査は、生徒会および風紀委員の権限の範囲内です。ログ解析は、犯罪捜査においての基本です」
シズカ先生は、まるで天気予報でも読み上げるような口調で淡々と答えた。
その瞬間、画面のスクロールがぴたりと止まった。
「見つかりました」
全員の視線が、ディスプレイに釘付けになる。
「印刷枚数:30部。タイムスタンプ:16時36分22秒。 ユーザー認証IC:M.Yamamoto。所属:非常勤事務員・山本ミサキ」
沈黙。
「……え、事務員?」
ミクが声を漏らす。
「はい。該当ファイルは、山本ミサキさんのICを使用して印刷されています」
レンヤ、ソウタ、ミク、そしてワタルが、思わず顔を見合わせた。
「まさかの展開すぎる……」と、ミクが呟く。
「非常勤って……あの、いつも給湯室でお茶飲んでる、ちょっとほんわかした人だろ?」ソウタが眉をひそめた。
「確かに人当たりはいいけど、こんな事に関わってるなんて…」ワタルが唸る。
「……とりあえず、本人に話を聞いてみよう」レンヤが静かに言った。
――数日後、昼休み。職員室裏の給湯室。
山本ミサキは、のんびりと紅茶のティーバッグをマグカップに沈めていた。カーディガンの袖をまくりながら、湯気の立つポットを手にしている。
「こんにちは、山本さん。ちょっとお時間、いいですか?」
ワタルが丁寧に声をかける。彼女はゆっくりと振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。
「あら、みんなでどうしたの? ちょっとドキドキしちゃうわ」
ミクが少し笑ってから、やんわりと切り出す。
「あのね。先日、コピー機で印刷された献立表について、聞きたい事があって……」
「……ああ、あれね」
ミサキは思い出したように微笑んだ。「4年(高1)3組の山内タケルくんに頼まれたのよ。『急に変更になったから、至急印刷してほしい』って」
「その献立表は、偽造されたものでした」
レンヤの声が静かに空気を切った。
「依頼してきたのは、本当に山内タケル本人でしたか?」
その瞬間、ミサキの表情がわずかに揺れた。ティーバッグを持つ手が止まる。
「……え」
彼女の目が、ゆっくりと見開かれる。
「えー!! 全然分からなかった...... 山内タケルくんで間違いないわよ! 何回か頼まれたから、顔もよく覚えてる!」
その声には、明らかなショックと混乱がにじんでいた。
ソウタがぽつりと呟く。
「山内って……あいつ、給食いつも残してるやつじゃなかったか? わざわざ献立いじるとか、そんなタイプに見えねぇよな」
ワタルも頷いた。
「出されたパン、まるごとゴミ箱に捨てて噂になった生徒だったような...」
ミクが、思い出したように言う。
「あの子、給食時間に保健室にいるのを見た事がある!」
レンヤが、ゆっくりと深呼吸をした。
「.....山内タケルに話を聞いてみる必要がありそうだな」




