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ルカの予言

 ──掃除を終えた帰り道。


 ミクとシズカ先生と別れた後、レンヤとソウタは静かに並んで歩いていた。

 とくに言葉を交わさずとも、互いの歩調が自然と揃っていることに、妙に安心感があった。



 レンヤ「……で? なんでルカなんだよ」


 ソウタ「 自分で名乗ってたんだよ。“時の深淵を覗く者・ルカ”って」


 レンヤ「……中二病全開だよな」


 吹き出しそうになりながらも、ソウタは平静を装う。


 ソウタ「まあな。でも悪いやつじゃないんだよ、アレで。慣れだよ、慣れ」


 レンヤはポケットからスマホを取り出すと、先ほど掃除中に交換したばかりの連絡先を開いた。


「……試しに送ってみるか」


 次の全体会議の候補日を打ち込み、ルカ宛に送信。


 数秒後──返信が来た。


『未来を縫いし糸の交差点、我が魂はその時空に舞い降りる』


 レンヤ「……来たぞ」


 スマホの画面をソウタに見せる。ソウタは吹き出すのを堪えながら、すました顔で言った。


「参加するってことだな、たぶん」


「たぶん、じゃ困るんだけどな……」


 もはや慣れてきたような諦め口調で、レンヤはもう一度メッセージを送る。


『参加するってことでいいんだな?』


 即座に通知が鳴る。


『いかにも。正義の暴走。法を盾にした監視者、秩序を謳う者が、人の心を締め付ける時、反転せし美化の者たちは声を失う。かの会議は、裁きの刻となるやもしれぬな』


 レンヤ「……はあ(ため息)」




 ──後日、放課後。


 静かなノックの音が、美化委員室に響いた。扉を開けると数人の美化委員が談笑をしながら机に向かって作業していた。


 その奥で、観葉植物に水やりをしていた女子生徒──美化委員長・成瀬(なるせ)カナが顔を上げた。


「成瀬いるか? 学園祭に向けた協力体制について、相談させてほしい」


 レンヤの呼びかけに、カナは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに柔らかく一礼した。


「……ああ、学園祭の飾り付けとかですよね? それなら、うちのメンバーもけっこう楽しみにしてるんです」


「良かった、助かる。.....それからな、日頃の掃除の方は、今どうなってる?」


 その一言で、空気が変わった。



 さっきまで和やかだった室内が、ふと静まり返る。誰かが手に持っていたマグカップを、そっと机に置く音だけが響いた。


 カナは視線を泳がせ、しばし言葉を探すように沈黙した。


 そして、カナが視線を泳がせながら、そっと口を開いた。


「最近……風紀委員が掃除チェックしてくるの、知ってます?」


「チェック?」


「いや、“チェック”って言葉じゃ足りないかも。ちょっとしたゴミの残りも写真撮って報告されて、日誌に書かれて、呼び出されて……」


 別の美化委員も次々に言い出した。


「ぶっちゃけ、うちで掃除しても『あそこが甘い』『このやり方は基準に達してない』って指摘されて……やる気、なくなるよね」


「でも、セイラさんは優しいんだよ。絶対に怒鳴ったりしないし、自分で代わりに掃除もしてくれてさ。暴走してるのは、一部の風紀委員だけだし」


「文句言うなら、自分でやれって感じなんすよ。気持ちが切れるっていうか、なんのためにやってんのか分からなくなる」


 レンヤは静かにうなずきながら、核心に近づくように問いかけた。


「誰が、チェックしてくるんだ?」


 カナは、美化委員のメンバーと言うか言わないかを目線で確認した後、口を開いた。


日向(ひゅうが)くん達...です」



「あいつら、俺も絡まれた事ある。細けぇよな!」

 納得したようにソウタが言う。 


「そのせいで、セイラちゃんの負担が増えてたら意味ないじゃん、ね!」

 ミクも言う。 


「……そうか。ありがとう、正直に話してくれて。俺が日向と話してみる」


 その言葉に、美化委員たちはほっとしたような、複雑なような表情を浮かべた。


 レンヤには、胸の奥に、重いものが沈んでいく感覚があった。

 ──風紀副委員長・日向カズマ。眩しいほど真っ直ぐなその姿は、嫌になるほど自分に似ていたのだ。あの頃の、自分に。

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