風紀委員史上最大の挑発行為
この中高一貫の名門学園には、伝統ある風紀委員会が存在する。
その存在感たるや、学園祭より派手で、体育祭よりも緊張感があり、たまに校長の発言より影響力がある。
風紀委員会の委員長、神津レンヤ
彼は完璧な七三分けの髪型と、奇跡のように白いシャツ、寸分狂いのないネクタイの結び目で知られている。
そして何より――威圧感が、常に。
「4年3組の竹内さん、スカート丈が0.7㎜足りません、風紀違反です!反省文、提出!」
「ええー」
「2年1組の中島くん!廊下は時速4㎞/h以下で歩く事。疾走は風紀違反です!反省文、提出!」
「はぁ…」
レンヤは冷徹に言い放ち、タブレットをカチッと鳴らす。即、風紀違反登録完了。
その日の朝も学園の至る所で、風紀検問が行われていた。
委員たちは、速度計を持ち、ルーペでネクタイの結び目を見つめ、メジャーでスカート丈を計り、靴下の色にも目を光らせていた。
そして現れたのが――桜井ミク。
明るく染めた髪、リボンは市販のスカーフ。スカートは膝上。
そして、満面の笑みで、こう言った。
「おはよー、早くからお疲れ様で~す」
レンヤの眉がピクリと動いた。
これは、風紀委員史上最大の挑発行為だ。
「桜井さん。いい加減にして下さい」
「良い加減じゃない?」
その瞬間、風紀委員3名がミクを囲んだ。
「風紀違反、現行犯で確保します」
「これが逮捕ってやつね~!」
ミクはまるでライブでも始めるように手を振りながら、風紀委員に連行されていった。
風紀委員室の隅に、異質な空気が漂っていた。
ミクは、まるでカフェにでも来たかのような態度で、くるくると椅子を回していた。
目の前では、レンヤが静かにお茶を淹れている。
「……反省文、書いて頂けますか」
「えー、さっき、心から反省しています!って言ったじゃん」
「反省文は原稿用紙1枚、手書き、泣きながらと決まっています」
「はぁ? 泣きながら?」
「校則第35条、違反者は、文字に涙を滲ませることで自己と向き合う」
「その条文、どこ情報よ!宗教かなんか?」
レンヤは返答せず、静かに玉ねぎを差し出した。
一方その頃――校舎裏。
荒川ソウタと自由連合の仲間たちが集まっていた。
「いよいよ明日だな」と仲間の1人が問う。
ソウタはニヤリと笑いながら言った。
「決着をつけるぞ」
「まさかさ、本気で風紀委員会、ぶっ壊す気?」
ソウタは静かに言った。
「壊すんじゃない、問うんだ」
その夜、風紀委員会では緊急会議が開かれていた。
「委員長、近ごろ挑発的な違反が増えています!」
「風紀委員を馬鹿にした動画が、拡散されています!」
レンヤは目を閉じて、深く息を吐いた。
「――秩序は、崩壊前がいちばん、静かだ」
その言葉に、委員たちは背筋を伸ばした。
学園に嵐が近づいている。
そしてその中心に、桜井ミクがいるのだ。
その頃、ミクは寮のベッドで爆睡していた。
反省文のかわりに、“玉ねぎを持ってレンヤの物真似をする動画”を編集中である。




