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危機回避

 夕方になり、ようやっと岡崎の母親が帰宅した。

岡崎は担任が家へ訪ねて来た事を母親に言い出せずにいた。


 「ただいま!夕飯買ってきたから食べよ?諒太(りょうた)は遊びに出かけたんでしょ?」

「うん。兄ちゃんは、さっき出かけて行った」

母親は携帯電話を確認していた。

「昼間、何回も電話鳴ってたんだよね。マジでしつこく鳴ってたの」

「学校の番号って登録してないの?」

「学校?なんで?」

母親の目が鋭くなった。

岡崎はうっかり口を滑らせてしまった。

「竜也!あんた何かやらかした?」

「ズル休み・・・」

岡崎はうつむいた。

「なんだ。そんなことか」

母親はほっとしたように言いながらコートを脱ぎ、ダイニングテーブルの席に着いた。

「弁当、温かいうちに食べよう」

「家に担任が来た」

岡崎は、うつむいたまま、小さな声で母親に報告をした。

「え?……で?」

母親は、担任と、どのようなやり取りがあったかを話すよう促した。

「『お母さんは?』って聞かれて、居ないって言っちゃって、それで、『いつから帰って来てないの?』って聞かれて・・・」

「えぇっ?正直に話したの?お前って馬鹿なの?そういう時は上手くごまかせよっ!」

母親は苛立ちを隠せないでいた。

「また児相来る感じ?」

「わからない」

母親は(まいったなぁ)といった感じで溜息を吐いた。

岡崎は自分が“へま″をしたせいで母親に迷惑をかけてしまったと思い、悲しくなった。

「先生、明日来るとか言ってた?」

「いや、家に来るとは言ってなかったけど、『学校だけの問題で終わらない』って言ってた」

「はぁ。やっぱ児相来るじゃん・・・まあ、とりあえずご飯食べな」

母親と二人、重い空気のまま夕飯の弁当を食べた。



 ーーー次の朝、岡崎は、早起きをして学校へ行くための身支度を始めた。

今日から遅刻をせずに、真面目に登校すれば何とかなるかもしれないと考えたからだ。

朝食の菓子パンを食べ終えた頃、母親が起きて来て「竜也、先生にさ『実は、お母さんは朝早くに出かけていて、自分が起きた時には居なかったので、仕事から帰って来てないと勘違いしてました』って言っておいて!」と息子に入れ知恵をした。

「わかった。そういうふうに言っとく!」

 支度を終えて、岡崎が玄関へ向かうと「上手く言ってよ!行ってらっしゃい!」と母親は見送った。 「うん。行ってきます」


 登校すると岡崎は一番乗りだったようで、教室には誰も居なかった。

ランドセルから教科書やノートなどを出して、机にしまっていると、クラスメイト達が続々登校して来た。

クラスメイト達はいつもは居るはずのない時間に岡崎がいたので、皆、オバケでも見てしまったかのようなリアクションを取っていた。

 ほどなくして、広本が登校して来た。

広本も皆と同じリアクションで、驚きを隠せない様子だったが、すぐに岡崎の元へ駆け寄った。

「おはよう!今日は早く来たんだね。昨日休んでたけど、どうしたの?具合悪かったの?」

「色々あって……」

「色々?」

朝の会までに時間があったので、昨日ズル休みをした事と先生が家に訪ねて来た事を話した。

「まずい事になったんだ。俺のズル休みがバレたり、母親が家に帰って来なかった事とかがバレちゃってさ」

「お、お母さん、帰って来てないのっ!?ご飯とかは?」

「結構そういう事あるし、ご飯は冷食かパンがあるから大丈夫」

広本は岡崎の家庭環境に驚いていた。

たとえ兄弟が居たとしても、大人が不在で子供達だけで夜を越すのは心細いだろうと想像した。

食事に関しても、母親がちゃんと料理を作ってくれていないのだなと、岡崎を可哀想に思った。

 「前の学校でもそうだったんだ。俺も寝坊が多かった事と、母さんが参観日とか面談とかに来なくてさ、先生が母さんに電話しても出ないから、児童相談所の人と先生が家に来たんだ。それで、母さんが凄いキレて、引っ越す事になったんだぁ」

岡崎は転校して来た経緯を広本に話して聞かせた。

「じゃあ、今度も転校になっちゃうの?」

不安な表情で尋ねた。

「俺次第かも」

と言った所で朝の会が始まった。

担任が出席を取り始め、岡崎の名前を呼ぶと「はいっ!」と返事が返って来たので驚いて岡崎を見たが、気を取り直し、次の生徒の名前を呼んだ。


――― 岡崎は担任から放課後に話があるので、残るように告げられていた。


クラスメイトが帰った後の教室で、担任と学年主任の先生と岡崎の三人で話をする事になった。

岡崎は朝、母親から言われた通り、母親が家に帰っていなかったのは自分の勘違いだったと話した。

しかし、ズル休みの件は認めた。

担任には、これから真面目に登校すると誓い、母親も父親が居ない分、忙しく、学校の行事に参加出来ないでいるのだと先生達に理解を求めた。

この後、先生達の間でも話合いが行われたが、正直、大事にするのも面倒だという事もあり、様子を見るに至ったのであった。

担任は、母親に息子の面倒をちゃんと見る事と、学校からの連絡に対応できるようにする事、などの内容を書面にて厳重注意をしたのであった。


帰宅した岡崎は、母親に担任からの手紙を渡した。

母親は担任からの手紙に目を通すと「今回は児相は来ない感じだね」と安堵した様子で手紙をゴミ箱へ捨てた。

 岡崎は自分の実力で危機が回避できたのだと、誇らしい気分になっていた。

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