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母の葛藤

 後日、広本は両親とのやり取りを岡崎に報告した。

岡崎は、がっかりした様子だったが、怒りの感情は感じられなかった。

「じゃあさ、今度は俺の家に来いよ?」

「え?良いの?お母さんに行って良いか聞いて見る!」

「今日じゃないぞ?」

「あ、うん。うん」

広本は、友達の家へ招待されるのは初めてだったので舞い上がってしまった。


 帰宅すると開口一番に「お母さん!岡崎を家に連れて来ちゃダメなら俺が岡崎の家に行っても良い?」

『素晴らしいアイデアだろ?』とでもいったように目を輝かせて広本は言った。

ところが、母親からは広本の予想と反する答えが返ってきた。

「歩夢、そういう簡単な問題じゃないんだよ?岡崎君のお母さんは知らない事かもしれないでしょ?まずは、お母さんが岡崎君のお母さんと話をしてから、それから考えさせて?」

 広本は号泣した。

「お母さんて、なんでそんなに意地悪なの!お母さんなんて嫌いだっ!!」

泣きながら広本は、また自室に籠ってしまった。

「子供に意地悪する親がいるわけないでしょ!ダメだとは一言も言ってないよ!岡崎君のお母さんと話をしてからって言ったでしょ?」

母親は自室に閉じこもった息子へ、なだめるように呼び掛けた。

「わかったよ」

広本は納得はできていなかったが、理解しようと努力した。


 母親は父親へ相談をした。

「歩夢には困ったよ。急にあんな反抗的な態度をとるようになっちゃって、反抗期なのかな?それとも岡崎君の影響かな?お母さんなんて嫌いって言われたんだよ?ひどくない?」

「うーん。小五で反抗期は早いかもね。今までは自己主張する機会が無かっただけじゃないかな?友達が出来た事で自分一人じゃなくて、友達の主張も加わってきたから、歩夢はできるだけ友達の主張を通してあげたくて、それを邪魔する親を“敵″として戦ってる感覚じゃないかな?」

「親を敵って・・・」

「ははは。敵は言い過ぎとして、心の成長として見守ろうよ?」

「う~ん。来週、参観日があるから岡崎君のお母さんと話してみるね」



ーーー参観日の日

 広本の母親は、保護者の中に岡崎の母親の姿を探したが、見慣れた顔ぶればかりで岡崎の母親らしき人は見当たらなかった。

授業が終わると、仲の良いママ友が話しかけてきた。

「久しぶり!広本さん、一番下の子もう離乳食始まった頃じゃない?夜泣きとかしない?」

「うん。離乳食少しずつ初めてる。夜泣きはするけど、わりとすぐ寝る感じ。寝る時間も長くなって来て少し楽になったかなぁ。」

などと、たわいのない会話をした後、広本の母親はママ友に尋ねてみた。

「ねえ、転校生の岡崎君のお母さんて、今日来てないよね?」

「来てないんじゃないかな?噂に聞いたんだけど、その子、母子家庭なんだって。母親は夜の仕事してるらしいよ」

「夜の仕事?コンビニとか?」

「いや、ホステスだよ。噂では、あまり子供とコミュニケーションが取れてないみたいなんだよね。だから遅刻が多いのかもね?」

「え?あの子、遅刻癖があるの?歩夢は学校の事、何も話してくれなくて・・・」

「朝、起こしてくれる人がいないんじゃないかな?登校時間には、母親は寝てるだろうし。彼のお兄ちゃん達は札付きのヤンキーだって噂だし、あまり良い家庭環境で育ってるとは言えないよね」

「えぇ⁉どうしよう?それがさ、歩夢が岡崎君と仲が良いみたいで・・・」

「うちの子から聞いてるよ。娘が言うには広本君にクラスの皆で岡崎君と付き合うのやめさせようとしたんだけど、聞き入れてくれなかったって」

「そんな事があったんだね。クラスの皆で、心配してくれてたんだね。シングルマザーだって、ホステスさんだって真面目に子育て頑張ってる人はたくさんいるけど、岡崎君のお母さんはそうじゃなさそうなんだね」

「まあ、噂だから・・・ごめん!この後用事があって、また今度ゆっくりね!」

ママ友はそう言うと自分の子供を連れて帰って行った。


 広本の母親は益々、息子から岡崎を遠ざけたいという思いに駆られた。

帰り支度をしている息子の傍らには岡崎がいて、楽しそうに会話をしていた。

「歩夢!帰るよ!」

息子に声を掛けると、岡崎は「じゃあ」と手を振って息子から離れて行った。

息子と妹二人を連れ、帰宅の途に就く。

道すがら、母親は息子に言いたい事は沢山あったが、“お母さんなんて嫌いだ″というあの言葉が頭の中でリフレインして何も言えなくなってしまった。

 結局息子に岡崎との交際をやめるようには言えず、様子を見る事にとどまった。


 ある日「お母さん、岡崎のお母さんと話した?俺が家に遊びに行って良いかって?」

広本が母親に尋ねた。

「ごめん。全然、岡崎君のお母さんと会えなて・・・」

「じゃあ、電話で聞いて見て?」

「電話番号知らないし」

「岡崎に教えてもらう?」

「いや、もう少し待ってて」

「もう少しっていつ?」

段々と広本は苛立ちを覚えていた。

「もう少しは、もう少しっ!」

母親も声を荒げてしまった。

「もういいっ!」

広本は怒りをあらわに自室のドアを乱暴に閉めて部屋へ籠った。

母親は(最近こんな事の繰り返しだなぁ)とため息を吐いた。

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