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疑惑の転校生

 ある日、広本が登校すると、ひそひそとクラスメイト達が噂話をしていた。

広本が教室に入ると慌てた様子で皆、口をつぐんだ。

自分に聞かれると都合の悪い話なのだと広本は悟ったが、自分が登場したことで、気まずい空気になってしまった事に申し訳ない気持ちになってしまった。

 席につき、ランドセルから教科書などを取り出していると、先ほど噂話をしていたクラスメイト達は目配せを始めた。

広本は、その光景には慣れていた。またいじめが始まったんだなと。

しかし、以前とは感じが違う。

意を決したように学級代表の女の子が「広本君、岡崎君と仲良くするのやめた方がいいよ」と忠告してきた。

この間まで広本をいじめていた男子が「俺の兄ちゃんのクラスに岡崎の兄ちゃんがいるんだけど、かなりの(わる)らしいよ。他校の生徒と喧嘩したり、万引きで捕まったり、やばい人達とつながってるって噂だよ」

 彼の兄は西中学校の二年生で、岡崎の二番目の兄と同級生だった。

「え?やばい人達?」

広本は戸惑いながら返した。

「うん。岡崎も兄ちゃんにくっついて悪い事してるって噂だから、友達やめたほうがいいよ」と彼もまた忠告したのだった。

 しかし、広本はつい最近まで自分の事をいじめていたくせに、よく人の事が言えたものだと、反発心しか抱けなかった。

自分をいじめから救ってくれて、初めて自分の存在価値を認めてくれた岡崎の存在は、ヒーローのように思えていたからだ。

「兄弟でも性格って違うから!」

広本は悶々として、精一杯の言葉で反発した。

「一応は言ったからな!自分で決めたことだからな!ひどい目にあっても知らないからな!」

いじめっ子のリーダーだった男子は、憤慨ふんがいして言った。

忠告を聞き入れない広本に、クラスメイト達は諦めの表情で散り散りに自分の席へとついた。


 朝の会の始まりを告げるチャイムが鳴る。

岡崎は登校してこなかった。

 担任の先生が教室に入って来た。

「起立!礼!着席!」

「出席を取ります!」

担任が出席を取り始めると、ガラガラと教室の戸が開き「すみません!お腹が痛くてトイレに行ってたら遅刻しました」と謝りながら岡崎が入って来た。

「それは大変でしたね。お腹は治ったのですか?」

担任が問うと、「出すもの出したら治りました!」

大きな声で岡崎が答えた。それを聞いてクラスメイト達は笑った。

先生も「それは良かった。では席に着いて」と笑いながら言った。


 休み時間に、広本は岡崎を心配して「お腹大丈夫?」と、尋ねた。

すると岡崎は「お腹?」と、何の事かと首を傾げた。

「お腹が痛くて遅刻したんじゃなかったの?」

「あぁ、あれね、嘘。寝坊しちゃったんだよね」

岡崎は悪びれる事無く答えた。

広本は驚いた「えぇ⁉嘘だったの?先生に嘘ついて良いの?」

「いや、正直に言ったら怒られるじゃん。別に嘘か本当か調べられるわけじゃないし。良いじゃん別に」

岡崎は、それ以上言うなといった感じで面倒くさい顔をした。

広本も、これ以上何か言うと岡崎の機嫌を損ねると思い、問い詰めるのをやめた。


 その日の放課後

「帰りに広本の家に遊びに寄っても良い?」

「え?学校の帰りに?一回、家に帰らなくて良いの?」

「なんで?面倒くさいじゃん」

「お母さん心配しない?」

「心配しないと思う」

「でも、学校の決まりで寄り道はダメって」

と広本が困った顔をすると、岡崎は「もういい。面倒くさいな」と、ふてくされた。

「いや、あの、岡崎君が怒られないなら良いよ」

広本は、岡崎に嫌われまいと焦って言った。

岡崎は、“わかれば良いんんだよ″といった感じでうなずいた。


 岡崎を連れて広本が帰宅すると、母親が赤ちゃんを抱いて「お帰りなさい」と出迎えた。

母親は、息子が初めて友達を連れて来た事に嬉しい気持ちになったが、ランドセルを背負っている岡崎に驚いて「あなた、一度お家に帰ってお母さんに、うちに来ることを伝えて来た方が良いんじゃない?学校から子供が帰ってこないって、お母さん心配するでしょ」と、広本の母親が言うと(こいつも面倒くさい事を言うなぁ)と、岡崎は露骨にふくっれ面をした。

その様子を見て広本はまずいと思い「大丈夫だから!入って、入って!」

母親を押しのけるように岡崎の手を引っ張り、自分の部屋へ案内した。

広本の母親は、息子の態度に怒りを感じたが、友達の前で子供を叱るのをためらい、友達が帰った後に叱る事にした。

そして、岡崎の母親が心配しているかもしれないと思い、学校へ電話をした。

岡崎の母親へ直接連絡を入れたかったが連絡先を知らなかったからだ。

担任の先生は「連絡有難うございました。ご迷惑をかけまして申し訳ございません。岡崎君のお母様に連絡を取りますね。岡崎君にも寄り道しないよう、きつく注意しますので」との対応だった。


 自室へ岡崎を招き入れた広本は「Wiiやる?」と言いながらゲームソフトを並べた。

「どれにする?」

「マリオカートで良いよ」

二人はゲームに夢中になり、広本と部屋を共有している幼稚園児の弟も交じり、楽しい時間を過ごしていた。

 気が付けば夕飯時になっていた。

 広本の母親が部屋に入り「もう遅い時間だから帰りなさい。お母さんも心配して待ってるよ」と岡崎に帰るように促した。

岡崎は面白くなさそうな顔をして「はーい」と言って立ち上がった。

部屋から居間へ出ると、夕食のおかずの匂いが漂っていた。

岡崎は「え?ハンバーグじゃん!俺、ハンバーグ大好きなんだよね。あー、お腹減った」

あわよくばご馳走になろうといった感じで言った。

広本の母親は「今度、お家で作ってもらってね。きっと、岡崎君のお母さんも、ご飯用意して待ってるよ」と、やんわり帰る事を促した。

岡崎はまたふて腐れた顔をして、ようやっと玄関へ向かった。

その時、広本の父親が仕事から帰宅し、目の前の見慣れない子供に驚いて母親の方を見た。

広本の母親は「歩夢の友達」

一言発して困った表情を浮かべていた。

「歩夢が友達を連れて来るなんて珍しいね」

父親は少し嬉しそうな表情をした。

「また今度遊びにおいで!気を付けて帰るんだよ」

広本の父親が声をかけると、岡崎は『また今度遊びにおいで』という言葉に気を良くして「はい!また来ます!お邪魔しました」と言って帰っていった。


 やっと岡崎が帰り、母親は息子を叱った。

「歩夢!さっきの態度何?学校の規則で寄り道は禁止って知ってるよね?歩夢が誘ったの?」

広本は首を横に振った。

「じゃあ、あの子が勝手に来たんだね?」

「勝手にじゃない」

「歩夢が誘ってないなら勝手に来たって事じゃないの?」

「違うよ」

母親に責められて広本はどう説明して良いかわからずにパニックになり、泣き出した。

広本が怒られて泣いている姿を心配そうに兄弟達が見つめている。

父親も見かねて「もう、いいんじゃないかな?」と、母親に叱る事をやめさせた。


 

 子供達が、寝静まった後に母親は父親に息子を叱った経緯を話した。

「歩夢に友達ができて嬉しかったけど……友達は家に帰らないで学校から真っ直ぐうちに寄ったみたいでさ、それで私が注意したの。そしたら、歩夢が友達の前だから強気になってたのか、私の事を押しのけて勝手に家に入れたんだよ。腹が立ったけど、友達の前で叱るのも可哀そうかと思って、その時は我慢してたの」

「そうか。そんな感じだったんだね。でも友達の前で強気になるのは何となくわかるなぁ。ははは」と父親は笑った。

「いや、笑い事じゃないし。連れて来た友達は、確か夏休み明けに転校してきた子だと思うんだけど、大人を舐めてる感じで凄く生意気なの。しかも、お腹が空いたから夕食も食べてさせてほしいみたいなこと言ってくるんだよ!図々しくない?その子の母親も学校から連絡いってるはずなんだからこっちに連絡くれるとか、迎えに来るとか普通はするよね?親も常識ないよね」

「なるほどね。そういう子だったんだね。まあ、歩夢にはその子に親に報告してから遊びに来させるように言わないとね。その友達、家庭環境があまり良くないんじゃないかな?実は可哀そうな子かもよ?」

「家庭環境が悪いなら尚更、家に上げたくないよ」

「でもなぁ、やっとできた友達なのに・・・・・・う~ん」と、父親は腕組みをして唸った。

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