ドッグトレーニング
電話から戻った友人が、興奮した顔で僕に云う、
「警部からだ、隣町の公園で、奇妙な殺人事件が起きたらしい」
公園の入口は既に封鎖されていた。見張りの巡査は、学生の僕らを胡散臭い目で睨んだ。
「あ、S君!」奥から声を掛けたのは、馴染みのM警部である。「助かります! さあさあ」Mは自らロープを持ち上げると、驚く巡査を無視して、僕ら二人を現場に招き入れた。
「厄介らしいね?」Sが探りを入れる。
「普通じゃ無いんです」苦り切って云うMを見て、Sは笑った。
ベンチに座る男は、一見、寝ているようにも見えた。本を腿に置き、ガックリと頭を垂れている。近付いても外傷は無かったし、しかし血の通わない白い肌は、直ぐに見る者を不安な気持ちにさせた。
「後ろからキリのような凶器で、首をひと突きです」背後に回ったMが云う。Sはそれを聞くと、背後の芝を丹念に調べた。そこには既に、鑑識の置いた札が在ったが、Sは更に進んで、遺体から5メートルも離れた場所を嗅ぎ回る。
「ふん、(第二の血痕)か・・・」拡大鏡をポッケに仕舞うと、「警部、公園内の人間は全員、足止めしてますね?」
「当然です!」
「宜しい、なら次は目撃者だ!」
近くのベンチに居たと云う青年の証言は、頼り無いものだった。
「本を読んでたようです、ええ、ずっと1人でした」
「犬を覚えていますか?」唐突にSが訊いた。
「えっ? ああ、そう云えば近くで棒切れを投げて、犬のトレーニングをしてる子供が・・・」
「その犬は主人が投げた棒を、おかしなくわえ方をしてましたよね?」
「ええ、確かに! まるで(葉巻)をくわえてるみたいでした」
「警部、犬の飼い主を拘束して下さい。それと気を付けて、奴は未だ凶器を持ってます!」
「あ~君々、ちょっといいかな?」振り返った少年の右腕が、サッと動いた。
「危ないっ!」咄嗟にSは、Mに体当たりを喰らわした。
「イタタタタ・・・」倒れたMの背後の木に、少年の投げた棒が突き刺さった。引き抜こうと飛び付いた犬が、体ごと棒にぶら下がっている・・・
「見事に実演してくれたね。害者を殺めた凶器はバネで跳ね返り、次いで犬の口で君の手へと戻った訳だ。棒の半分は布で覆ったハリボテ、よって犬は端の木を噛んでいたんだ、ヒントは飛び出しナイフと云った所か? だけど君、覚悟しなよ、塀の中から戻るのは、ゲームのように簡単じゃないぜ!」