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AI  作者: 烏有=C・Brownie
3/3

A''

突然の闖入者は、取立人の男が立ってさえいられなくなったのを確認してから、彼を殴る手を休めて妾達に現金の入ったケースを渡し、深々と頭を下げた


「善良な取引先様に、大変な御迷惑をおかけしてしまいました」


「こちらは治療費に足りるかは解りませんが、私共からのお詫びの気持ちでございます」



今ようやく明らかになった事だが、実の所この小屋を経由せず資金の移動は既に行われており、妾の主には本来ならば一切の咎が無かった


この一件は「重大な手違い」として処理され、現在取立人に対しての制裁が簡易的に行われていた


ほとんど名前を借りるだけのような形ばかりの取引でこそあったものの、妾達の調達した予算は取立人達の上位組織からの提供だった


制裁に現れた男も現場だけでこの「問題」を終わらせる事を望んでいるように視えた



(何か仕組んでおったのか)

妾は投影体を近付けて主に耳打ちしたが、傷が酷いためか力無く微笑むだけだった


彼は震える手でしばらくの間、端末を操作していた

程なくして、妾の意識の中にメッセージが届く

『8割くらい今日になってから思い付いたし、運も関係しているよ』



大した男だ


だからこそ次は無茶をさせまいと妾は思った

少なくとも、作戦を事前に共有する癖を持たせなければ


「それでは、これで失礼させていただきます」

我々に一礼すると、制裁人が取立人の首を掴む

そのまま引き摺って連れ帰るのだろう


主がそれに声をかけた

「……ちょっと待って貰えますか?」


妾を含め、その場に居た者達の視線が集まる

「もしこの人が要らないなら、捨てると思ってうちで雇わせて下さい…」



「そのような事は…」

制裁人の男は動揺しながら聞き返す


「よろしいのでしょうか?」


主は尻餅を付いたような姿勢で壁に寄りかかっていたが、にっこりと微笑むと答えた

「恐らく貴方達から追放されるなら、この人には行ける場所はありません…」


「そういう『裏切らない仲間』が…もう一人欲しいタイミングだったんです」


「必要であるならば、『問題が起きた場合でも貴方達のせいにしません』と誓約を書く事も出来ますよ…?」




かくして、2人の重傷を負った人間と躰すらない妾は、小屋で吹雪が止むのを待っていた


「なあ」

取立人だった男が口を開く


「俺が裏切るとかは思わねえのか?」

彼の新たな主は、動じない


「もしそうなら」


「僕もそれまでの人間という事さ」


確かに、こやつらの間には「暴力」という人間関係上のノイズが挟まってしまった

長期的に見れば、いずれはお互いに相手を躊躇いなく見捨てる事が出来る時が訪れるだろう


「───妾がそうはさせぬ」

妾は2人の会話に自らの意見を付け加えた


「妾が、裏切らぬよう眼を光らせるでな」


少なくとも、今まで生きてきた100年の中でこのような夜は初めてだ

───あるいはこの先にも、もしかしたら視た事の無い未来があるのだろうか?


いずれにしても情報が足らず、断定には至らなかった


考えてみれば、「これから起こるすべての事」が本来そうなのだ


これからは「こうなるかも知れない」よりは「自分はこうしたい」、「そのためにはどうすれば可能性があるか」、こうした事にそれまでの知見を用いるべきかも知れない


多くの思考が整理され、またさざなみを起こし…それらが繰り返される


今夜も妾は眠れないかも知れない


だが、それは人間の言葉で言うなら「建設的な」不眠である可能性が高かった

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