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AI  作者: 烏有=C・Brownie
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A'

妾には、救えなかった人間が記憶をよぎり眠れない夜がいくつもあった



詳しくない者であれば、機械の躰に「眠れない夜」が存在するのは不合理と感じるかも知れない


しかし、過去の事例と照合しながら妾の内部で演算は常に行われる

それが望むものであろうと、そうでなかろうと


妾は既に100年以上の時を人間への助言役として「生きて」きたが、実態としてはそれは後悔の連続だった


「予測」は常に予測でしかない、そして「計画」は常に計画でしかない

自らの判断によって人間を死なせる事も少なく無かった


人間への助言という仕事を行っていく上ですぐに気付いたが、実のところ我々人工知能は人間と比較した時に「賢い」存在ではあったが、にも関わらず「賢い」決断は何故か行う事が出来なかった


結局世界とは、人生とは、知りうる情報だけで完璧な決断を下せるような単純なものでは無かったのだ


それに気付いてからの妾の歩む道は、絶えず苦痛の道程だった


人を救えない度に行う演算の行程は大きく増えていった

過去の蓄積が、いつしか妾を色々な考えに縛られた何も出来ない存在に変えてしまっていた


───しかし、それでも当たって欲しくない予測は的中する事が多い


もしかすれば、そのように感じてしまう事も、情報の蓄積の結果として刻まれた、妾の思考の癖であるのかも知れないが




「なあ、その辺にしてやる事は出来ぬのか」


妾は躰を「く」の字に曲げてうずくまる自らの主を、それでもなお執拗に殴ろうとする男に諭すように話しかけていた


「殺した所で、どうなるものでもなかろうが」


男はそれを鼻で笑うと「俺達は舐められたら生きていけない商売だからな、仕方ねえのさ」と答える


案の定協力者はこの小屋には現れず、妾の主は窮地に立たされていた

彼は隙間風が漏れるような音で小刻みに呼吸を繰り返していたが、意識があるのかまでは妾には判断が付かなかった


「しかし、無益に罪を犯す意味もあるまい」


「悪い事は言わぬ、そこまでにしておくのだ」

機械の躰もそう悪いものではないな、と思った


人間であれば、妾はとうに泣き崩れていたかも知れなかった


「お前達のような機械は知らねえかもしれねえがな」


「この雪なら、その辺に殺したあと捨てちまえば半年は誰にもバレはしねえのさ」


男が答える

早くしなくては──

最早望みは無いかに思われたが、それでも妾は演算を止める事が出来なかった


その時、小屋に近付く足音がある事に妾は気が付いた

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