~伝手を使いましょう~
~伝手を使いましょう~
王都内で実務をしている人には平民出身と貴族の3男以下が多いと言う。その中で平民出身はどこかに所属するという考えを持っていないし、どの貴族も囲い込みをしようとしていないという。
なので、この層に声をかけようと決めた。
「平民でも出世できることがわかるとモチベーションはあがりますからね」
平民出身のムネリがそう言った。まあ、実績を積めば肩書を変えることは可能だ。
「知り合いでもいるのかしら?」
「まあ、知り合いと言うか同じ師に教わったものがいることはいます。優秀ではありますが、考え方というか価値観が私とは合いません」
なんだろう。ムネリの価値観って太ももだよね。なんかむっちり太ももがいいといつも言っている。まさかすらっとした太ももがいいと言うのだろうか?
まあ、ミューズはすらっとした残念系美人だから相性がいいのだろうか?
「では、その人を紹介してもらえませんか?」
まずは身近で伝手がある人から徐々に広めて行こうと決めたのだ。貴族派閥の切り崩しも考えていたが、こちらはもう少し待つ方が良いと言われた。
派閥を移動することは簡単なことではないということなので、まずは出来ることから始めようということになった。
ムネリはいやいやだったが、同じ師に教わったという平民出身の文官を紹介してもらうことになった。
ムネリが連れてきた男性は、見た目は青髪を一つ括りにして肩に乗せているなんというかちょっと色っぽいというか、中性的な人だった。
目は切れ長で流し目。ちょっと体の動きがくねくねしている。
「どうも、はじめまして。僕の名はレイリーと、いう。どうも、よ。ろ、し、く」
そう言ってウインクをしてきて髪をかき上げてきた。なんだろう。この残念イケメンは?そして、見ている場所が胸を見てがっかりしている。
これから発達するんだよ。なんでそんな残念そうな顔をしているのかな?そして、次にさっちゃんを見ている。
さっちゃんは全体的にむにゅっとした体形だ。ええ、私と違って胸も大きいですよ。もう結構発達してくれています。ああ、この人は胸フェチなのね。ムネリがいう価値観の違いというのがわかった。
ミューズはすらっとしたスレンダーボディだ。まあ、私よりは出るところは出ていますけれどね。
「それで、エリザベート殿下はどういう治政を考えているのか教えてくれない、か?」
なんだろう。話しながらその長い髪をかきわけるのはかっこいいと思っているのだろうか?ってか治政って何?そんなの考えているわけないじゃない。
いや、違う。これから冷害や飢饉が起きる。それを避けないといけないのだ。
「話すのはいいけれど、レイリーはどういう仕事をしているのかしら?関係ない話しをしてもしょうがないでしょう?」
「大丈夫さ。僕はね天才な、の、さ」
また、この髪をかきわけるしぐさだ。面倒だ。ムネリを見る。
「このレイリーって天才なの?私はまだ彼のことを知らないのだけれど」
私がムネリに向かってそう言うとムネリはこう言って来た。
「そうですね。レイリーは机上の天才です。というか一定の条件下なら天才と言えるかと思います」
なんだろう。ムネリの言い方に棘があった。まあいいわ。
「そうね。私が目指すのは民がどのような事態になっても飢えない事かしら」
「飢えないことと言ってもそのために何をするというか、な?」
変なために髪をかき上げるしぐさ。うん、どんどん不快になってきた。さっちゃんは胸を隠すように書類を抱きかかえている。視線って結構きがつくものなんだよ。
レイリーは黙っていて、動いていなければかっこよく見える。うん、超絶残念なんだ。
「まず、食糧の備蓄を増やします。けれど、これは限界があります。それと、これから近い将来に冷害が起きます。これはさっちゃん、いえ、サリナ嬢がイレスティア王国の過去の気象データからはじき出しているわ。そのため、冷害につよい小麦も同時に育てるように依頼をしていきます。すでにカージェス領では大規模農園を展開していますし、ベルティック領でも小麦の生産をお願いしています。また、ミルザ王国にも有事において食糧の購入を打診しています。購入金額についても事前に決めています。さて、この状況下ですが、レイリーさんは何ができますか?」
私がそう聞くとレイリーは少し考えてからこう言い出した。
「その冷害に強い小麦というのは小ぶりでかつ味が落ちるものですよ、ね?」
なんだか言葉の言い方に引っかかる。
「ええ、小ぶりです。味は確かに落ちますがパンにしてバターを多めに使えばそこまで気にならない程度だと思いますわ」
「ならばその情報を広めることが大事だ、ね。広め方は考えているのか、な?」
また髪をかき上げている。この髪を切ればいいのかな?
「味については試行錯誤するのが普通なのでは?それに味覚は人それぞれですし。それに飢饉になった場合、まずは飢えをしのぐために大事なのは味ではなく量だと思いますが」
なんだかレイリーの主張はずれているように感じた。
「冷害前にそのまずい小麦を作ろうとする領主は少ないで、しょう」
ああ、なるほど。これが言いたかったのか。確かに冷害対策として北の国、特にイース帝国で作られている小麦を作る領主は少ないだろう。だが、起きてもいない冷害への対策のため貴重な土地でまずい小麦を作る人は少ない。困ったことだ。
「カージェス領では野原を焼き新たに畑を作り、そこで冷害用の小麦を育てていますね」
ムネリがそう言ってくれた。そうか。新たに土地を開拓すればいいのか。
「土地の開拓なんか簡単にできないの、だよ」
確かにカージェス領で行った焼畑農業は私が持つ膨大な魔力量があるからこそ可能としている。
「では、どうすればいいのですか?考えがあるからレイリーはそう言われているんですよね?」
私がそう言うとレイリーはこう言って来た。
「試食させればいいのだ、よ。夜会があるのだ、ろう?」
なるほどとはならない。これからカージェス領に依頼をして小麦を持ってきたとしても間に合わない。それに、夜会に出す料理は私が決めることはできない。国王でもある父が決めているからだ。
「夜会で提供できるような仕事をレイリーはしているのかしら?」
「していないが?」
普通に会話できるじゃんかよ!ってか、していないのかよ!
「なら、レイリーは何をしているのかしら?」
「各地から納税された額の確認、さ。特に冷害、虫、洪水などの被害があるのか、ないのかなど各地の災害状況の確認をしている、さ」
ってか、それならすでに収穫量が落ちている所がわかっているはず。
「ねえ、すでに収穫量が落ちている所があるのではないの?」
「そういう情報は教えてあげらないのだ、よ」
なんだかすごく腹が立ってきた。
「そういう収穫量が落ちてきた所に指導とか情報提供とかはできないの?」
「僕の仕事じゃないから、ね」
なにそれ?仕事じゃなかったら何もしないっていうの?
「あなたは仕事にプライドはないのかしら?このイレスティア王国がどうなってもいいというの?」
「それは貴族がどうにかする問題、さ」
確かにそうでもある。でも、気が付いているのに何もしていないの?
「あなたは何もしないの?天才なんでしょう?どうにかしようと思わないの?」
「思う、さ。だが、平民出身では提案すらままならいのを知らないとは言わせない、ぜ」
そういうことか。諦めているということなのね。
「なら諦めずに頑張りなさい。もがきなさい。それができないというのなら辞めて出来る所に仕事を変えなさい。能力を無駄にする必要はないのですから」
「それができれば苦労しないのだ、よ」
わからない。どうしてこのレイリーというのはここまで気力を失っているのだろうか?
「上司に相談しないの?」
「無理だ、ね。それはすでに行ったのだ、よ」
なるほど。それで失敗したのか。
「ならば、私に情報を流しなさい。このイレスティア王国を助けるから。私が導きます。私に協力する人を集めなさい」
これなら協力するでしょう。
「無理でしょうね。レイリーはバカじゃない。だからわかっているのです。頑張る無駄を。そして情報を横流しをしてばれた時に罰せられる罪の重さを。だから彼は今のままなら動けません」
ムネリがそう言って来た。
「そうだ、な。僕は今の状況なら動けない、ね。けれど、これだけは言っておく。平民種新社には不満を持っているものは多いの、さ。そして、何かきっかけがあれば動くものは多いのも事実、だ。そういう不満を持ったものを紹介するくらいならやってあげなくも、ない」
なんか腹が立つ。でも、これはいいキッカケなのかもしれない。
「ならば不満を持つものを集めて欲しいの。その不満を聞きながら解決できる方法を考えるわ。ところでレイリーの不満は何なのかしら?」
「僕の能力を正当に判断するものがいないのが不満だ、ね」
「今の私は正当に判断するもなにもあなたは実績がないわ。そうね、ちゃんと私に役立つもので、私に協力してくれそうな人を紹介できたのなら評価してあげるわ」
私はそう言った。言ってしまった。
「いいでしょう。その言葉忘れないでください、ね」
レイリーという人物をこの時は過小評価していたのだった。




