~詳細を教えてもらいましょう~
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「そこまでわかっているのなら、アルダーブ公爵がどういう状況なのかわかるんじゃないの?わかっていないなんてことないよね?そういうふり?アルダーブ公爵がナジーブラを誘拐したと思われるから色々頑張っているだけでしょ。まあ、その侍女が見つかるといいけれどね。奪ったものと一緒に。でも、その侍女が居る場所なんてもう予想ついているんでしょ?さっき言っていたし。そこにでも行ってみたら?それともさぼっているだけ?」
ブルーノが煽るようにそう言った。向かって言っているのはイスファではなくヌーフに向かってだ。
「くっ。わかりました。イレスティア王女殿下。もうしわけないのですが、私とイスファン王子殿下はしばらく席を外します。この男の監視をお願いいたします」
ヌーフはそう言ってブルーノを残しイスファと去って行った。
「お茶が飲みたいね。用意してくれる?」
ブルーノは何もなかったかのように椅子に座り侍女にお茶を求めた。
「今回のこと教えてくれるんだよね?ブルーノ」
「え?まだわかっていないの?まあ、いいよ。しばらく僕はここで監視されるみたいだしね。ゆっくりお菓子でも食べながらお茶を飲もうよ」
お菓子?それはいいね。いや、ずっと私を抱きかかえているミューズさん、お菓子で反応した私を見て優しい目をしながら頭をなでなでしないでくれます?まあ、ミューズの片手は私をがっちり捕まえていますけれど。
というわけで急きょお茶会となりました。
私はなぜかミューズの膝の上。目の前にはブルーノが座り、左右にムネリとさっちゃんが座っている。誰もブルーノを信用していない。というか、ブルーノってなんか胡散臭いんだよね。ずっと本心じゃなく演技をしているし。
お茶葉ローズヒップだ。落ち着く。お菓子はマドレーヌ。バターがすごくきいていておいしい。
「それで、何がわからなかったの?」
ブルーノは気怠そうにお茶を飲みながらそう言って来た。
「全部よ。というか、いつからわかっていたの?」
「お嬢様ってバカなんですか?それで本当に大丈夫なの?」
ブルーノがそう煽ってきた。ムネリが冷たい目でブルーノを見る。
「お嬢様は確認をされているだけだ。それに、我々はまだお前を信用していない」
確認というか、本当にわかっていないんだけれどね。いや、解ったこともあるんだけれど、ちょっと知りたい事がいっぱいなんだよね。
「そうね。ブルーノを信用していいかわからないし、あなたがどうしてそう偽悪的な行動を取るのもわからない。まあ、優秀なのはわかるんだけれど、今のままなら私の側にはいらないわね」
ブルーノのこの演技がムカつくのだ。
「これは僕が持つ特殊なスキル『演技』を使ったんだ。誰かを演じ、マネすることで僕はその誰かが持つスキルやステータスをマネることができる。今回ちょっと性格は最低だけれど『探偵』というスキルを持っているものを『演技』したんだ」
そういう面白いスキルがあるんだ。
「もちろん、誰でも『演技』ができるわけじゃない。このスキルは制限がかなり多いんだ。演じる人となりを理解していないと『再現』できないからね。僕が『演技』できるのは『父』とこのミルザ王国に来てからずっと演技している『探偵』だけだよ」
なるほど。まあ、私を模倣されて魔法をぶっ放されても困るしね。
「それに、筋力や魔力依存のスキルは真似できない。僕の身体が壊れちゃうから。だから僕が使えるのはここを使ったものくらいだ」
そう言ってブルーノは自分の頭を指差す。
「そういうスキルなのね。面白いわ。ということはブルーノは戦えないということなのかしら?」
戦えないのに虚勢を張っているという事なの?
「戦えないわけじゃないさ。ただ、僕が直接戦うようなことにしないだけ。それに舌戦で負けたからと言って殴りかかってくるのはただの野蛮人のすることさ。そうだろう?」
ブルーノはそう言ってミューズを見つめている。え?私じゃないよね?私はそんないきなり殴りかかるようなことはしないわよ。
ちゃんと手加減できるし。
「そうね。直接戦うだけが戦いじゃないですもの」
さっちゃんがそう言ってきてくれた。そうだよね。さっちゃんは軍師タイプだもの。というか、辞書?アーカイブ?まあ、そういう感じだものね。戦闘系ではない。
「それで、いつから異変に気が付いていたの?」
私がブルーノにそう尋ねたらまたムカつく感じで返ってきた。
「いつからだって?そんなの最初からにだって決まっているじゃない。そうベルティック侯爵領を出て、このミルザ王国に来た時から。そんな事もわからなかったのかい?それとも、その程度の覚悟で他国にやってきたとでもいうのかな?違うよね?そうだよね。そうに違いないよね」
ああ、もう野蛮人だって言われてもいい。殴りたい。顔の原型がわからなくなるくらい殴り続けたい。そう思っていたら後ろからミューズがぎゅって抱きしめてくれた。いつもはぷにぷにしてきてもうって思っていたけれど、なんだか落ち着けた。いつも通りだって思えた。
「今回の件についてよ。どこに違和感があったの?だから介入したのでしょ?」
そうだ。不思議だったのだ。ブルーノはミルザ王国に来てから意味不明な行動はしていても、行動を起こさなかった。今回は無理やりに介入してきたんだ。どうして?
「そうだね。僕には紹介してもらえていない人がいるじゃない。それにさぁ。なんか距離があるからお近づきになれたらって思うじゃない。だから、ちょうど面白そうな事件があったから首を突っ込んでみたって感じかな。でも、僕が介入しなくてもそこの変態さんは気が付いていたんじゃないのかな?」
ブルーノはムネリを見つめる。
「誰が変態ですか。私はただむちっとしたふとももを愛しているだけです」
「それが変態なんだよ」
ついムネリの主張につっこみを入れてしまった。ってか、ムネリも気が付いていたの?
「ムネリどういう事?あなたも気がついていたの?」
私は疑問を投げかけた。
「気が付いていたとはナジーブラ殿下の件についてですか?何か起きているかと思っていましたが私どもには関係がないことなので無視しておりました。私どもとしてはナジーブラ殿下などどうなろうとどうでもいい事です。タリーク殿下が行方不明の方が問題ですから」
確かにそうなんだけれど、ちょっと状況がわからないのよ。
「ナジーブラの件は一件落着でいいのかしら?そして、ナジーブラの件はタリークとは関係ないということであっているのかしら?」
私がそう伝えるとブルーノがこう言って来た。
「ナジーブラの件はヒントが多すぎた。あれは杜撰すぎる。けれど、タリークについてはヒントが無さすぎる。タリークの方の相手は普通じゃない。だからこそ教えてくれ。足りない情報を埋めるためにな」
「ならば、ちゃんと知っていることを言ってからね。ブルーノのことをまだ信用できないから」
すぱっと返したつもりになっていたがブルーノは盛大なため息をついてきた。
「じゃあ、今回の件について話すよ。まず朝から騒がしかったから、ヌーフに王宮見学しに行くから同行するようにと伝えたらすごい嫌な顔をし出してね。でも、僕は一人で行こうとしたら付いてくるというからついてきてもらったんだ」
ブルーノのその笑顔を見てヌーフがどれだけ嫌な顔をしたのがわかった。
「それで、まずタリークの寝室を見て思った。人が歩いた後があるけれど、隠ぺいもされていた。あれは見知った人間が歩いたとも見えるけれど、もう一つは床に足をつけずに移動したのではと。荒唐無稽な考えかもしれないが天井に汚れがあったからね」
普通はそんな人外がいるとは思わないものね。それにそんな人外がいるのならナジーブラの件も似たような感じなのかと思ってしまう。
「次にナジーブラの寝室を見て解った。この部屋は長らく使われていない。つまり、ナジーブラの行方不明は何かを隠ぺいするためなんだってわかるでしょ。これでわからないバカはいないと思うんだ」
なんでこう、ちょいちょいブルーノは煽って来るんだろう。いつか力いっぱい殴ってやる。
「朝の散歩でわかったのはこれだけ。で、次にナジーブラの姉であるフェリアルが突撃してきただろう。あのフェリアルって思いついたら特攻しかできないバカだけれど、なぜか間違ったことはしないんだよね。動物的勘というか。それで、ナジーブラの今いる場所にイレスティア王女殿下が関係しているか、それともアルダーブ公爵が関係しているのかどちらかだと思ったんだよ。これはまあ、フェリアルの動物的勘が正しいとの仮説からだけれどね。それで、誰か行方不明とかこの場にいないとかがあるかなって部屋を訪問したってわけさ。すると、イレスティア王女殿下の方は誰も欠けていない。ああ、会ったことがない人間も姿は見えなくてもいるかいないか位はわかるよ」
ってか、マジでブルーノって怖い。
「後はこのアルダーブ公爵邸の人たちがいつも以上に慌ただしかったから、何かあるなって思っていたんだよね。この段階までは『そうだったらいいな』程度だけれどね。んでね、そこからまずディートリンデ王妃が暴れ狂っているという話し、そして、ディートリンデ王妃の仕事を文官がしているって話しを聞いてナジーブラの行方不明の事件の全容がわかったんだよね。これだけ情報あればわかるよね?」
なんでこう毎回煽って来るんだろう。わかるわけないじゃない。
「え~、本当にわからないの?まず、王妃が行う仕事を文官が代理で行うことなんてない。だって、そんなことが許されたら役職と承認権限がむちゃくちゃになっちゃうでしょ?」
うん?なんかよくわからない言葉が続いた。どううこと?
「つまり、上席が承認する仕事を部下が勝手に処理してよいってことになってしまうでしょ。それくらいわかるよね。例えばイレスティア王女殿下が知らないのに、勝手に僕がイレスティア王女殿下の承認を出したらどうなる?」
「そんなことしたら暴れるわ」
「そう、つまりそう言う事。つまり文官は本来なら王妃が承認してはいけない書類がないか、また何か変な申請が起きていないかを調べているということでしょう。この状況から王妃印が盗まれたんだってわかったんだよね。ならば、ナジーブラが持ち出した犯人だろうと。すると侍女も居なくなっているということだから、初めは王妃の部屋から持ち出しやすいものを依頼し、徐々にハードルを上げ、最後に王妃印を盗んだんだろう。おそらく文官を困らせるために問題となる書類も混ぜたんじゃないかな。楽しそうだけれど。くくく」
その笑い方は悪人のそれだ。
「どうやってナジーブラが騙されたのかはわからない。けれど、結構この侍女に執着していたみたいだから思春期の男の心にするっと入ったのか、母の愛情の代わりなのかわからないけれど騙されたんだろうね。そして、自分が騙されたことに気が付いたけれど、行ったことの重大さからナジーブラは逃げ出した。まあ、元々寝室に居なかったことを考えるとその侍女の待機部屋あたりにいたんだろうね。そして、そのまま逃亡。逃亡した先で運悪くアルダーブ公爵がナジーブラを保護したってところだろうね。ただ、状況が状況のため、そのまま保護をしたとだけで終わらせることができない。その下準備中なんだろう。そろそろ下準備も終わる事だろうからナジーブラは見つかるんじゃない?これがナジーブラ行方不明の事件の真相じゃないかな?」
なんというか、あんな点と点だけでわかるようなものなのだろうか。でも、この侍女って何者だったんだろう?
「侍女って何者だったんだろう?それに侍女は後ろ盾が必要なんでしょう?」
「まあ、後ろ盾になって貴族はここ最近なぜかお金がなくなり焦っていた貴族だろうからね。そうじゃないとこんな変な侍女の後ろ盾なんかしないよ。金で動いたんだろうね。そして、この侍女はおそらくどこかの国の間者だろう。イレスティア王国であるとは思えないし、聖ブブロ王国はこんな事をしなくても司祭を送り込めばいいだけ。イース帝国なら密偵や暗殺を先にするだろう。だとするとオザーム東方連合国の間者だろうね。おそらく王妃印は見つかるだろう。けれど、何の情報を持ちだしたんだろうね。そこまでして取りたかった情報が何かまでは推測できてないよ。そこまで推測するには情報が足りなさすぎる。これがナジーブラ行方不明の詳細さ。さあ、僕は話したよ。これで信用できるようになったでしょ。なったよね。なら、話すべきだ。できるでしょ?」
ダメだ。どう考えてもブルーノを信用することはできない。けれど、こいつを敵にする方が怖い。
どうしよう。私は不安そうな目でさっちゃんを見つめたと思う。
「まあ、信用するかどうかは別ですが、ブルーノが優秀なのは理解できました。ただ、それだけですね。ただ、敵ではないと思います。今の所は」
「当たり前じゃない。僕は敵対しないよ。君たちがちゃんとベルティック領の事を考えてくれるのならね。あの地には守りたいものがあるんだ。ちゃんと統治者として君臨してくれるのなら協力をしてあげるからさ」
なんで上から目線なんだよ。その後リーリカを紹介したら、ブルーノはこう言って来た。
「タリークが居る場所の候補がわかったよ」
はい?これだけの情報でわかるというの?




