~改変は失敗したけれどこれからもがんばりましょう~
~改変は失敗したけれどこれからもがんばりましょう~
目が覚めたら知らない天井だった。周囲を見渡す。知らない侍女と目があった。
「あなたは?」
「お待ちください。声をかけてきます」
侍女のうち一人が扉を開けて出て行った。目があった方の侍女は控えているだけだ。
「私はどれくらい眠っていましたか?」
「この部屋に連れて来られてから2時間ほどになります。それとお嬢様以外、離宮に居た方は皆さん死亡が確認されております」
しばらくするとお父様がやってきた。
「エリー、大丈夫だったか。心配したんだぞ。離宮は燃えていたし、騎士が突入したが、見つけられなかったんじゃ」
あれ?その騎士に私は殺されそうになったんだけれど。はて?
でも、父上を疑いたくはない。
「今回の離宮の件だが流石に『魔薬』があったことは公表できない。それに不審火だとしても離宮にいるものが『すべて亡くなっている』のならともかく、生き残りがいるのなら誰かが『責任』を取らなければならない」
なんだろう?父上の説明がどこか引っかかる。
「その『責任』とはだれが取るものなのでしょうか?」
「あの離宮の管理責任者はエリーだ。本来ならばエリーに全責任を取ってもらう必要があるのだが、申し訳ないが、今は『誰』が『敵』なのかわからない状況なのだ。だから、エリーに罪を被ってもらい、王族から降家させ、一領主として地方領主になってもらう。エリーを毒殺しようとした実行犯も死亡したし、その後ろにいるものも不明なままだ。後はたかだか執事長が『魔薬』を取り扱えるとも思えぬ。だから、悪いがエリーには一旦罪を被ってもらう。何、悪名がついたとしても一時だけだ。わかるな?」
これは私が頷く以外の返答はないのだろう。それに、私は毒殺だけじゃなく実際に殺されそうにもなっている。
それが誰の手によるものなのかわからないのだ。父上なのではと思ってしまったが、よく考えたら『魔薬』にしても『毒殺』未遂にしても私が冷遇されるより前から行われていることだ。
だとしたら他に黒幕がいると考えるのが正しい。
「わかりました。地方にいってひっそりとします。それで、どのような話しに落ち着かせるのでしょうか?」
「そうだな、『エリー』が『魔力暴走』をさせて『離宮にいるものすべてを焼き殺した』という事にする。実際遠くから『離宮』付近が火事になったことを目撃したものは多いし、現在は『離宮』は全て『焼け落ちている』のだ」
煙に巻き込まれたが全てが焼け落ちたというのは納得ができなかった。だが、父上がいうのだから『そうなのだろう』と思った。
悪辣女王エピソードにあった魔力暴走による離宮全焼という事実は変えることができなかった。
「それと父上。離宮に生き残りはいなかったのでしょうか?」
一縷の望みを持ってそう確認した。
「ああ、離宮内や地下道も確認したが生き残っているものは誰一人いなかった。といっても、人数までは全て確認できておらぬ。地下は一部崩落したため、人の判別はできなかったからな。調査も大変だったからすべて死んだということにする」
ごめんね。あれだけ私の事を慕ってくれていたのに。誰も生き残っていないなんて。
「落ち着いたら現場を見に行くことは可能でしょうか?」
「ああ、実証見聞のため立ち会うことになる。だが、あくまで調査の一環であることを忘れるな」
父上はそう言って離れて行った。私は一人になった後、地面を2回蹴った。
「リーリカ。助かったものはいなかったのかしら?」
そう伝えると「チョウサ、スル」とだけ返ってきた。一人でも助かって居て欲しい。そう願ってしまった。
私は一日だけベッドで養生させてもらえたけれど、翌日から屈強な騎士二人に挟まれて行動することになった。
この騎士二人はずっと無口なのだ。しかもかなり眼光が鋭い。正直怖いのだ。
まず、離宮というか、離宮跡地に向かった。離宮は全焼しており、焦げて、むせ返る臭いがしていた。
なんというか、埃っぽく生臭い感じだ。
形が残っている死体には鋭利なもので切られたり、突き刺された後があった。いや、現場検証している兵士たちが死体に槍を突き刺しているのを見てびっくりした。
「な、何をしているのですか?」
「いえ、生きているのか確認するために行っています」
その確認のために槍で刺してるとか怖すぎなんですが?
「生きているものがいたら大問題ですからね」
横に居たずっと無言だった騎士がぼそっとそう言って来た。
「これからエリザベート様を守るために真実を変えるのです。知っているものが居たら困ることくらいわかりますよね?」
「・・・はい」
圧に負けた。怖かった。でも、これだと生きているものを探すことはできない。つらかったけれど、現場検証を終えることができた。
離宮がなくなったため、私はしばらく王城の一角で生活することになった。
王城の廊下であまり会いたくない人物と出会った。
目の前に現れたのか赤い髪を短く刈り上げ、体の大きい男性がいた。彼の名前はソリューシュ・フォン・イレスティア。イレスティア王国の第一王子だ。
第一王子であるソリューシュは全属性持ちだ。だが、性格は最低。傍若無人。歳は私より10も上だ。
「出来損ないの妹よ。お前魔力暴走させたんだってな。だっせぇ。まあ、お前はこれから俺様のために死ぬ気で尽くすがよい。よかったな。魔力暴走させたお前でもこき使ってやるからな」
私には兄が2人、姉が1人いる。この第一王子が残念な性格だから王太子になれないのだ。そして、未来の悪辣女王はこのソリューシュを殺しているんだよね。
まあ、このソリューシュなら私じゃなくても誰か他の人が暗殺しそうなんだよね。ただ、ちょっと強いから軍部にも顔が効くから面倒なのよね。
「その時はよろしくお願いします」
とりあえず、無難に返事しておこう。
「そうか、そうか。解っているじゃないか。そのまま俺様の下僕になるがいいわ」
そう言ってソリューシュは去っていった。あれが暗躍とかはできそうな感じじゃないわね。そのまま私は王宮の一角にあてがわれている部屋に入った。
部屋といっても、塔の上にあり、鉄格子で覆われている王族用の監禁部屋だ。鉄格子の前にはこちらに背を向けた騎士が立っている。
私は床を2回蹴った。影が揺らぐ。
「リーリカ。影の中のまま聞いてちょうだい。離宮にいたもので誰か生き残った人はいましたか?」
小声でそうリーリカに尋ねる。リーリカはこう伝えた。
「ヒトリダケ、シンデン、デ、ホゴサレテイタ」
神殿か。ということはオムスリが保護してくれているのだろうか。だが、ばれたら大変なことになる。私はオムスリ宛に手紙を書いて、リーリカにこっそり渡してほしいと伝えた。
生き残っていたのは少年執事だったエルリックだ。だが、エルリックが生きていたと知られたら殺される可能性がある。
ただ、オムスリが言うにはエルリックはおでこにやけどを負い、皮膚が少しひきつっており、人相はかなり変わったと言う。
それと、よほどショックだったのか、髪が白髪になったという。名前を「リック」と変え、少年を育てていくと教えてくれた。
その状況を聞いて思い出した。
神殿には最強の騎士と呼ばれるものがいた。その騎士はおでこにやけどの跡があり、白髪だったという。確か名前は『リック』だった気がする。
悪鬼『リック』は神殿が抱える最強の騎士だ。その騎士は誰よりも不正を嫌っていた。特に魔薬を扱う地下組織がいた場合全員を皆殺しにしていたという。
私は本当に歴史を変えられているのだろうか?
少し不安になった。ただ、私は父上から騎士二人をつけられ西のはずれにあるカージェス領の領主として降家させられることとなった。
そう、悪辣女王が8歳の時に領地にある村一つを焼き尽くしたと言われる領地だ。そして、もう一つ。私が育った場所でもある。